第3話「早速、悪魔のお誘いが!」
転移魔法を発動し、「一気に跳んだ」ダンとスオメタルは……
王都の街中とは景色が全く違う、うっそうとした森の中を歩いていた。
ふたりが今、歩いているのは……
彼を追放したヴァレンタイン王国国王リシャールと約束した通り、
人々が『魔境』と呼ぶ、この大陸の1/4を占める、
広大な未開の地に隣接した土地だ。
魔境は多種の樹々から構成される森林が大部分を占め、次いで草原、更に水量豊かな湖、川があるのは勿論、急流を伴う渓谷、巨大な岩だらけの原野、灼熱の砂漠など様々な地形がある。
人間が殆ど住まないこの自然環境厳しい魔境には……
当然ながら人間の王国はひとつも存在しない。
また肉食、草食ともども普通の獣が数多生息するのは勿論のこと……
強靭な竜の一族、夥しい大中小の魔獣に、魔物、果ては邪悪な亡霊、不死者までが跋扈する呪われた地でもある。
ちなみに倒した魔王が住んでいた城もこの魔境にはあった。
しかし、ダンが新たに住まう地からは遠く離れていた。
今回ダンが『流刑地』として国王リシャールから与えられた土地は、この魔境に隣接、一時は、王国が領有権を主張したが、領主として任官した貴族が、
保てず、夜逃げして現在も行方知れずという『曰く付き物件』である。
と、ここでダンは自分へ接近する何者かの気配をキャッチした。
まあ、ここは自然満ち溢れる魔境。
犬も歩けば何とやらで、
……何者かとは魔族か魔物、良くて中型以上の獣であろう。
相手との距離は約数百メートル……
既に索敵の魔法が発動中。
ダンの心の中にあった、『アンノウン』という表記がはっきりと切り替わった。
スオメタルも同じく気付いたようである。
『マスター、ご注意を! 接近する魔族が3体おります』
『ん? 人狼……ワーウルフか? えっとスオメタルの言う通り、3体だな』
『御意でございます』
人狼とは……
魔族であり、狼の姿をした獣人の一種だ。
完全な狼、または半狼半人の姿に変身する能力を有している。
通常の狼を眷属とし、魔境に迷い込んだ人間は勿論、
たまに人里へ出て、人間を襲い喰らう。
つまり人間を喰う捕食者である。
通常の人間では身体能力に差があり過ぎ、
あっという間にかみ殺され、喰われてしまうのが常だ。
一方、人狼どもも、ダンとスオメタルの気配に気づいているのだろう。
獲物として捕らえる意思を持っているに違いない。
どんどん近付いて来る。
やがて……
ダン、スオメタルと人狼ども3体は正面から向き合った。
出会った人狼どもは……
半狼半人の姿であった。
半人と言っても衣服などはつけていない。
牙と爪、筋肉を誇示し、威嚇して来る。
しかし、魔王を倒したダンにとって、
人狼3体など、単なる雑魚である。
平然としていた。
そして何故か、スオメタルも臆せず堂々としていた。
恐れないダン達を見て、
人狼どもは再度唸り、う~っと威嚇する。
人狼は人間語は話せないという。
しかしダンは、念話により人狼の心を読む事が出来る。
こちらの意思も、しっかりと伝えられる。
『おい、お前等……今日はやめないか、戦うの。追放……いや! 解放記念日なんだ、いっぱいお宝もゲットしたしさ!』
《!!!!》
『なあ、初見だから、特別に見逃してやる。とっとと巣に、帰れよ、頼むからさ……』
人狼どもは念話で意思を伝えて来たダンに、一瞬だけ躊躇した。
しかし彼等の本能が、食欲が僅かな恐怖に勝った。
飢えた人狼どもはダンの忠告を無視し、襲いかかって来た。
があああああああっ!
ごおおおおおおお~!
ごあああああああっ!
「ふっ」
ダンは3体の人狼どもの攻撃を軽々と躱し、ほんの軽く頭部に触れた。
ぎゃっ!
がっ!
がう!
ダンの手が触れたと同時に、
人狼どもは短い悲鳴をあげ、地に崩れ落ちた。
「ぴくぴく」けいれんし、全く動けない。
ダンの特技のひとつ、吸収魔法により、
人狼どもは行動力の根幹たる魔力を9割以上失ったのだ。
『お見事でございます、マスター。これぐらいの輩は、次回以降、私が対応致しますよ』
『了解!』
スオメタルに言葉を戻したダンは、倒れ伏した人狼達へ向き直った。
『おい、お前ら! 今回に限り大サービスだぞ……魔力を95%抜くだけで勘弁してやる。魔力が回復すれば動けるようになる。その前に他の奴に襲われたら不運だとあきらめろ』
『…………』
『今度刃向かったら……容赦なくぶっ飛ばす』
ダンは最後にそう言うと……
倒れたままの人狼を放置し、スオメタルと共に再び歩き出そうとした、その時。
ぱちぱちぱちぱち……
どこからともなく拍手の音がする。
瞬時に、辺りには大きな魔力が満ちた。
すなわち、拍手をしている者は……
襲って来た人狼とは比べものにならぬ『大物』である。
ダンが、そしてスオメタルも身構える。
『誰だ! いきなり現れやがって! この気配は……ふん、分かったぞ! 悪魔だな?』
『マスター、この悪魔は! 要警戒! 大物でございます!』
ダン、スオメタルの声に応えるが如く、若い男の声が響く。
『いやぁ、見事です! 何と素敵なお手並み! さすがに魔王様を倒した勇者だ。最高ぉ!』
『おい! 最高でも何でも良い。すぐに姿を見せろ。さもなくば魔法で魂ごと貴様を消す!』
『お~こわ。では失礼しますよ』
拍手をした声の主、悪魔はダンとスオメタルの頭上、約10mの高さに現れた。
ぱぱっという擬音がぴったりの登場である。
漆黒の法衣、同色のマントを翻したのは、見た目は若い、
とはいっても、ダンよりずっと年上っぽい、
人間族でいえば25歳くらいの端整な顔立ちの優男である。
『やあ、初めまして、私はメフィスト。貴方が仰るように悪魔です。ダン・シリウス』
悪魔――メフィストは優雅に一礼すると、
すとんと、地上へ降り立ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
悪魔は詭弁を弄し、人間を陥れる。
絶対に油断してはいけない。
それが世間の常識である。
ダンとスオメタルは改めて身構える。
『単刀直入に聞くぞ! 悪魔メフィストがこの俺に何の用だ?』
『はい、では私も単刀直入に申し上げます。ダン・シリウス。魔王を瞬殺した貴方に新たな魔王となって頂きたいのです』
何と!
悪魔メフィストは次期魔王として、ダンを指名した。
しかし勇者が魔王?
闇落ちしている勇者ならいざしらず、ダンは至ってまともである。
『はあ? 俺が魔王?』
『はぁい!』
『マジか?』
『マジですよ~』
『お前、何考えてるんだ?』
『はぁい! 私、実は魔王軍の元副官でした』
『何だ、お前、デスヘルガイザーの部下じゃないか』
『いえ、あくまでも元ですよぉ。貴方があいつを討ち取るだいぶ前に、嫌気がさしてやめましたからぁ』
『ふん、お前、デスヘルガイザーに解雇された、つまり首になったのかよ』
『いえいえ~、自分からやめたのですよぉ。辞職しましたのでぇ。何故ならば、デスヘルガイザーはお気に入りの部下を贔屓し、実力もないのに不自然に重用する。若手を殆ど起用しない。頑固一徹でワンパターンの施策しか打ち出さない。最低の上司でしたんで』
どこにでもいるダメ上司。
魔王デスヘルガイザーはそんな最低上司の典型だったという。
悪魔に同意するのは宜しくない。
しかしダンは同意せざるを得ない。
『何だ、それ最低じゃんか』
『はぁい、最低の最低です。で、ですね! 勇者をクビになった心技体の3拍子揃った貴方に後継の魔王となって頂ければと悪魔のほぼ全員が考え、代表として私がお願いに上がった次第なんです』
『そんなん、答えは決まってる!』
『では! お受け頂けると!』
悪魔はやはりずうずうしい。
隙を見て、言質を取り、約束を交わそうとする。
なのでダンはきっぱりと断る。
『そんなん断るに決まっとるわ!』
しかし悪魔メフィストは執拗であった。
『え、何故? 論理的に説明してくださいよ』
『おっし! 理由をあげてやる! 魔王になる義理がない。俺はのんびり暮らしたい。人間を害するのも嫌だ。俺のメリットも提示しないお前のいい加減さも嫌だ。他にもた~くさんあるが、とりあえず以上だ』
『あはは! さすが勇者! 弁も立ちますねぇ! 悪魔の私以上だ。素晴らし~い!』
『無駄だ、いくら褒めてもな~んも出ねぇよ』
『あはは、全てに回答するのは難しいのですが、お答えいたします。魔王になる義理はあります。ダン、貴方がデスヘルガイザーを倒したから、魔族は現在、群雄割拠の状態です。貴方が出張ればまとまりますので』
『そんなん人間の俺には関係ないよ』
『いえいえ、貴方が出張り魔族をまとめる事で、人間も平和に暮らせるとしたらどうです?』
『何だよ、そのロジック』
『でも正論です。更にのんびり暮らせるのもOK! 私が副官を務め、その銀髪人形ちゃんが秘書を務めれば良いのです。両輪を得た貴方は政務の主な指示だけすれば宜しいのです。ラクチンですよぉ』
『おい、お前、今なんつった?』
『私が副官を務め、その銀髪人形ちゃんが秘書を務めれば良いのです。と申し上げましたぁ』
悪魔メフィストはそう言い、ニヤリと笑った。
すると、悪魔メフィストの告げた言葉にダンは過激に反応したのだ。
いつもは飄々としたダンには、珍しいかもしれない。
『おい、メフィスト。お前……その軽口潰してやろうか』
『おおっと、私、勇者ダンの逆鱗に触れてしまいましたか?』
『ふざけるな。ぺらぺらと吹聴して回ったら、マジで魂を握りつぶしてやる! 覚悟しろよ』
ダンは本気で怒っていた。
と、ここでスオメタルが「ずいっ」と出る。
ダン同様、瞳には、はっきりと怒りの色が表われていた。
『おい、悪魔。……私が相手するでございます』
『ほう、スオメタル君が? まあ腕は立つという噂ですが……』
瞬間!
スオメタルはどん!
と大地を蹴り、そのまま急上昇。
凄まじい速度で飛翔する。
あっという間に、メフィストへ迫った。
すかさず、悪魔へ狙いをつけ、
小さな右手が、差し出された。
どしゅ!
どしゅ!
どしゅ!
どしゅ!
どしゅ!
スオメタルの5本の指先から
何かが飛び出した。
『おっと、危ない!』
メフィストは慌てて、スオメタルの攻撃を紙一重で避けた。
『ほう、やるでございますね。躱されたでございますか? ……でも今のは小手調べ、すぐ次行くでございます』
スオメタルは手を挙げ、指先を悪魔へ向けた。
対して、メフィストは面白そうに口笛を吹く。
『ぴゅう! 成る程……指先から高圧の水流を射ち出し、敵を貫く魔法ですか? くくく、水属性の高位魔法とは、やりますねぇ』
『……ほざくな、悪魔。私は散々、お前らと戦いましたでございます。次は間違いなく仕留めるでございます』
『あはは、やっば! ちょっとだけ、ミステイクしてしまいましたねえ。分かりました、謝罪しますよ』
メフィストは苦笑すると、ぺこりと頭を下げた。
『ですが私は、勇者ダンの魔王就任を絶対に諦めません、またいずれ!』
腕組みをして睨み付けるスオメタルから目をそらし……
メフィストは現われた時同様、速攻で姿を消してしまったのである。
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