魔力
ウィッチはひとしきり今後の展望を語った後何も喋らない俺達を見兼ねて部屋を去った。
残された青い家の住人達は何を言うでもなく彼らに与えられたであろう部屋に戻っていった。
翌朝、部屋の前に立つ人の気配で目が覚めた。ノックの音が聞こえる。ドアを開けると両腕に腕輪をつけた女が立っていた。リンクだ。
「おはようございます。オーガさん。ウィッチさんが呼んでるそうなので行きましょう。」
黙ってついていく。今度は部屋と反対側の塔まで歩かされた。この建物は外から見ていたゴシック調の建物でいいだろう。頭が尖ったアーチ状の窓が至る所についており建物は常に光で包まれている。
部屋には上品に紅茶を飲むウィッチがいた。小汚い魔女の家に住んでいた面影はなく、まるで貴族のような振る舞いだった。
「何か用か?ウィッチ。」
「いや、ベールとジャンヌのことを感謝したくてね。彼女達が生きていなかったらきっと今の休戦もないだろう。」
ここまでの展開を予想して生け捕りにした訳ではなかったので少し返事に困った。
「ベールのことは残念に思う。良い奴だった。」
ウィッチは軽く笑った。
「そうさね。良い子だったよ。素直な子でね、魔法の才能もあった。防御魔法の使い手なんで今後三十年は出てこないと思うよ。本当に勿体ないぐらい良い子だった。」
魔法少女達の魔法。疑問に思っていたことをウィッチに尋ねた。
「その魔法とやらはスキルなのか?ウィッチ達の魔法は習得できるものなのか?」
炎や岩、果ては重力まで操るなどこの世界ではかなりの強スキルだ。それを人間が操っているのならば俺にも出来るのではないだろうか。
「まぁスキルと言えばスキルだけどそれよりも高尚な物だよ。上位スキル。そうよんでたね。オーガが使うのは無理さね。あんた達とあたし達は同じ人間とは言え臓器が違うんだ。あたし達には源力を魔力に変換する魔臓が心臓の裏にあってね、そこで魔力を練って魔法を使ってるんだよ。」
「まぁ魔臓を持った人間なら向き不向きはあるものの四十年も修行したら大抵の魔法は使えるようになるよ。」
それでも四十年は修行するのか。割りに合わないな。
「ちなみにウィッチは何年魔法の修行をしてるのだ?」
百年くらい修行をしていても不思議ではないな。この婆さんの場合は。
「そうさね。今思い返すとざっと五百年くらいか。その内の百年は世界のシステムを改変する為の魔法を研究してたから実際は四百年くらいか。まぁだいたいそんなもんだよ。」
あたしと戦う気になったかい?そう好戦的に老婆は微笑んだ。
「冗談じゃない。まっぴらごめんだ。」
手を軽く振って透かすとウィッチは驚いたようにこちらを見た。
「意外だね。初めてうちに来た時のオーガはなんにでも喧嘩を売りそうなものだったんだが、丸くなったもんだ。」
丸くなった。彼女の言う通りだろう。俺は今弱くなっている。無駄に虐殺をする気もないから当たり前だ。
彼女の部屋のソファに腰をかける。
「はぁ…。俺はもう疲れたんだ。今まで俺のしてきたことは唯の虐殺だったってことに気づいてな。快楽の為に殺してきたことを今反省中なんだ。」
出来る限り明るく言おうと努めたが無理だった。どうしてもこれまでのすべてが徒労に思えてやる気がなくなる。
老婆は紅茶を飲んで告げた。
「あんな尖ったナイフみたいだったあんたがそんなことでウジウジしてるのか。」
言葉とは裏腹に彼女は息子の成長を喜ぶような眼差しをこちらに向けていた。