楽園の少年少女
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私達は何なのでしょう。
正義も悪も、全ての境界線がなくなった今、我らの胸の中にある正しさはいったい何なのでしょうか。
天を翔る鳥のように、自由に生きられたら良かったのだけれど。
——————ルストル・ヴァン・クリストフ(2295~2397)
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『3,2,1,Decode's Leg fixture is released. After 60 seconds, the chest restraint is released and Start descent.』
デコードのコクピットフロントモニターから、降下の合図がなされる。宇宙から作戦が開始されることはほぼなく、今回の作戦の重大さがうかがえる。
チキュウが太陽の光を反射し青く見える。かつてのチキュウには25%程しか砂漠は存在してなかったようだが、現在はチキュウのほとんどが砂漠に覆われ、緑色というのはほぼ確認することができない。
スペースコロニー外部に固定されている2機のデコード。チキュウに面する側を縦に長い菱形のカバーが覆っている。デコードは機体性能は優れてはいるが、チキュウ大気圏内もしくは大気圏外のどちらか一方で作戦を行うようにしか作られてはいない。その間を移動する事は滅多になく、そこを考慮してしまうとただ期待の質量が増加してしまい、機動力が低下してしまう。よって、今回の様に後付けで装備をつけることがままある。
このスペースコロニーの所有国家であるマルエクシスは計9機の主要機を所持しており、主要機の搭乗者は全て、デコード高適合者育成施設:エデンに所属する子供たちである。
今回の作戦メンバーは1st・7th childrenである、ソラとエヴォルである。
ソラが搭乗するレヴァテインは近距離特化型で、剣を中心に戦闘を行う。初の主要機ということもあり、他の主要機と比べ圧倒的な機動力を誇る。背部に長いスラスターを持つ純白の機体である。
対して、エヴォルの機体であるクロロスは遠距離サポート型であり、背部には対物ライフルを常時装備している淡紅色の機体である。
敵国駐屯領域への奇襲としては妥当の配備であろう。
「あの人程実力はありませんが、今日はよろしくお願いしますよ、おじさん」
ソラのメインモニターにエヴォルが映し出される。
「おじさん言うな。まだ20もいってねぇよ。そもそもフィリアとは役割が違うんだ。比較対象にはならないだろ」
「そんなこと言ってないで、早く作戦に集中してください。もう降下始まりますよ」
「こいつ…」
作戦が始まる。
3.2.1.
Start descent!
胸部拘束具が解除されたことにより、機内に大きな衝撃が与えられる。補助スラスターが噴射され、スペースコロニーから離れ、大気圏に突入していく。カバーが赤く光り、その熱を視覚によって感じることができる。
いつの頃からか。抵抗なく作戦を行える様になったのは。躊躇いなく敵機を破壊できる様になったのは、人を、殺せる様になったのは。
いつからだろう。俺が、なんなのか知ったのは。
今日も今日とて、手を血に染めてゆく。
自分たちの存在価値のために。ただ、生きてゆくために。