剣戟
横にステップして剣をかわす。すぐさまもう一本の剣が左下から伸びてきようとしたので、勢いがつく前に足で押さえつける。
無気。ほんの一瞬目を瞑り、敵意を消して喉元に軍刀を突き刺した。鎧のない関節部分を狙ったはずが刃が通らない。慌てて抜いて距離を取る。
今度は十字の斬撃。バックステップでさらに距離を取る。宝石の王は刀を十字に振るった。ギリギリ鼻先に刃が掠った。宝石の王は一足で距離を詰めると連撃を浴びせてきた。
最硬の防御力、最凶の攻撃力、最速のスピード。
それらを紙一重で連撃をかわしていく。反撃の隙させ与えてはくれないのか。足で土を蹴りフルフェイスの顔に浴びせる。
敵の腕に軍刀を持ったまま右手を絡ませて膝蹴りで相手の腕を折る。
「これでイーブンだ。」
楽しい。口角が上がるのを抑えきれない。宝石の王も心なしか笑っている気がする。
相手もこちらも右手のみ、だが馬力の差は歴然だ。こちらは一発でも食らったらアウト。敵は関節に刃を喰らっても跳ね除ける防御力がある。実際にイーブンなのは先読みで対応できるスピードのみ。
連撃は片手でも止まらない。ぽたりぽたりと左肘から血が滴る。全力でかわしてカウンターを狙う。夢のような時間だ。永遠と続いて欲しかった。
何度目かのカウンターで敵の膝に剣を突き立てた。当然の如く弾かれふらつく。片膝をついた。なぜか立ち上がることができない。軍刀を持つ力にも手が入らず思わず落としてしまう。
時間切れか。とうの昔に体は限界を超えていたがそれをポーションで誤魔化し馬車馬のように酷使していたがそれも限界を迎えたらしい。
宝石の王は少し驚いた後、また退屈そうな様子に戻り剣を振り上げた。火の手は俺達の周囲を取り囲んでいた。辺りは楽園から地獄に変わり燃え盛る炎は憎悪で全てを燃やそうとしているかのようだった。