第5話「スオメタルの正体」
「あっは! 嬉しい~!! スオメタルも離れないでございますっ! 私とマスターは相思相愛でございますよっ!」
「お前が絶対必要だ」ダンの言葉を聞き、優しい労りを感じ、スオメタルは大いに喜んだ。
「おいおい、《必要》を勘違いしないでくれよ! 王国でいえば、お前は王の腹心たる宰相みたいなもんだぞ」
「華麗にスルー、何もきっこえませ~んでございますぅ!」
スオメタルは、華奢な手で大袈裟に耳をふさいだ。
思わずダンは苦笑したが、彼女の仕草が可愛いとも思う。
「しょ~もね~な。一応、魔王を倒せたから、王女のしごきは鍛錬にはなったかもしれん……」
「はい! たゆまない努力の積み重ね、目的を明確にし理に適った訓練は、絶対に裏切りません! けして無駄にはならないのでございます!」
「ああ、確かに道理だ……王女が鍛えてくれた事に、少しだけ感謝はしている。でもな! 事あるごとに、あいつから、俺は平民のゴミ拾い屋だと徹底的に蔑まれた」
「マスターの性癖は少し行き過ぎの勘もありますが……やっぱ王女、最低でございます! 外道でございます!」
「だな! 親が居ない孤児の俺が……ジャンク屋をガキの頃からずっとやっていたのは単に生きる為だけじゃない」
「……マスター、一応、その理由をお聞かせくださいませませ!」
「おう! 聞いて欲しい! 俺達ジャンク屋は、見放され捨てられたモノを拾い上げ、改めて大切に使う事を勧める」
「はい、やたらモノを捨てず、大切にするのは人の道として、確かに重要でございます」
「おう! ジャンク屋はモノが壊れていたら修理して完全に再生し、求め必要とする人に巡り会わせる崇高な仕事なんだ。俺は大きな誇りを持って臨んでいたぜ」
「マスターのお考え……スオメタルは素晴らしいと思います。世に在るモノは生まれて来た意味、存在価値を明確にし、与えられた役目を全うさせるべきなのでございます!」
「分かってるな! その通り! 人間と同じさ! そういうジャンク屋の意義をろくに知りもせず、貶めやがって! だから、もうあんな王女なんかノーサンキューだ。結婚なんかとんでもねぇ!」
熱く語るダンであったが……
スオメタルが二ッと笑う。
ダンは嫌な予感がした。
「但し!」
「え? 但し? 但し何? スオメタル」
「はい! 何の役にも立たないガラクタやゴミを、やたら拾って来るのはやめるでございますよ」
「いやいや! 俺から見れば世に捨てられるものって、勿体ないモノが多すぎるんだ」
「マスターのお気持ちは重々理解致しますが、モノには限度という事が……」
「い、いやいや、スタップ! スオメタル! 今話してるのは王女の事だろ? は、話を戻そうぜ!」
「うふふ、御意でございまっす! 意地悪王女なんか全く不要でっす! マスターには私スオメタルが、永遠の想い人がしっかり居るのでございまっす!」
「ふうう……永遠の想い人ねぇ……」
何とか話題が変わって、安堵したダンであったが……
改めて目の前のスオメタルを見て思う。
初めて会った……
いや修復し、起動させた時から思っていた。
《想い人》というよりは、《とびきり可愛い妹》のような感覚……
スオメタルはそんな存在かもしれない。
だが、『妹』とは、口が裂けても絶対言えない。
「それと! 勇者のマスターが表向き王国追放という事は、屁理屈を申しますと、マスターがダン・シリウス以外となって入国する分には構わないという事でございますねっ! うふふふっ!」
スオメタルは含みのある言い方をした。
ダンも同意、「にやっ」と笑う。
「その通り。俺は変身魔法を使い、全くの別人に擬態して行く。それゆえ買い物や用足しに支障はない。これまでと全く一緒だ」
「了解です! ならば、私スオメタルもぜひぜひ! 連れて行ってくださいませ! マスターと同じく、別人に擬態致します。私も変身魔法で髪の毛の長さや色、瞳の色も自由に変えられまっす。毎回違う女子になれるでございますから!」
「ああ、全然構わないぞ。一緒に別人になり切って、王都で堂々と買物しようぜ!」
「と、なれば! 私とマスターとラブラブ♡、うきうき初デート! でございますねっ!」
「いや、ラブラブ♡、うきうき初デートじゃないだろ、単なる買い物だって」
「全く何も、きっこえませ~ん! 華麗にスルー。でもでも! 遂にマスターも勇者稼業から完全解放されましたでございますね~」
「ああ、やっとだ」
「うふふ! マスターは勇者というよりも、便利屋というか、雑用係というか、はっきり言って王女の専属奴隷でございましたからね~」
「全くだ! 魔王は倒したから、勇者としての義務はしっかりと果たした。だから今度は人生を思いっきり謳歌する権利の主張だ」
「義務を果たしたのだから当然の権利でございます! 全くの御意でございます!」
「ああ! これで俺は、全てのしがらみから解放され、ようやく自由にのびのびと生きていけるぜ!」
「愛し愛され、想い人の私も居ますしね~、幸せ倍増、夢倍増!!」
「おう! って……ちょっと違うけど、今後とも宜しくな!」
ダンがにっこり笑うと、スオメタルは突如、深々と頭を下げた。
「はい! 私はマスターに対し、本当に本当に! 超が付く大感謝をしているのでございますっ!!」
「おいおい、良いよ。今更」
「とんでもないっ! 私はいつも大きな大きな感謝の気持ちを胸にしておりますゆえ!! 助けて貰ったご恩は絶対に絶対に忘れませんっ!!!」
スオメタルに言われ、ダンの目が遠くなる。
記憶を手繰っているらしい。
「……あの時は、ついジャンク屋やってた時の癖が出た」
「は~い! 王都で、ござを敷いて廃品を売っていた前職の癖ですよねっ! あの時だけは、マスターの性癖に感謝でございます!」
「あの時だけはって……」
「言葉通りでございます。私を拾って頂いた事だけは、大いなる偉業でございます!」
「大いなる偉業か、お、おう、そうだな……その通りだ」
「御意でございます」
「う、うん。さっきも言ったが……捨て子だった俺はガキの頃から、自分ひとりで生きて来た」
「はい、マスターは生まれながらに孤児であったと聞き及んでおります」
「ああ、孤児院の司祭に聞いたら、生まれてまもなく捨てられていたらしいよ。だから、孤児院を出てから、生きて行く為にいろいろ仕事をしたが……行き着いたのが、ジャンク屋。まあその日暮らしな貧乏ジャンク屋だった」
「はい、収入ゼロの日も多々あったと」
「ああ、そうさ。でもジャンク屋が大好きだったから、くず鉄やら、まだ使えるゴミやら何でも拾い、そのまま売れるモノは売り、修理して売れるモノはコツコツ直して売っていたんだ」
「それで私を見つけて……売ればお金になると思って拾ったと!」
「ああ、そうだ。最初はな……単なる自動人形だと思ったからな」
「最初は?」
「おうよ! こりゃ儲けたと思い、古代遺跡で、打ち捨てられていた自動人形のお前を拾って修理した」
「仰る通りでございます」
「でも……修理していくうちに、お前の素性が徐々に分かった」
「はい、マスターいろいろ頑張るのが、私の心へ伝わって来たでございます」
「ああ、ほぼチンプンカンプンだったからな。いろいろ駆けずり回った。勉強もした。それで何とかなった。結果、完全に理解した。お前の魂は人間だと」
「マスター……」
「人形の修理じゃない! 俺はお前の身体を治したんだ。医者か、治癒魔法を使う司祭のようにな」
「でも……マスターは、治した私を売らなかったでございます……自動人形の私を……」
「当たり前だ! 今言っただろ! お前は人間だぞ、人間なんだ! 自動人形は仮初の姿じゃないか!」
「確かに……今の姿はスオメタル本来の姿ではございませぬ」
「おうよ! 俺はジャンク屋だが、薄汚いクソ奴隷商人なんかじゃねぇ! 人間を売れるわけがないっ!」
何と!
悪魔メフィストの告げた通りであった。
銀髪美少女スオメタルは生身の人間ではなかったのだ。
旧時代の自動人形、
それも人間の魂を宿した自動人形……だったのである。
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