表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
修羅道  作者: サムライソード
邪悪な魔女の箱庭
103/129

対話

気づけばミッション前の小部屋にいた。直感を超えたような、元から知っていたかのような答えをすぐに思いつく。


「これは夢か。」


手には雷切が握られていて、服装もいつも通り、しかし直ぐに夢だと分かった。これが明晰夢というやつか。


小部屋のドアが開いた。そこから俺とまったく同じ服装の男が出てくる。黒髪で垂れ目、顔にはまだ若さが残る日本人が出てきた。


「こんにちは。」


近所の人に挨拶するように男は声をかけてきた。俺も見知らぬ男に戸惑うことなく自然と手を挙げて答える。


「どーも。」


「隣に座っても良いですか?」


人当たりの良さそうな笑みで尋ねてきたので了承する。男は腰掛けるが何を言うでもなく黙っていた。


互いに喋らず刺すような沈黙が辺りを漂った。いつもはこの部屋ではミッション前の緊張に囚われることが多かったのでどこかこの感じは新鮮に感じた。


「いやぁ。なんか喋ることもないですね〜。」


頭をポリポリと書きながら男は言う。


「じゃあなんでその扉から出てきたんだ?」


「いや、懐かしの人に呼ばれたもんでしてつい。」


照れ臭そうに男は笑う。


「そうか、呼んだのは俺の方だったな。これは失敬。俺はオーガだ。よろしくな。」


「僕はサムライです。俗っぽい言い方したらもう一人のアナタですね。今更よろしくって言うのも変ですがよろしくです。あなたをずっと見てましたよ。オーガさん。」


男と握手を交わした。苦労してなさそうな柔らかな手だ。まるで女子のようだなと考えるとそれが伝わったのかサムライが気まずそうな顔をした。


「申し訳ないですね…。こう言うもう一人の自分みたいな展開って強化フラグだったりするんですけどどうも僕が足を引っ張ってるみたいで…。」


「やっぱり、虐殺について色々考えているのはお前か?」


「う〜ん。そうですね。ウジウジしてて申し訳ない。僕の思考がどうやらオーガさんに伝染してるみたいで。僕はダメなやつですね。」


俺は鷹揚に手を挙げた。


「何、気にすることはない。日本で暮らして育っていたらそういうことを考える余裕もあるだろ。むしろ倫理観を備えてるそっちの方が俺は人間として優秀だと思うぞ。」


ちなみに何で虐殺はダメなんだ?ウィッチに聞かれた時に上手い答えを出せなかったのでもう一人の俺、サムライに聞いてみる。


サムライは難しい顔で唸り出した。一通り悩んだ後捻り出すように答える。


「何がダメなんですかね?なんというか、多分取り返しのつかないことをしてるなって言う感覚がダメなんだと思います。大抵のことってある程度失敗しても取り返しがつくじゃないですか。受験に失敗しても、働けば良いし。人に迷惑をかけても謝ったらそれで済むし。」


まぁ謝って許してくれない奴もいるとは思うがな。それを堪えて彼の話を聞く。


「でも、人は死んだらそこで終わりじゃないですか。死者蘇生なんてこの世界で生まれ変わるぐらいしかないし。なんというか、全ての光が閉ざされたような感じが嫌なんです。だから他の選択肢をつい探しちゃうんですよね。」


ほら、最悪四肢がもげても生きてりゃなんとかなるじゃないですか。戯けたように彼は言う。


彼の言うことを理解して告げた。


「まぁ、この世界にはあんまり向いてないのかもな。」


彼は胸を切られたかのように胸を抑えて落ち込んだ様子で言う。


「うぅ。その通りですね。僕は出来るだけ引っ込んでおきましょうか?今回は結果的にジャンヌちゃん殺さなくても上手く行きましたけど、これからはこれが致命傷になるでしょ?」


そう言う彼を慌てて引き留めた。


「いや、引っ込まないでくれ。むしろ出てきて欲しい。意外と今の自分には満足しているんだ。今までの人生は与えられた環境で貫くまで走るみたいな人生だったから、お前みたいに悩むのは新鮮なんだよ。」


彼は目を丸くする。勝手にお払い箱に入れられると思っていたらしい。


「本当に?」


「嘘をつく必要はないだろ。それに悩んだ末に答えを出してその上で誰かを殺していく道を選ぶ方が、今までの何も考えずに殺すよりはマシだろ?」


彼は一瞬この小部屋の置物に擬態するかのように固まり、吹き出した。


「ふふっ。面白い人ですね。オーガさん。普通の人は悩みとかストレスとか避けるのが普通だと思いますよ。僕みたいに。」


彼の発言に釣られて笑う。


「はっ。自分に面白いとか言うお前も面白いな。またゆっくりお前の話聞かせてくれよ。」


彼は笑顔で頷いた。段々と彼の顔がぼやけてくる。夢の終わりはすぐそこらしい。朦朧としながら最後に質問をする。


「次はいつ会えるんだ?」


「会えるも何もずっと一緒に居ますよ。あぁ!言い忘れてました!キリガヤには気を———————」


消えかける意識の中で最後に彼の言葉を途中まで聞いて完全に意識は飛んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ