上級
ファザーの言ったことが想起される。この世界には三つ派閥がある。一つはこの世界から脱出しようとするまともな派閥。一つはこの世界で暮らしていこうとイカれた派閥。一つは次の階層を目指そうとするさらにイカれた派閥だ。
どうやら一番イカれた派閥に目をつけられたらしい。しかし何故俺なのだ。
「お前の戦歴は既に調査済みだ。初ミッションでは蜘蛛の目を噛みちぎり生き延びる。二回目のミッションで一年間期限のEランク長期ミッションを三ヶ月でクリア。」
ミッションが完璧に把握されている。この男はなんだ。
この世界ではポイントを使えば大抵なんでもできる、そう呟いて彼は手元の資料を俺の足元に投げつけた。いつ撮られたか分からない顔写真が貼られており、名称不明と書かれていた。
事細かにこの世界でしたことが書かれている。
「お前に上級と初級について教授しよう。ミッションランクA〜Dは上級。F〜Iは下級。Eがボーダーの中級くらいだな。」
これまで散々初心者呼ばわりされていたが割と明確な区分はあったのだな。
中級クラスか。
「その程度でほいほい声をかけるのだな。」
俺よりもある程度センスのある奴でEランクくらいならいけるやつは初心者にかなりいるだろう。
「話は続くぞ。一年期限のクエストでは話は別なのだ。滅多に現れないがその凶悪さは階級を一つ飛び越える。よって、オーガ。お前は実質Dランクの上級クエストをクリアしたんだ。」
「二回目で上級をクリアできる人物をあの教会に留めておくのはもったいない。そう思って今回呼んだのだ。」
なるほど。大体理由は把握した。
「しかし、これだけの人数を集めてしかも縛り上げるだなんて、随分臆病な団体なのだな。」
首をすくめてオフィサーは言った。
「何、皆暇だから新人の顔を見たいだけだ。」
嘘をついたな。直感で感じる。
隣にいる中国女の顔を見る。彼女の白髪は肩で切り揃えられており、白い肌に赤い口紅、紫の目尻でどこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「なによ坊や。あなたの場合は暴れたら特に面倒そうだから私が一番近くで見守ってたのよ?」
思いの外、素直な性格らしい。オフィサーの顔を覗き見るとのっぺりとした無表情だった。
ふむふむ、焦りを隠しているな。彼は中々優秀な人間なのだろう。その男が今の発言を聞いて無感情はないだろう。
湧き出てくる恍惚感を無気で抑えつける。




