良い夜を
それでは良い夜を。そうファザーは告げると部屋から去っていった。
部屋を見回すとベットが一つと机が一つあり、前世の借家よりも随分立派な作りであった。
ベットに腰を落とし、前世を思い浮かべる。前世ではただ上を目指して向いていないことに生涯を捧げていた。ここでは自分の戦闘センスを活かせるだろうか。
体は前世に比べて非常に軽い。ステータスを見る。
職業 【鬼】
スキル【直感 2】
ステータスの表示は前世と全く違うらしい。レベルもなければ攻撃力も防御力もない。
ファザー曰く、ポイントをためて元の世界に戻るといっても自分が死んだ世界に戻れるかは分からなく記憶も消去されるらしい。
願ったり叶ったりだと俺は思った。ミッションを適度にこなしてコツコツポイントを貯め、次の人生では自分に向いていることをして幸せに暮らそう。
ベットに寝転び明日に備えて目を閉じる。しかし、地下蜘蛛の戦いが脳裏にフラッシュバックする。
眠れない。体が震える。あのような闘争をこれから何度もしなければならないのか。地下蜘蛛に噛まれた腕を見ると外傷は一切なく、前世よりも血色は良いくらいだった。
ミッションでの傷はクリアすれば完治する。完治するといっても心までは治してくれない。
体は震え続けている。ふと何となしに顔を触ってみる。なぜか口角が上がっていた。笑っているのか。
笑うだなんて数年ぶりだ。しかも死闘を思い出して笑うなんて。
頭に馬鹿げた考えがよぎる。実力だけが全てで理不尽なレベル差もないこの世界。もしかしたら…。
戦いたい。もう一度あのミッションに連れて行ってくれ。そしたらこの気持ちがはっきりと分かるだろう。