表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
simple code  作者:
戦場の少年少女
5/22

始まりのあの日


死のために生まれ、生のために死にゆく

戦場にいる人間にはそれしか与えられないのさ

—————————マルエクシス軍人:ビル・カルツェ(2296~2374)


1

 数ヶ月前。


『シミュレーション終了。ハッチ開きます』


 そうスピーカーから聞こえ、ゆっくりと正面のハッチが上がってゆく。シミュレーション設備はエデンに所属している9人分用意されている。外から見ると無機質な白い立方体で、内部にはデコードのコクピットが忠実に再現されており、各自敵機対戦シミュレーション等を行なっている。いくら高適合であれ、いきなり実践というのは武器も何も持たず戦場へ突っ込んで行くこととなんら変わりない。

 シミュレーションは実戦時同様パイロットスーツを着用して行われている。シミュレーション時は9人全員真っ白のパイロットスーツで統一されている。

 ソラは箱の中から出るとゆっくりと部屋を見渡す。今回のシミュレーショントレーニングはもう1人、フィリアという少女も参加しているが、姿が見えないことから推測するに、どうやら手こずっているらしい。今回のシミュレーションレヴェルは最高難度と言っても過言ではない。この難度が行われることはほぼ無いが、今回行われたのには理由があった。

 明日、エデン出身者初の実戦が行われるからだ。エデンは第1~第4世代まで、それぞれ男女ペアで構成されている。明日から2週間のうちに9人全員が実戦を行うことが決定している。その初日。作戦内容としては、前線への量産機用武具、電力の輸送。その間敵小隊との衝突が予測される。こちらも、2小隊+第1世代2名での輸送のためそう難しい作戦では無い。

 空気の抜ける音が聞こえ、ゆっくりとハッチが開く。フィリアもどうやら終わったようだ。


「お疲れ」

「ごめんね。待たせちゃって」


 そう言って小走りで駆け寄ってくる。流れるようなルーズサイドテールの金髪、吸い込まれてしまいそうな金眼、細身でまるで陶器のように肌が白く壊れてしまいそうな少女。


「別に気にするな。今日失敗しても、明日成功すればいいだけだろ」

「それは、そうだけど。ソラは緊張しないの? 私はもう心臓バクバクだよ」

「緊張してるけど、もう決まったことだし俺たちじゃどうしようもないだろ。それに、シミュレーションと違って小隊の方も一緒なんだ」


 そう、自分にも言い聞かせる。死ぬことはないだろう、その言葉が口から出ることは一度もなかったけれど。


「今日は早く寝て、明日に備えようぜ」

「そうだね」


 シミュレーションルームから出てカフェテリアに向かう。無機質な、埃ひとつない廊下。


「おつおつ~」


 どうやら先客がいたようだ。深緑色の瞳がゆっくりと開かれる。気怠げな感じは普段と変わらないが、どうやら2人の分の清涼飲料水を用意してくれたようだ。


「ありがと。ノア」

「いえいえ~。ほら、ソラさんも感謝しちゃってくださいよ~」


 うざったく絡んでくる、Eden's 5th childの少女ノア。


「少しは休ませろ。今週末にはお前も実戦なんだぞ、少しは緊張しろ」

「私もノアくらいメンタルが強かったらなぁ」

「別に、緊張してないわけじゃないですよ。ただ緊張して縮こまってるよりこっちの方がいいでしょ?」


 ゆっくりと振り向き、ガラスの外を見る。建物の一角にあるカフェテラスは全面ガラス張りで、外がよく見渡せるエデンの皆の休憩スペースでもあった。彼女は一体何を見ているのだろう。青空か、無数にある雲か、はたまた…。


「じゃ、明日、頑張ってくださいね」


 それだけ言って自室のある方へ去っていく。

 エヴォルといいノアといい、エデンには気まぐれなやつが多い気がする。

 特に話すこともなくなり2人の間に静謐が訪れる。


「やっぱ2人ともここにいたのね」


 そんな中、1人の女性の声が響く。

 黒の長髪をを靡かせ、2人の前にやってくる。エデンの子供たちにとって母とも呼ぶべき存在ニア。エデンに引き取られた子供たちの世話をしてくれたまさに母親と呼べるであろう。当の本人からはマムと呼ぶように言われているが、どうやら母親という意味らしい。


「ミーティングにはまだ時間ありますよね?」


 およそ40分後に、明日行われる作戦の最終ミーティングが行われる。


「えぇ。その通りだけれど、その前に色んなところ見学したいじゃない? 2人とも初めてエデンから出るわけだし」

「ほんとですか! 私、セントラル博物館に行ってみたいんです!」


 セントラル博物館は美術品、考古遺物、動物、植物、古代生物等の資料収集保管、展示公開、調査研究、普及などを目的として建てられた、マルエクシス最大の博物館である。フィリアは小さい頃から星や既に絶滅した動物の興味があってようで、よく関連した本を読んでいたことをソラは覚えていた。


「えーと、そこまで時間はない、かな。ミーティング後にならいけるんだけど」

「じゃあミーティング後にいきましょう!」

「わかったわ。でも、遅くまで見れるわけではないからね。今日は早く寝なきゃね」


 子供扱いされるのが少し不満なのか少し口を尖らせていう。そういうところも子供っぽくはあるが。

 各自準備を終え、外へとつながる扉の前に立つ。封印された扉といっても過言ではない。物心ついてから一度も外に出たことなんてないのだから。

 ゆっくりと扉がスライドして開かれる。照りつけるような太陽の日差し。何処からか聞こえてくる人々の話し声。心地よい風が頬を撫でる。

 外界。

 どう言葉にしていいかわからなかった。ただ、美しい事は確かだった。


   ◇   ◇   ◇


 30分程の散歩を終え、軍事施設内へと入る。最終ミーティングもそうだが、今日初めてこれから登場することになる機体と対面するのだ。

 施設内の廊下を進み、突き当たり右の部屋に入る。二重扉を開けると、小隊長2人が既に待っていた。


「お疲れ様です、ニアさん。お待ちしておりました」


 立ち上がって言う。第5小隊隊長ビルと第8小隊隊長リョウだ。前々から気が付いてはいたが、やはりマムはなかなか高い地位にいる人物らしい。


「2人とも、こんにちは。それでは早速で申し訳ないが、最終確認を行うよ」


 マムを挟むような形で、隊長に向き合うように席につく。


「「よろしくお願いします」」

「今回協力してもらうのは前線への量産機用武具、電力の輸送、及びその護送だ。リョウの第8は輸送メイン。私が率いる第5は護送メインだ。君達は第5と共に行動してもらう。道中敵国2小隊と衝突が予想されている。1小隊で2小隊相手取る為一人当たりの負担は大きくなるが、緊急時は第8からサポートが入る。難度的にはそう難しくはないはずだ」


 陣形としては鋒矢状で、矢印後部に輸送カーゴおよび第8が位置し、矢印傘部分に第5、矢印全部にソラとフィリアが位置するという形だ。敵機発見次第拡散、カーゴから距離を取りつつ各個撃破。第5が離れた時点で第8から3名が護衛に回る、と簡単に説明するとこういうものだった。

 その後、前線基地へのルート、衝突後の第5、第8の行動パターン等の説明を受けた。

 最終ミーティングが終わったのち、2人は基地中枢にあるEden's デコード保管ベースに向かった。


   ◇   ◇   ◇


 ミーティングに次ぐ2人にとって大事な事。それは、2人の専用機に初めて対面することだ。前日というのは遅すぎる気がするが、マムの事だ。何かあってこの時にしたのだろう。

 両開きの扉がゆっくりと開き、その姿が少しづつ見え始める。1番手前に、白と黒の機体が立った状態で向き合い、固定具に脚部、腕部、胸部をそれぞれ固定されている。そしてその隣には03~08とナンバリングされたシャッターが閉じられ、世代ごとにペアになって向き合っている。施設の突き当たりには09の数字がナンバリングされたシャッターが閉じられている。第5世代のミライだけはペアではないからだ。ミライがEden最後の世代であり、ペアがいないのは何かしら理由が存在するのか、マムからは特に理由も説明されていない。十数年間共に暮らしているから今更気にならないのも事実であった。

 ゆっくりと歩みを進め、2機の足元へたどり着く。対照的な色の2機。


「白の機体がソラのレヴァテイン、黒い機体がフィリアのヴィソフニル。これからあなた達の友となり体の一部となり、鎧となるもの」

「すごい、ね」

「あぁ」


 2人とも言葉を失っていた。十数メートル、目の前に聳え立つ機体。今までシミュレーションをしてきたと言っても、自分の期待を視認できたわけでもない。複数人で協力する作戦のシミュレーションであっても、システムの簡略化が目的か、或いは意図的にか全機体の外観が量産機と同じになっていた。

 共に戦ってきた存在が目の前にある。何故か不思議と一体感も感じられた。

 白い機体に赤いライン。頭部に一本のアンテナ。横には体長の3分の2程度ある一本の剣。かつて北欧に存在した国々に伝えられてきた北欧神話に登場する災厄の剣が由来のレヴァテイン。頭部のアンテナが天を貫く剣のようだった。

 対照的に、純黒の機体に鮮緑のライン。頭部には2本のアンテナ。肩部には2丁のサブマシンガン。サイドスカートには短剣が装備されている。レヴァテイン同様北欧神話に登場する世界樹を照らし出す雄鶏ヴィゾーヴニルが由来である。

 ソラは感動と共に、確かな興奮を覚えていた。巨大ロボット。幼い頃、誰しもが夢見たであろうそれが、目の前にあるのだから。

 作戦は明日。

 時は止まることなく、流れ続ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ