空絶
この女は暴れたら面倒。そう答えたのだ。彼女ほどの実力者。それが数名いても俺が暴れたら困るのだ。
どうやらこの話し合い俺にも勝機はあるらしい。
上級者である彼らがここまで警戒しているもの。それはなんだ?俺のセンスか?一番ないだろう。俺のクエストクリアの経緯まで知っているのなら俺のセンスはただ直感がいいことだけなど既にバレている。
現に後ろ手で縛られただけで俺は何もできない。彼らが未知なもの。一年期限のミッション報酬。それ以外には考えられない。おそらくドロップ品の名前は知っているが効果までは分からないのだろう。
しかし俺にはスキル【空絶】と妖精の鱗粉の効果はわかる。俺が洞穴で殺した彼の瞳がまだ俺のことを見ている。そう感じるのだ。
何かまずいことを言ったとチャイナ女は気づいたのだろう。こちらを睨んだ。
「何か文句でもあるの?坊や。」
「いえいえ、滅相もございません。」
そう言いながら顔を伏せ首を大きく横に振る。何度も何度も風を仰ぐように。
「お主何をしておる!」
暗闇から杖をついた爺さんがでて怒鳴る。
だがもう遅い。辺りに轟音が響き渡り俺の椅子を叩き壊した。スキル【空絶】。妖精から受け継いだ不可視の斬撃だ。
室内で少し不安だったがなんとか椅子が壊せるほどの火力はでた。上級者とはいえこの轟音には面食らうらしい。隙をついて妖精の鱗粉を具現化し辺り一体に撒き散らす。
爺さんがいち早く戦闘態勢に入ったが一番大声をだしたせいで一番鱗粉を吸い込んだ。他の上級者達も戦闘態勢をとるが空絶で乱れた気流も相まって多くのものが鱗粉を吸う。
一応説明しておくとこれは即効性の意識を飛ばす鱗粉で軽度の麻痺作用がある、女妖精の鱗粉だ。
一部息を止めた上級者達の攻撃を死ぬ気で避けて部屋から躍り出た。ボロボロの廃墟だったので外へは簡単に出れた。
椅子の残骸がまだ俺の後ろ手を縛っている。後ろから上級者たちが追いかけてくる。戦える訳もなく、無様に走り、道にでる。そして力の限り叫ぶ。
「助けて!パラディン!」