第4話「追放の裏側」
悪魔メフィストは、スオメタルに威嚇され逃亡した。
スオメタルが、ゆっくりと地上へ降りると、
ダンは、にっこり笑い大きく息を吐いた。
そして、傍らに倒れていた人狼達へ抜いた魔力を返してやった。
地に伏していても、人狼達に意識だけはあった。
なので……
ダン、スオメタルと上級悪魔のやりとり一部始終を、
見て聞いていた3体は、怯え、泡を喰って遁走してしまう。
大慌てで去って行く人狼達の背中を見ながら、スオメタルは微笑んだ。
『マスター、感謝致します。スオメタルの為に怒って頂いて……』
『当たり前だ! スオメタル、お前は人間なんだから』
『はいっ!』
ダンが手を差し出し、スオメタルも応えて手をつなぐ。
ふたりは手をつないで歩きだした。
やがてダンとスオメタルの目の前には、
3階建て石造りの頑丈そうな城が現れた。
デザインこそ古風。
だが、まだまだ真新しい城である。
これが前任者が放棄し、ダンが土地と共に譲り受けた城である。
まあ、城といっても、大きさはさほどでもない。
ハッキリ言って城館もしくは城砦という表現がぴったりな小型の城である。
『よし着いた! いろいろ丁寧に手入れしたのと家具も運んでおいたからすぐ住める。スオメタルにもだいぶ手伝って貰った。ありがとな!』
スオメタルはダンにまたも労わられ、嬉しそうに微笑んだ。
『うふふ、とんでもございません。妻として当たり前でございます。遂に遂に私とマスター、魂の絆が深まる、愛の巣の完成でございますよね』
おおっと、甘えたスオメタルの衝撃発言が飛び出した。
慌てるダン。
『い、いや、妻とか、愛の巣って、全然違うだろ』
『華麗にスルー。それよりもマスター。リシャール王との追放謁見は上手く行きましたでございますか?』
『あ、ああ、ばっちりさ。あちらも、いろいろ事情ありだ。お互い、ウインウインで着地したよ』
『それはようございました。では、今後の予定も含め、中でゆっくりお話ししましょう。スオメタルが買っておいた美味しい紅茶を淹れるでございますよ』
追放謁見……
スオメタルは、ダンの『事情』を詳しく知っているようだ。
そしてダンがわけありというコメントを発し、
事前に城をリフォームし、家具も運び込んでいたという事は……
今回の追放に『裏』があるという事だ。
『了解!』
追放され、『元』勇者となったダンは、不可思議な美少女スオメタルに誘われ、城内、つまり自宅へと入って行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンの新たな住居となる城の中……
1階大広間。
だだっ広い部屋に、渋い木製のテーブル。
ダンはひとり、テーブルと同じ材質&デザインの椅子に座っていた。
同じ椅子がもうひとつある。
と、そこへスオメタルが、
ティーカップをふたつと紅茶のポットを持って現れる。
『マスター、約90度と少し……私の好みですが、適温の熱い紅茶でございます』
『おう! ありがとう!』
香ばしい良い匂い……
座ったふたりは美味そうに熱い紅茶をすする。
紅茶をふたくちほど飲んだスオメタルが問う。
『マスター、早速でございますが、国王リシャールとの追放謁見の顛末をお話し頂けますか? 情報を共有しておくでございます』
『了解! 明瞭簡潔に行くぞ。勇者の俺は表向き王国追放。アンジェリーヌ王女との結婚なし。公爵位の授与なし、報奨金支払いなし、貰ったのはこの土地と城だけだ』
『ふむふむ』
『その上で、お互い未来永劫干渉しないと約束した。書類も作成し、双方の印を押した』
『成る程……契約書まで作成と……さすがマスターでございますね。あくまで個人的な意見ですが、私スオメタルはOK、つまり基本的には宜しいかと思うでございます』
『あ、そうだ! もうひとつ! 契約書には記載してあるけど、えっと……魔境ならば、お前の領地は拡大し放題ってのもあった』
魔境ならば領地拡大し放題?
と、聞きスオメタルは美しい眉をひそめる。
『はあ? 魔境なら領地が拡大し放題って……この地は人間のモノではないでございますよ~』
『ははは、だから、リシャール王も、切り取り次第って即OKしたのさ』
『うっわ! 呆れるでございます~。私が思うに……性悪王女アンジェリーヌとの結婚は勿論、爵位の授与取り消しは、大きな問題ではないでございます』
スオメタルの言う通りだ。
ダンは大いに納得。
笑顔で頷いた。
『だな! 王女と結婚出来なくても、爵位が貰えなくとも全然惜しくない』
『ええ、上質な領地の譲渡も同様でございます』
『おう、そっちも同意だ!』
『はい! 万が一、マスターが良い場所を任されても、規定以上の重税を課せられ……確実に領民が反乱し、無政府状態になるでございます……妻となった王女はヒステリーを起こし、即、里帰り決定でございますゆえ』
『最悪だな、そんなの』
『はい! そんな事になったら完全に領主失格で、怒った王からどう罰せられる事やら……でございます』
『激しく同意。俺は領国運営が素人だ。多分、王は俺を補佐してくれる優秀な家臣を付けてくれないし、もし来てくれても、平民の俺の指示なんか聞かず、ろくに言う事を聞かないだろうよ』
『全くの御意でございます! ですが、お金は……現金は最も重要でございます。魔王討伐の報奨金は結構な金額なのでしょう?』
スオメタルは現実主義者だ。
名より実を取る性格らしい。
ダンは頷き、話を続ける。
『ああ、結構な金額だ。創世神の神託で決められているが……金貨100万枚だからな』
『お~、100万枚? それは相当でございますね。ほんの少しでも頂戴出来なかったのでございましょうか?』
『うん、無理だった! スオメタルも知っての通り、ヴァレンタイン王国の台所は……内情は火の車だ。金貨100万枚を、毎月金貨100枚払いの長期分割予定だと言われ、思わず、のけぞった』
『うっわ! ひど! 支払いが終わる前にマスターの寿命がすぐに尽きるでございますね、それ……』
『ああ、いつになったら、全額貰えるんだって感じだろ?』
『はい……王国の財政は、やはり、そこまで逼迫しているのでございますか?』
『おう! だからさ、いくら神託で魔王退治の報奨金が決まってるとはいえ、却って可愛そうになってな。報奨金は要りませんよってリシャール王へ言っちゃった』
『うっわ、優しいでございますね~。まあ、マスターの腕なら、毎月金貨100枚くらい、稼ぐ方法はいっぱい、ございますよ~』
『だな! ちなみに神託の規約で、勇者が受け取りを拒否すれば支払わなくてOKだそうだ。なので王の面目は潰れない』
『成る程、納得でございます』
『それゆえ、こちらから提案した』
『ふむふむ』
『王との取り決めで、追放の理由や原因は一般へオープンしなかった。だがもしも言い訳するとしたら、表向きの追放理由は、勇者の報奨金を含めた、褒美一式の受け取り固辞。コイツは礼儀を知らない不届き者だと、とがめる形だ』
『うふふ、それならお互いにかすり傷レベル、バッチリでございますね』
『ああ、結果、失礼な行いをした俺を追放扱いにする形で、こっちから報奨金の支払いを免除してやったのさ。俺もまあまあ満足だし、王は凄く喜んでたよ』
ダンの話を聞き、スオメタルはもっと話を聞こうと
思いっきり、身を乗り出した。
『それでそれでっ? この後が肝心でございますよ』
『おう! リシャール王は大喜びしていたから、こっちが優位に話を進められる。だから、俺は攻勢に出た! これ幸いと他にもいろいろ条件を付けたんだ。一番大きな問題をクリアする為にな!』
『あはは~、一番大きな問題って、あの性悪王女との結婚回避が最大の懸案事項でございましたからね~』
『全くだ! あのアンジェリーヌと結婚なんか絶対したくない。王も愛娘命の超が付くデレパパだから、本音は雑草な俺と、結婚なんかさせたくない。神託だからいやいやだったのさ』
『あはは、結婚が成立しなくて、お互いに良かったのでございますねっ!』
『その通り! 俺は、アンジェリーヌ王女の専属奴隷として、一方的、絶対服従命令で、肩もみに、お使い、買い物の付き合い&荷物運び、本の読み聞かせ、手紙の代筆。更に狩りの勢子、剣技と格闘術の練習台まで務めさせられたよ』
『うっわ! すご!』
『まだまだあるぜ! お前は身分が卑しいし、イケメンじゃないから、せめて勇者として強くあれ! と散々アンジェリーヌに煽られた。だから俺自身も基礎トレーニングとして、ダッシュ&ランニングが1日5時間、腕立て伏せ、腹筋運動各3,000回以上』
『あはは、良い子は絶対真似しちゃいけませんでございますね~』
『だな! 勇者として目覚め、覚醒が始まってたからクリア出来たメニューだ。魔法の習得だって知識、実技含め毎日8時間。それ以外にも一般教養、剣技、格闘、弓、乗馬、水泳の練習等々、びっしりやらされた。それが王宮に居る間はず~っと続いて、毎日休みなし。ろくに眠る暇もなかった』
『あはは、超スパルタ! でございます~』
『だろ? あいつと結婚したら、心身ともにやられる。確実に無限地獄が待ってる。その上さ! 俺のライフワークにも、散々口出ししていたんだぜ』
『は? マスターのライフワークでございますか?』
『い、いや! 何でもない……』
『……でもマスターと結婚しなかったら、アンジェリーヌ王女は、一体どなたと結婚するのでございますか~?』
『ああ、俺と破談になって愚痴ってた。新たな花婿候補は、超脳筋のボドワン公爵か、潰れたガマガエルそっくりのブザール侯爵だと。両名とも、百歩譲って容姿は我慢したとしても、超俺様タイプの性格最悪男だってさ』
『あはははは、性格最悪って、王女へそのままブーメラン! 完全にざまぁ! でございますねっ!』
『うん、今までお世話になりましたぁ! 末永くお幸せにぃ~って、ざまあのサヨナラして来たよ』
『あはは、でもでも! 性悪王女様には相当鍛えられましたでございますね~ 魔王に勝てましたし~』
『いやいや、魔王に勝てたのはスオメタル、お前のお陰だ』
『いえいえ~。私は、マスターのお手伝いをほんのちょっと、しただけでございますよ~』
『謙遜だな。お前には深く感謝してる。これから俺は己の為に人生を生きる。その為にはスオメタル、お前が絶対必要だ』
ダンはそう言うと……
慈愛の気持ちを込め、スオメタルを優しく見つめたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆によるポイントの応援をお願い致します。
☆10月17日土曜日に、
スクウェア・エニックス様の刊行雑誌
月刊「Gファンタジー」11月号が発売されました!
『魔法女子学園の助っ人教師』コミカライズ版最新話が掲載されております。
ぜひ読んでみてください。
巻末目次ページには、東導のコメントもありますので何卒宜しくお願い致します。
東導 号 書籍化作品⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説版《ホビージャパン様HJノベルス刊》
第1巻~7巻大好評発売中。
◎コミカライズ版《藤本桜先生作画》
スクウェア・エニックス様の雑誌月刊「Gファンタジー」に大好評連載中!
Gファンタジーコミックス
第1巻~3巻大好評発売中!
※第1巻、第3巻は『重版』
※マンガアプリ『マンガUP!』《月曜日更新予定》
でもコミカライズ版の『連載分』を読む事が出来ます
☆書籍小説版、コミカライズ版ともども、書店様、通販サイト様でぜひお取り寄せください。