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サラリーマンは考えた。

作者: tani

ほおずき団地の今日のお話。

「あなたって本当にシュリマズルね。」


 週の始まり月曜日の夕食時、唐突に妻が言う。

「シュリマズル?」「

 聞いたことのない言葉が部屋にこだまする。


  シュリマズル…?何の話だ。最近ちょっとおでこが広くなってきたことか?アプリゲームに課金しているのに気付いたか?それとも健康診断の結果か…いや、バスで寝過ごしたことを呆れているのか…。やばい、色々ありすぎて何を言いたいのか絞れないぞ。…たぶん誉め言葉ではないだろうな。シュリマズルか。なんでこういう時に限って宏太は202号室の友達の家でご飯食べてんだ。はあ、怒られるのか俺。いや怒られるのか?くそ、シュリマズルって何なんだ。


 考え込んでいる間にさんまの塩焼きがぐちゃぐちゃになってしまった。はあ。


「何やってるのよ。」

「ああ、ごめんごめん。」


  誰のせいだと…。何かしゃべってくれよ。頼むから。怒ってるかどうかもわかんないよ。真顔だし。最近不機嫌なこと多いよな。だから宏太は遊びに行ったのか。さすが俺の息子。ママの機嫌を伺う能力に長けてやがる。お、今日の味噌汁うまいな。それにしても味噌汁のじゃがいもってなんでこんなにうまいんだろうな。そうか、味噌汁おいしいね、でママの機嫌を伺えば…。


「今日の味噌汁おいしいね。」

「いつもと変わらないわよ。」


  うわ、これはどっちだ。“いつもそんなこと言わないくせに”か?それとも“昨日の味噌汁はおいしくなかったってか”って感じか?今日は後ろ向きにしか考えられないぞ…。わからんが謝っとくか。いや、待て。なにを?どれを?下手にしゃべってぼろが出るくらいなら…。


「ただいまー!」

「おかえり。早かったわね。」

「パパってシュリマズルだね。」

「は?」

「宏太どこで聞いてきたのよ。」

「おばさんが、宏太君のパパはシュリマズルっぽいわねって。」

「浩君ママも同じ番組見てたのね。ママもそう思ったもの。」

「パパー、ゲームしよー。」

「あ、ああ。」

「はやく!」


 息子に急かされて夕食をかき込む。こういう週の始まりも悪くない。ビニール傘を盗られたり、自販機の前で小銭をぶちまけたりしたが、家に帰ればうまい飯を妻が作ってくれていて、息子が遊べとせがんでくる。


  俺は“シュリマズル”だ。きっといい感じの意味に違いない。うん。そういうことにしておこう。


 シュリマズルはイディッシュ語で、不運としか言いようのない人。でもその分、小さな当たり前を幸運に思えるのかも。



ほおずき団地という名前の架空の団地を舞台に、そこに住む人々のさまざまな日常を描いています。一話完結の物語ではありますが、この話に出てきた人物が別の話にちょこっと登場することもあります。ぜひ、ほかの小説も読んでいただけると嬉しいです。

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