聖糧
ノンダクレは俺に振り返り大袈裟に両手を広げて叫んだ。
「さぁ!神を讃えよ!」
ノンダクレはどこかイカれている素振りがある。訝しんだ目で見るとノンダクレはこう告げた。
「疑うのならパンを手に持ち食べるといいさ!」
ノンダクレがかけた歯を見せ朗らかに笑う。だが、俺はどうにも嫌な予感を拭いきれなかった。初手こいつに殺されたからいまいちこいつを信じ切れてないのか?
いやそうじゃない。なにかがおかしい筈だ。
俺は前世では迷宮に潜ることを生業としていた。だが怪我によって活動がままならなくなり、餓死寸前の時に聞いた噂をもとに川に飛び込んだ。
その噂とは川に流されて死んだら異世界に転移できるらしちという噂だった。結果として俺はおそらく異世界転移できたのだろう。
だがしかし現れたノンダクレにいきなり殺されかけた。否、殺された。ここは本当に天国なのだろうか。
まずノンダクレの言う通りここでは本当になんでも手に入るのか?そこを突き詰めなければいけない。
パンを手に取ろう。だが…
「ノンダクレ!そのパンをこちらに投げてくれ!」
リスポーン地点であるこの場所。ここから動くのは得策ではない。
「へぇ」
ノンダクレが初めてこちらを見た。そのように感じた。
その様子をみて初めて疑念が確信に変わった。こいつは信じてはいけない。
台の上を見る。こいつが後生大切に持っていたガラスの酒瓶がない。
「気づいたんだなぁ!やるじゃねぇか!お前はセンスがあるなぁ。そうさ、これは等価交換の台だ。なんでもくれる便利なものじゃない。なぜ気づいた?」
なぜ気づいたのか。それは...
「お前が飲みかけの酒瓶で俺を殺した時にお前が酒をもったいないと感じていたからだ。お前の言う通り無限に酒を出せるならそんな感覚とっくに麻痺してる筈だ。
そしてその酒はおそらく俺のような初心者を騙くらかし等価交換して得た酒だろう。ここでは死なない。だが等価交換では別じゃないのか。」
ノンダクレは天を仰ぎ見て重いため息を吐いた。
「まぁいいか。コツコツ酒代稼ぐかぁ。あんちゃんの言う通りだよ。俺はしがない初心者殺しさ。初心者は30ポイントに変換できるんだよ
あんちゃん、審査場にいきな。あんちゃんならきっと生き残れるよ」
嘘ではない。やっとノンダクレが本当のことを言ったと分かった。
ノンダクレはとぼとぼと教会の出口へと歩き出した。
「まってくれ!ノンダクレ!最後にここは何か教えてくれ!」
ノンダクレはこちらを見ることもなく気怠そうに答えた。
「地獄だよ」