第41話「魔法帝国研究所③」
突き当りの通路へ入ったダンとスオメタルは『探照灯の魔法』により生成された光球を先行させ、慎重に進んで行く。
突き当りの入り口から入り、数十m進んだが……
今のところ懸念した守護者の出現はなし、えげつない罠も仕掛けられている様子もなかった。
先行する魔法の光球は「ゆらゆら」とたよりなく、周囲を照らしながら無事に宙を飛んでいる。
やがて長い通路が終わり……
先ほどのドームより更に何十倍もある空間が開けた。
その広大な空間は……
地下とは思えない圧巻の光景であった。
ダンとスオメタルの前に、独特な建築様式の巨大な遺構がいくつも建ち並んでいたのだ。
全ての建物は石造りであり、表面には細かく複雑な文様が刻まれている。
また建物と建物の間には、黄金色の太い金属製の筒がつながっていた。
床石は滑らかではなく、石のごつごつした表面の味わいを活かした渋いものが、
そのまま使われていた。
あちこちに高さ5mほどもある、石造りの彫像らしき人型が何体も並んでいる。
スオメタルがじっくりと見回すと、大きく頷いた。
そして言い切る。
『マスター、我が故郷ガルドルドの建物に間違いござりませぬ』
ダンも頷き、同意する。
『だな! 俺が探索した帝都の遺跡も同じ造りだった。でも、ここまで行くと研究所単体なんてもんじゃない、ズバリ地下都市だな』
『御意でございます。この規模だと王都まではいかずとも、ヴァレンタイン王国の中規模の街がすっぽり入るくらいでございますか』
『ああ、そうだ。探索しがいがあるぞ。スオメタルの生身の身体が最終目標だけど、最低でも文献やパーツくらいは見つけたい』
『重ね重ね、御意でございます』
『よし、進もう』
ダンとスオメタルが一歩踏み出した瞬間。
ぎがこぉん!
ぎがこぉん!
ぎがこぉん!
金属と石が軋むような音がして、3体の彫像が動き……
やがて立ち上がったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どぉん!
どぉん!
どぉん!
どぉん!
彫像はいきなり動き出し、ダンとスオメタルに迫って来た。
しかしふたりは全く動じない。
想定内であるからだ。
ふたりが交わす会話は自宅で、世間話の雑談をしているかの如くである。
『俺、この景色を見て考えた事があってさ』
『何でございますか?』
『ここ相当広いし、居候も含め全員収容可能だ。いろいろ応用も利きそうだし、少し手直しすれば住めないかな?』
『う~ん。可能だと思うでございますが……どうして? 引っ越すでございますか? スオメタルは今、住んでいる場所が結構気に入っているでございますが』
『ははは、すぐには引っ越さないよ。万が一の場合のバックアップ的な場所さ』
『万が一の場合? バックアップ?』
『おう! 今住んでいるのは、放棄したとはいえ、元ヴァレンタイン王国の領地じゃないか』
『確かに王国が捨て去りし、土地でございます。でも私とマスターにとっては有用な土地でございますね』
『その通り。しかし財政超ひっ迫の王国の事だ。前振りもなくいきなり返せという確率はゼロじゃないぞ』
『え~? 今更返せと言うでございますか? せっこ~い! でございますぅ!!』
『ははは、もしそんな無体な事言って来たとしても、当然俺は完全スルー、つまり無視するけどな』
ダンがそう言った瞬間、スオメタルが前方に鋭い視線を投げかける。
彫像が、すぐそこまで迫っていたのである。
『ジャストモーメント! マスター、とりあえず未来の話は後で。そろそろ奴らの攻撃を防ぐでございます』
『了解! あいつら凍らせて動けなくさせちまおう』
『成る程、この場所だけでなく、守護者も後で使うのでございますね。ならば、粉みじんは避けるでございますね』
『さすが、スオメタル、当たり! その通りだ』
『では! この私にお任せを! でございます!』
胸を張ったスオメタルは、迫り来る石像3体を見据えると、言霊を詠唱する。
『大いなる水界王! 汝の力を我に与えよ! 嘆きの川の冷たき氷で! 未来永劫動けぬよう、我が敵を封じ込めよ!』
一瞬の間。
スオメタルの体内魔力が極限まで高まって行く。
「はああああああっ!!」
言霊は念話。
発動の気合は肉声。
広大な空間にスオメタルが発した裂ぱくの気合が響きわたる。
びし!!
びし!!
びし!!
びし!!
びし!!
びし!!
放たれた魔力が、石像の周囲にある大気をあっという間に凍らせて行く。
がご!
がご!
がご!
氷塊が覆いつくし、迫っていた石像がぴたりと止まった。
『いかがでございます? 解凍しなければ半永久的に溶けないでございますよ』
『お~、さすが! よくやった! 雷撃で行動不能にしても良かったが、やっぱダメージ最小限で保存なら、凍らせるのが一番だ』
『御意でございます』
『そうだ!』
『いきなり、どうしたのでございます?』
『こいつらの数にもよるけど、探索後に、何体か持ち帰り、メンテナンスした上で、ウチの番人にしよう』
『それ、名案でございます』
『ああ、さっきの話の続きだが、領地と城を返せと言って来て、俺が拒否したら、王国が力に訴える可能性もある』
『確かに! でございます。奴ら、マスターの強さに対し、数で対抗するでございますね』
『そ~いう事。俺が居れば、ダメージを与えず、騎士団も軍隊も転移魔法でガンガン送り返しちまうが、不在の場合もある』
『御意でございます』
『そもそも騎士団や軍は動かすだけで大金がかかる。貧乏な王国には相当な出費だ。王との約束もあるし、いきなり攻めて来るとは思えないが、あの変な噂もあるからな』
ダンが言う変な噂とは……
元勇者のダンがしこたま金塊を貯め込んでいるという根も葉もない噂だ。
多額のコストがかかっても、ダンの所有する莫大な金塊を奪う為なら、可能性はゼロではない。
まあ、元々金塊はないのだから、バカげた話ではある。
非常時の場合、スパルトイ達に加え、この番人達が居れば、とても心強い。
また避難、移転場所を、いくつか用意しておくのも懸命だ。
『いろいろと用心するに越した事はない』
『その通りでございます』
動かなくなった石像を見つめながら……
ダンとスオメタルは大きく頷いたのである。
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最後に、
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