ルール1
首元を必死に抑えて溢れ出る血を止めようとする。だが血は止まらない。止まれ止まれと首を強く締める。気づけば血は出ていなかった。
まぼろしか…?
ステンドグラスからは変わらず陽光がさす。立ち位置が戻っている。はっと思いなおし、後ろを見ると暫定浮浪者、否、人殺しが俺の後ろに立っていた。まぼろしではなかったのだ。
「ふふっ、そんな目で見るなよ。こちとら優しく天国でのルールを教えてやってるんだぜ?」
ふざけるな。そう口に出そうとしたが奴の右手の酒瓶を見て抑え込んだ。
俺は一度、いや二度死んでいる。川で溺れて一回。この人殺しに殺されて一回。そして二回とも蘇ったのだ。信じ難いが認めるしかない。
そして蘇る場所はこの場所で固定されているのだろう。奴が言うには天国。訳がわからない。少しでも情報を集めなければ。
「やっと話を聞く気になったな。お前のせいで酒が一本台無しだ…。」
明らかに俺のせいではないのに割れている酒瓶を悲しそうに見つめそう呟いた。
「それで、人殺しよ。ここは何だ?俺が死んだことは認めた。」
「あんちゃん。人殺しはねぇぜ。せめて飲んだくれと呼びな。」
どうでもいい。
「ここは文字通り天国だよ。ここでは死ぬこともないし、やるべきこともない。一日中酒を飲みたきゃ飲めるそんな場所だよ。欲しいものだって何でも手に入る。」
こいつの情報には過分に嘘を含んでいる。そう感じた。
「そう睨むなよぉ。まぁどれ。証拠を見せてやるか。」
ノンダクレはそう言って割れた酒瓶を台の上において十字架の下に座り込んだ。
勿体ぶった手つきでノンダクレが十字を切ると台は光に包まれそこにはパンがあった。
まさに超常。神の所業だ。ノンダクレは無からパンを生み出したのだ。
「信じてくれたか。あんちゃん。こんな奇跡が起きる場所天国以外にどこだって言うつもりだ?」