オフィサー
圧倒的な強さだ。パラディンが強いのは身をもって知っていたがまさかここまでだったとは。決して相手が弱い訳ではない。各々が妖精の楽園を楽々単独でクリアできるような化け物ばかりだ。今の俺では逆立ちしたって勝てっこない。
「さぁ!暴力はやめて話し合おう事情を聞かせてくれ!」
パラディンは拳を握り熱く語った。ジャスティスパンチ、最初の頃は訳分からなかったが今見るとあれは空絶と同じ原理である気がする。
奥から軍服の男が拳銃を片手に出てくる。先程の俺の逃走劇はこの男に見逃されて成立したものだった。オフィサーは轟音に眉一つ動かさず、妖精の鱗粉を見て息を止めた。彼のみが資料を見ていたのだろう。無気での攻撃は通じるという情報は他の上級者には意図的に回していなかったようだ。
試されている。そんな気がずっとしていた。
「うちのものが失礼を働いてすまない。話し合おう。」
そういうとオフィサーは丁寧にあらましを説明した。
「ふむ!それでは君たちが悪いな!初心者君の身体の自由を蔑ろにした!」
オフィサーは堂の入ったお辞儀をする。
「すまなかったな。オーガよ。手荒い真似をした。お前の自由は尊重されるべきだ。」
「いやいや構わないよ。オフィサー。しかしこちらは貴重なドロップ品を使わされたんだ。それの補填さえしてくれれば何の問題もないよ。」
パラディンの後ろで踏ん反り返って告げる。レアな一年期限のドロップ品だ。最低でもCランクの商品は分捕ってやろう。
「そこで一つ提案があるのだ。パラディン。君をオーガの教育者であると見込んでの提案だ。」
この男中々上手いやつだ。パラディンのヒーローの次に好きな言葉である教育者という言葉を巧みに使った。
パラディンは満更でもなさそうな顔をした。
「なんだね!言ってみるがいい!」
「彼の教育を私達に一任してみないか?」
何ふざけたことを抜かしているのだ。
パラディンも流石に渋い顔をしている。当たり前だ。結局最初の俺への要求と同じじゃないか。
「パラディン。君の教育者として生徒に熱く心で向かい合う教育はこれから私達が参考にしなければならないものだ。」
オフィサーが雄弁に語る。
「しかしその教育にも限界があるのではないか?」
パラディンが食ってかかる。
「なんだと!私は最高峰の教育を生徒に施しているぞ!」
「パラディン。君に刀は教えられないだろう。」
痛いところを突かれた。パラディンもこれには堪らず苦虫を噛み潰したような顔をする。
「こちらには万の武器を使いこなす上級者がいる。彼の素養を伸ばす為にはこちらで育てるのが一番良い。」
パラディンは悔しそうな顔をする。オフィサーは励ますように言った。
「何、世の中適材適所だ。先ほど述べたように君ほど熱い指導をできるものはそういない。うちに以前から君の指導を熱望するメンバーがいる。代わりと言ってはなんだが、そいつらの面倒を見てやってくれないか?」
オフィサーの後ろの上級者達が青ざめる。対照的にパラディンは目を輝かせる。まずいパラディンは求められると弱いのだ。雲行きが怪しくなってきた。




