学生
「わ、私もお願いします!一応大事な人がいたかとか知りたいし…。」
どこか申し訳なさそうにウィッチを見ながらリンクは言った。
「いいさね。別に思い出したからと言って元の世界に帰れるわけでもない。」
大した自信だ。ウィッチが杖を腰から抜いた。
「いいかい。思い出すって言っても全部思い出すのは脳みそに負荷がかかり過ぎるから一場面だけ思い出すよ。そこからは連鎖的に日を跨いで思い出すだろう。まぁ十ヶ月もあれば十分さね。覚悟はいいかい?」
雷切を持つ手に力が入る。謎の緊張が体を走った。リンクも同じ心情のようだ。果たして何が俺を変えたのか。失われた記憶を思い出すんだ。
「頼む。」
「はいっ。」
ウィッチが杖を泳がせて唱えた。
「いくさね。ユニース。」
彼女がそう唱えると目の前の世界が徐々に崩れた。崩れた端からどんどん入れ替えられる。耳に人の喧騒が届いた。最後のピース。ウィッチの顔が塗り替えられた時、世界は完成した。
教室。目の前に大きな黒板と学生達が戯れている様子。休み時間だ。手には本を持っていた。先生が教室に入ってくる。黒い学生服をきた生徒達が蜘蛛の子を散らしたように元の席に戻っていった。
プツンとテレビが切れたような音を立てて世界が元に戻った。
「そうだ。思い出した。」
思わず口から言葉が出た。なんで忘れていたのだろうか。俺は学生だ。ごく普通の学生だ。でもそれしか思い出せない。
ウィッチをチラリと見ると、ウィッチがなぜかひどく警戒していた。机がカタカタと音を立てて揺れている。彼女の視線の先をみるとそこには三日月を口に浮かべたような不気味な笑みを浮かべたリンクが佇んでいた。
「お、おい…。どうしたんだ?」
独特の雰囲気に包まれたリンクに気圧されながらも話しかける。彼女は夢から覚めたように顔を上げ辺りを見回した。
「あれ!?猫ちゃんは!?」
そう言って彼女は周囲を手当たり次第に探すが現実に戻ったことに気づき赤面した。
どうやら猫を見ていたらしい。ウィッチが胸を撫で下ろした。
「あんたの大事な人は獣だったみたいだね。」
「獣って言わないでください!猫ちゃんです。」
リンクが怒鳴った。ウィッチは気にせず笑う。ウィッチの杖が突然こちらを向いた。
「ん?あんた、まだ思い出してない記憶があるみたいだよ…?」
「どういうことだ?二部分、記憶が消えてるってことか?」
「そうみたいさね。なんだかまったく違う場所で記憶が消えてるみたいだよ。とりあえず、オーガが今思い出してる奴が全て思い出せたらもう一度あたしのところに来な。」
二部分も忘れるとはどうやら俺は忘れっぽい性格らしい。老後が心配だな。
まぁゆっくり待とう。どうせ時間は腐るほどあるのだから。そのままウィッチとしばらく談笑した後既に日常の一部屋となった自室で夜を過ごした、