第45話「犯人はあいつでございます!」
鱒料理、鳥料理にと、思う存分舌鼓を打ったジャンは、上機嫌である。
『おい、ダン。今日は遊びに来たついでに、情報も持って来た。ゴチになった礼にロハで教えてやるぜ』
ジャンの情報は確実で、有用だ。
先の遺跡探索が証明している。
ダンも笑顔で応える。
『おう、助かる! 頼むよ』
しかし、何故かジャンの表情が暗くなる。
その理由はすぐ分かった。
『わりぃ! タダで教えるってのは、あんまし良い情報じゃないからなんだ』
『う~ん。先にそう言われると辛いが、ぜひ教えてくれ』
『了解! 情報その1、ダン、お前がめちゃ金持ちだと噂になってる。唸るくらい、金塊持ってるってな』
以前聞いた噂は、本当だった。
ジャンが言うからには、相当、話が広がっているのだろう。
『んな、バカな!』
『いや、間違いない。リシャール王にごねて、密かに莫大な報奨金を受け取ったとか、こっそり魔王の金をちょろまかしたとか、王都中、その噂で持ち切りだぜ』
『おいおいジャン、それ以前も王都の市場で聞いたが、全然違うぞ。お前が見た通り、こうして質素に暮らしてるぜ』
『ううむ、こんなに美味いメシ食って、質素とは言い難いが……』
『いや、鱒や鳥は全部俺達で捕った! いわゆる自給自足だぜ』
『ああ、確かに、魔王を倒した誉れ高き勇者にしては地味ではあるな』
『だろ?』
『まあ良い。じゃあ、とりあえず次! 情報その2、その金塊を狙ってある盗賊団が動き出した。いずれここへやって来るだろう』
『それも聞いたぞ。まあ、でも警備はいろいろ手を打ってある。魔法障壁もあるし、配下も毎日警備している。多分、大丈夫だろ』
『いや、舐めない方が良い。奴らニンジャを雇ったらしいぜ』
『はあ? ニンジャ? あのニンジャ?』
『ああ、あのニンジャだ。それも場末の迷宮に居る、エセニンジャじゃねぇ。東方世界から流れて来た正真正銘のモノホンだ』
『ふううん、本物のニンジャ……そうか』
『ああ、奴らは冷血な殺人マシーンだ。卓越した体力と奇抜な技を誇る究極の戦士なんだ』
ここで会話を聞いていたケイティが、口を挟む。
『でもパパ、勇者様は無敵よ。魔王をあっさり倒したじゃない。瞬殺したって』
『いやいやケイティちゃん、それ違う。瞬殺してない。10分くらいかかってるって』
ダンの言い訳は全く洒落になっていなかった。
思いっきりのけぞるケイティ。
『はあ!? じゅ、10分くらいかかってるって!! 何か言葉の使い方間違ってません?』
『うん、それにとどめを刺したのはスオメタルだし』
ダンがアイコンタクトを送ると、スオメタルは嬉しそうに頷いた。
誇らしげに肯定する。
『はい! 魔王にとどめ刺したのは、このスオメタルでございます』
『はいって……何それ? おば……いえ、スオメタル様は単なる従士ではないのですか?』
『いやいや、ケイティちゃん。スオメタルは強いよ。悪魔とは戦い慣れてるんだ』
ケイティの疑問にダンが答え、スオメタルも同意する。
『はい、魔王は悪魔の親玉でございました。マスターの言う通り、私は、散々悪魔と戦っていましたゆえ慣れておりました』
『あ、悪魔と散々戦った……慣れてたって……』
『それゆえ、マスターが憂さ晴らししろと言ってくれたでございます。だから魔王へ、びしっ!と、とどめを刺したでございます』
魔王にとどめを刺したのが目の前の銀髪少女。
それも先ほどまで、口喧嘩をしていた相手である。
怖ろしい想像と共に、ケイティの心に不安が広まって行く。
『え! じゃ、じゃあ……も、もしかして! あ、あのまま、ケイティとバトルが続いてたら?』
『はい! ほぼ! ケイティにも魔王と同じようにびしっ!と、とどめを刺される運命が待っていたかもでございます』
魔王と同じく、「びしっ!」と、とどめを刺される運命、すなわち死!
『ひえ~!!』
悲鳴を上げるケイティを見て、ダンが苦笑する。
『おいおい、スオメタル、あまり脅かすな。それとケイティちゃん、パパから聞いてなかったの?』
『な、な、な、何をっ? ゆゆゆ、勇者様』
『えっと、俺とスオメタルのふたりだけで魔王軍全部を倒したって』
『き、聞いてました。けど……スオメタルさんの存在は……』
『ふん! 良く知らなかったのなら、私を舐めるのも仕方ないでございますね』
鼻息荒く、胸を張り、平然と言い放つスオメタル。
さすが年の功……とは言えないが、余裕がある。
『パパぁ~! 勘弁してよぉ!!』
愛娘へ両手を合わせるジャンだが、まだダンへ告げる話がありそうだ。
『すまん、すまん。更にここで情報その3、これで最後だ』
『情報その3?』
『ああ、ダン、お前が実は魔王じゃないかって話が出てる』
『な! 俺が魔王!? それって……』
『ああ、お前の暮らしぶりを見て分かった。家来として従えているのが、人間は皆無。魔族ばかりだしな。第三者が見れば、そう取られても仕方がない』
『あ~~!!!』
ジャンからの情報その3を聞き、思わずダンは叫んだ。
ピン!と来た。
ある人外の顔が浮かんだのである。
最後の話を聞き、点が線となり、全てがつながったのだ。
ピースが全てはまり、パズルが完成したと言い換えても構わない。
ダンが魔王を倒した事実が、周知され、金持ちであるという嘘が広まっていた。
また、多くの魔族を従えた事を魔王と流布した事……
以上から、悪い噂を流した犯人の目星がついたのである。
ダンだけではなく、スオメタルも同様らしい。
厳しい視線で虚空を睨んでいる。
『絶対! あいつが犯人でございます!』
スオメタルが言い切った、その時!
ぎゃうん! ぎゃうん! ぎゃうん!
物悲しい、人狼族の悲鳴が城外で上がったのだった。
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