第46話「負けません!①」
物悲しく響く人狼族の悲鳴。
『どうしたっ?』
ダンの呼びかけに応えたのは、スパルトイリーダーである。
『マスター、変な奴らが襲来。奴らの攻撃により、留守番組の人狼族が一名負傷しました』
『おう! それで!』
『幸い傷は浅く、命にはかかわりません。ただ盾役たるオーガ族が丁度全員出払っております。侵入者の排除は、我々にスパルトイ軍団にお任せを、出撃許可を頂きたく』
スパルトイリーダーの口調は比較的冷静であった。
危険度はそう高くないと判断したダン。
守護者として、敵を迎え撃つという彼の希望に応える事にした。
『よし、すぐに障壁の小出入り口を開ける。そこから出撃してくれ』
『いえ、そんなお手間は不要です。地脈を通り、奴らに接近し、土中から奇襲します。演出効果も抜群ですから』
思わずダンはイメージした。
スパルトイリーダー始めとした、ガイコツ軍団が土中からぼこぼこと現れる。
確かに登場感は半端ない。
混乱した相手は、隙だらけになるであろう。
『了解! 頼むぞ』
ダンとスパルトイリーダーの会話。
スオメタルの表情などに、ただならぬ気配を感じたのだろう。
妖精猫ジャンと愛娘のケイティが怯える……
否! 全然違った。
期待に目を輝かせて、うきうきしていた。
不敵に笑うジャンが腕まくりをする。
可憐に笑うケイティも指を握り、「ぽきぽき」と鳴らしていた。
『おっ! 出入りか! よっしゃ! 手を貸すぜ!』
『ケイティも加勢します! 人間の道場で武道やってるもん! 免許皆伝よ!』
『おいおい、既に負傷者が出てる。遊びじゃねぇぞ』
『いや、久々に暴れたくなったぜ。ダン、来やがったのはさっき話してた盗賊団じゃねぇか? と、なればニンジャだけは要注意だぜ』
『うん! 注意して、パパと一緒に敵をやっつける! 勇者様! ごはんご馳走になったお礼だよ!』
『マスター、取り急ぎ外へ出るでございます。魔法障壁があるから、敵の攻撃は勿論、侵入も不可でございますゆえ』
『よし! 外へ行こう!』
こうして……
ダン、スオメタルと、ジャン、ケイティ父娘は『城』を出たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンの城から魔法障壁の境界までは、約300mである。
4人は転移魔法で一気に跳ぶ。
予想通りというか、遠巻きにした人狼族に囲まれ、人相が悪い男達が、
そして不可思議な波動を放つ黒ずくめの集団が居た。
今回もジャンの情報は正確であった。
この一団が盗賊団、そして雇われたニンジャ達なのであろう。
盗賊団のリーダーが何か……叫んでいるようだ。
以前人狼族の騒音があったので、ダンは魔法障壁に防音の効果も加えていた。
『防音機能解除っと』
と、同時に男の『がなり声』が響いて来た。
最初はダン達に気付かれぬよう、こっそり忍び込もうとしたらしい。
しかし、どうにもならず「やけ」になったようだ。
「くっそ! 出て来いやぁ! 勇者ぁ! いや魔王に堕ちた外道勇者ぁ! 大盗賊ウジェーヌ様が出向いてやったぞぉ!!」
ダン達が近付けば、中肉中背な革鎧姿の中年男が騒いでいた。
顔の下半分がひげである。
あまり強そうには見えない。
苦笑したダンが大きなため息を吐く。
「はあ、あいつがリーダーか……」
スオメタルも美しい顔をしかめる。
「品性の欠片もない、むさく汚いひげ面でございます」
ジャン父娘だって拍子抜けという感じだ。
「え? 大盗賊ウジェーヌ? そんな奴、情報屋の俺も聞いた事ねぇぞ」
「うわ! アイツ、よっわそ~。ケイティでも、大楽勝って感じぃ?」
と、そこへ!
ぼこぼこぼこ!
先ほど、やりとりした作戦通り、ウジェーヌの傍らの土中から、
スパルトイリーダーを先頭に、十数体のスパルトイ軍団が現れる。
「ひゃああああっ!! ガイコッツぅぅぅ!!」
大仰に悲鳴をあげ、逃げるウジェーヌ。
やっぱり……コイツは大した事がなさそうだ。
と、なれば部下はアイツ以下が確定。
当面の問題は、東方から来たという、黒装束姿のニンジャ軍団であろう。
『お~い、悪即斬するんじゃないぞぉ』
ダンが、急ぎ指示を送ると、スパルトイリーダーが即座に応える。
『はい、マスター。命を失くさないレベルで奴らの戦闘能力を奪い、確保致します』
自信に満ちた、且つ冷静沈着な声。
ダンは思わず破顔する。
『おお、素晴らしい。何か守護者らしくて、そそるセリフだ』
『当たり前です、マスター! 私達はドラゴンの歯の化身、あのようなヘナチョコ盗賊に負けるわけがありません』
『了解! ニンジャには気を付けろよ』
『はい、万全の注意を! ……我々スパルトイ軍団は、マスターが持ち返ったあんなでくの坊に負けません!』
いろいろきっぱり言われてしまった。
スパルトイリーダーが指摘した『でくの坊』とは……
ガルドルドの遺跡にあった魔道具の守護者だろう。
レストアして使うと、ダンは配下達へ伝えてあったから。
変なところで、ライバル意識が生まれたな。
でも切磋琢磨してくれるなら、全然オッケーだ。
各自が武器をしっかりと構え、ウジェーヌ率いる盗賊団へ整然と突進するスパルトイ軍団。
古のドラゴンの骨に魂が宿った彼等は、前世は一流の剣士達である。
その上、何度倒しても復活するそのしつこさ、もとい、粘り強さは他者を根負けさせ、無間地獄の境地に陥れる。
更に深謀遠慮のスパルトイリーダーは真剣ではなく、魔法で強化した木刀で武装し、出撃していた。
また急所への攻撃を避けた為、相手に打撃を加えても致命傷には到っていない。
だが盗賊団には、戦闘不能に陥った者が続出した。
スパルトイ達へ押し込まれ、たまらなくなったウジェーヌが音を上げる。
「お、おい! ニ、ニンジャ軍団、出番だぁ! マスターシン! た、頼むぜ!」
マスターシンと呼ばれた黒装束のやや大柄な男がニンジャ達のリーダー、
つまり首領らしい。
「スパルトイを相手にしろ」と言われて、あからさまに不満を見せる。
「何だ? ウジェーヌ。我らの相手は勇者ではなく、このような不死者か?」
「な、な、何言ってる! こいつら、つぇえ! 半端じゃねぇ!」
「……仕方がない。者共、行くぞ!」
「「「「「応!」」」」」
マスターシンの命令に対し、短く応えたニンジャ軍団が戦いに参加すると形勢は逆転する。
ニンジャの剣技や体術は通常の剣士が使う技とは違っていた。
相手の死角から、予備動作なしで、ストレートに的確に、ピンポイントで急所を狙うのである。
加えて、常人より遥かに俊敏な動きが攻防の力を著しく増加させていた。
徐々に……
スパルトイ軍団は押され始めた。
彼等は不死の人外ゆえ、完全に斃される事はない。
しかしニンジャ軍団の攻撃は凄まじく、スパルトイ達は復活する寸前の無防備な状態で容赦なく打ち砕かれた。
ここでジャンが叫ぶ。
参戦の頃合いと見たようだ。
『よし、一飯の恩義だ。ケイティ、行くぞ』
『はい! パパ!』
『ちょっと、待った!』
ここでストップがかかった。
制止したのはダンである。
『客人に手間かけさせるわけにはいかない。ここは俺とスオメタルでやる』
『おいおい、遠慮するな、ダン。俺達父娘で助太刀するぜ』
『そうよ、そうよ、勇者様』
『いや、盗賊はともかくニンジャはかなりの腕だ。わざわざ遊びに来てくれたお前達に、かすり傷も負わせるわけにはいかない』
『マスターの仰る通りでございます。私達ふたりで、奴らをまとめてやっつけるでございます』
流石、魔王スレイヤーコンビ。
きっぱりと言い放ったふたりの迫力に、ジャンとケイティは仕方なく、
了解するしかなかったのである。
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