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修羅道  作者: サムライソード
邪悪な魔女の箱庭
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人型

空から流れ出た無数の魔法によって瓦礫が点在する更地となった戦場には竜と龍と黒い鎧を纏った俺。


上空には禍々しい黒い魔力を纏ったウィッチが佇んでいた。彼女はこちらを観察しているのか?攻撃を加えようとはしていない様子だ。


空気が震えるような振動と甲高い音が鳴り響いた。宙を漂う黒龍の口元に黒い球が浮かんでいる。黒よりももっと黒い、漆黒の中には小さな粒子が飛び交っている。様々な色の粒子が恐ろしいほどの圧力で凝縮されてあの漆黒を形成しているのだ。


あの黒い球を打たせたらまずい。直感でそう感じ、足裏から怨力を放ち黒龍に飛びかかった。赤黒い軌道を描いて一直線、レーザーのようにブレードを形成して首元に飛びかかる直前、四本足の黒い竜がその巨大に見合わぬスピードで俺に突進をした。


軌道が曲げられ目標の斜め後ろにズラされる。クソ

、あの竜巨大な双翼を利用して地上を高速で移動できるのか。黒竜が元々いた場所には抉られたような地面だけが残されている。俺の予想だが、怨力と同じようにあの翼の裏で風の魔法を創り出し、それを地面に放つことであの巨体を俺を超えるスピードで放っているのだろう。


巨大な胴体から愚鈍なタイプだと勘違いしていたが黒竜は俺を上回るスピードを持っている。ただ怨力を噴出している俺と、ひと手間加えて魔力を魔法に変えて移動している黒竜とは年季の違いを感じさせた。


斜め後ろに黒龍を捉えながらそう思考を巡らす。あの黒龍を倒すことよりもその本丸、ウィッチを倒すことに意識を向ける。すると黒竜が翼をはためかせ俺に襲いかかってきた。


こいつ、俺の敵意を読んだのか。利口な奴だ。やはりこいつらをどうにかしなければ。黒竜の巨体を転がるように受け流し、避ける際に怨力で作ったブレードを二本突き刺す。


黒竜はそれをものともせずにこちらに向き直った。スピードもあれば体力もあるのか。宙を浮く黒竜と黒い鎧が睨み合いを続ける中、黒い球はどんどん巨大化していく。


急いでこいつとの決着をつけなければ、黒い球が完成した時、俺の死は確定する。死の恐怖が怨力を増大させ黒い鎧から怨力が漏れ出した。


まずい。そろそろ怨力の制御が効かなくなる頃合いだ。ブレードを二本形成し、黒竜に飛びかかるが黒竜は空中で前脚を挙げてその爪を振るう。ブレードで防ぐが竜の圧倒的な力を前にブレードは砕け散った。まさかこいつ力もあるのか。


竜が回転して尻尾をブレードが壊されて呆然としている俺に叩きつけた。


地面に叩きつけられる。怨力が衝撃を吸収しながらも地面に転がった。視界の端ではピンポン球ぐらいであった黒い球は既に俺の身の丈ほどにまで成長している。


時間をかければあの黒竜を倒すことはできるだろうが、それまでにあの黒い球は完成して禍々しい力を解き放つだろう。敗色濃厚。万事休す。


地面に寝転び、空を飛ぶウィッチを見つけた。何やら魔法陣を空中に描き、何かを創り出そうとしている様子だ。あっちもこっちも準備をしているようで先程よりも慎重に立ち回っているようだ。


それはそれで好都合だ。奴らが準備に夢中になっている隙に俺が捻り潰せば良い。最後の手段と決めていた。加速薬を口の中で三つ具現化させた。歯と歯でそれを噛み砕く。心臓に沸騰した熱湯を注がれたような熱が訪れる。呻き声が漏れ出た。心臓から血液に、血液から脳みそに、その熱が伝わると脳は激しく収縮しのたうち回るように暴れた。


「あぁぁぁぁぁぁ…!!」


脳みそが一通り暴れた後、最後に一つの拍動を残して、熱は消えた。頭が冷水につけられたようだ。どこまでも澄み渡り、世界の全てがスローに感じる。


あの時の、宝石の王との時のこの感覚だ。いや、それ以上に濃密な時をゆっくりと進んでいる。足元に怨力を固めてそれを風に変えた。生温く血の匂いがする風が辺りを漂った。


「呪風空絶。」


足元の地面を抉り、空へと舞い戻る。風が鉄筋の壁のように空の道を塞ごうとするがそれすらも貫いて黒竜の首元へ飛び込む。


反応できない黒竜の喉元にブレードを突き立てたがさすがはBランクの最高峰の実力。僅かに刺さった程度で首を切るには至らなかった。


黒竜がその右足で首元にとどまる俺を愚鈍な動きで引っ掻こうとしたがそれを避け、その右脇に更にブレードを突き立てる。


針山のようにブレードを突きつけられた黒竜はそれでも動きを止めない。両肩から怨力を噴出し呪風空絶の勢いそのまま黒竜の背後に回った。ブレードを両手に生成し、無防備な双翼に振り下ろす。


「呪空絶。」


黒竜に襲いかかる黒い斬撃は狙いそのままに双翼の根元を削った。黒竜は翼をもがれて地面に墜落していった。轟音を立てて地面に叩きつけられた黒竜はもう俺のスピードにはついてこれまい。


ウィッチと黒龍。どちらを狙うか逡巡しウィッチへと軌道を向けた。


「呪風空絶。」


その時、巨大な黒い球を作り続けていた黒龍は動きを止めた。黒い球が空気を巻き込み渦巻いている。どうやら完成してしまったらしい。しかしウィッチを殺せたら関係ない。またあれほどの威力、ウィッチに俺が近づけばウィッチ諸共俺を呑み込むことになるだろう。


迷いなくウィッチに突撃すると、驚くべき光景を目にした。黒龍がその黒い球を貪り出したのだ。どういうことだ?黒い球を一瞬にして残らず貪り尽くした黒龍はこちらを見た。


しかしこちらもウィッチまで手を伸ばせば届く距離まで一瞬で辿り着く。何を企んでいるかは知らないが、俺の勝ちだ。


その時、黒龍と目が合った。身の毛がよだち全身が粟立った。黒龍が姿を消す。ウィッチに手を伸ばそうとしたその瞬間人型をした龍が俺の行手を阻みウィッチと俺の間に割り込んだ。


まさか三匹目か!?手を伸ばす俺を人型の龍は蹴り飛ばした。黒い鎧が砕ける。無様に地面に叩きつけられた。


あり得ない。怨力の鎧を蹴り一つで壊すのか?起き上がり地上を見ると既に黒龍はいなかった。


上から俺のことを見つめる人型の龍と目が合った。

間違いない。あいつが黒龍だ。


膨大なエネルギーを黒い球に凝縮していた黒龍はそれを食べ、生物として新たなステージに立ったのだ。顔は人間と同じだがその頭に刺さる二本の角と爬虫類の瞳孔が黒龍と同じだ。


人型をしているが両手、両脚には禍々しい龍の面影、強固な黒い龍の装甲を纏っている。全身も人の皮のように見せかけているがよくよく見ると黒い鱗が集まって、黒い皮膚を形成しているようだ。


恐ろしい。今までのミッションで敵を見て明確な恐れを抱いたのは初めての感覚だった。こいつは強い。今まで出会った中でも一番の敵だ。こいつの強さはあのパラディンにも届き得るだろう。パラディンを想起させるような禍々しい強さを奴は纏っていた。


戦うな。直感が悲鳴を上げた。


「ははっ!」


こんな自分がいたのか。やはり戦いは面白い。思わず笑ってしまった。加速薬の効果も切れたようだ。体に倦怠感が纏わりつく。怨力を抑えつけることも次第に難しくなり出し、時間切れの予感がすぐそこまで迫っていた。


逃亡しようとする体を叩きつけた。これから起こるすべてのことに対して覚悟を決める。これから先は俺もどうなるか分からない。その結果死ぬか、生きるか。


砕けた黒い鎧を再生させようと今も怨力は出ている。この三ヶ月の訓練で思考を保ったまま怨力を調整し戦うことは出来るようになったが、その先はまだ訓練していない。


その先、怨力を限界まで放出し理性の手綱を離す。怨力の暴走状態だ。



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