第2話「魔王討伐、そして追放」
ここは……
ヴァレンタイン王国王都セントヘレナ王宮の大広間である。
約1年前……
この異世界の『世界宗教』創世神教……
主たる創世神に仕える巫女からの神託により、
『救世の勇者』と認定されたひとりの若者が見出された。
勇者の自覚など全く無かった若者は、
テンプル騎士団により王宮へ連れて来られた。
その後、若者は、1年間のとてつもなく厳しい訓練を経て、
勇者として完全に覚醒、見事に魔王を倒した。
結果、勇者たる若者が、国王リシャール・ヴァレンタインに、
魔王を倒した勇者として、華々しく謁見していたのである。
リシャールの厳かな声が大広間に響く。
「全属性魔法使用者たる、偉大なる創世の勇者ダン・シリウスよ! 良くぞ、悪しき魔王デスヘルガイザーを倒した!」
「は!」
国王の口上に対し、勇者ダンは短く応えた。
リシャールは頷くと、軽く鼻を鳴らし、口上を続ける。
「悪は滅び、これで世界は平和となった! この平和はそなたが奮闘した賜物である!」
「は!」
「そなたには創世神様の勇者法に基づき、最高の栄誉として、我が美貌の愛娘アンジェリーヌを娶らせ、特例として王族公爵の爵位と肥沃な領地、莫大な報奨金も与えよう」
「はは~っ」
魔王を倒した『救世の勇者』が王様に労われ、素晴らしい褒美を授かる。
ここまでは……良くある光景である。
倒した魔王も「いかにも悪」という名前だし、
誰もが「うんうん、まあこんなものだ」と納得し、頷いているだろう。
しかし!
ここで様相がガラリと変わった。
リシャールの表情が不機嫌そうに変わり、
とんでもない言葉が発せられたのである。
「とは思っていたが……熟考の結果、予定を大幅に変更とするっ! 勇者ダン、お前を我が王国から追放する。数年前に放棄された魔境へ接する旧領へ赴くが良い! 理由はお前自身が良~く分かっていよう」
大功ある勇者を追放!?
理由は勇者が知っているぅ!?
ざわめく大広間。
しかし勇者――
ダンは顔色を全く変えず平然と、
「はは~っ」
と深く頭を下げた。
ダンへ、リシャールの衝撃的な口上が更に続く。
「追放の理由は、ダンよ! 余とお前の内々の話という事で、巷へは一切を非公開とする!」
追放の理由を一切を非公開!?
非公開って何?
納得出来ないっ!
そんな声なき抗議の波動が、謁見の間に満ちて行く……
しかしリシャールは、まるでダンを鞭打つように容赦なく口上を述べて行く。
「ダンよ、しかと聞け! 我が愛娘、王女アンジェリーヌとの結婚も当然ご破算、爵位の授与、報奨金も一切支払いなしとする!」
「はは~っ」
ざわざわ……
どよめきは……
具体的に疑問とリシャールへの非難となって行く。
「えええっ? 王様、勇者を追い出すなんて酷い!」
「ダンは世界を脅かす魔王を倒した大功労者なのに、褒美がゼロなんてどうしてっ!」
「万が一、魔王が再出現したら、勇者不在で、どうする気?」
しかし微妙な雰囲気の中、リシャールは念を押す。
「良いか、勇者ダン、念の為、聞こう。我が王国からの追放を了承するな? 創世神様の名においての約束だぞ!」
「はい、お約束致します! 今後は互いにお構いなしの完全無関係という事で、お約束、創世神様に誓って、確かに承りました。俺はこの国を出て、未開の地、魔境にて生涯を終えたいと思います」
「うむ! 余と家族、家臣一同、王国の全ての民も創世神様に誓って、お前と約束しよう! ここで余が署名した書類も渡す! 念の為、先に授けた我が国ゆかりの勇者専用の武器防具一式も返却し、身ひとつで出て行くが良い!」
「はい、喜んで! すっぱり! ご返却致します! これからは勇者ではなく、ひとりの平凡な人間として地道に生きて行きたいと思いま~す」
「何で~っ! 一旦授けた武器防具を返せなんて酷い!」
「王様、せこい! どうして~っ!」
「よりによって、勇者をあんな辺境の地へ追放なんてどうかしてる! まるで幽閉じゃないか!」
と、ここでダンが声を張り上げる。
「皆様! この処置は私ダン・シリウスが自ら望んだモノ! 神託の規約もちゃんと順守しております! どうか王を責めないでくださいませ!」
四方へそれぞれ深く礼をした勇者――
否!
既に勇者ではない少年ダン・シリウスは、踵を返し、
「すたすた」と全く未練なく大広間を出て行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数時間後……
『元』勇者ダンは王宮を出た。
約束通り……
着用していた、ものものしい勇者専用のいかつい兜、鎧、ド派手な剣等々は、
王家に全て返却し、地味な革鎧姿である。
勇者の兜は『フルフェイスマスク』だった。
なので、ダンの素顔を知る者は、
世間に殆ど居なかった。
ダンはそうイケメンではない。
筋骨隆々でたくましくもない。
黒く短めの髪、黒い瞳を持つ長身痩躯。
受ける雰囲気は地味、羽振りの良くない冒険者風。
勇者の武器防具を装着していなければ、一見、ごく平凡な18歳のいち少年。
どこにでも居る存在である。
なので王都の街中を歩いても勇者だと騒がれたり、
追放者だと、指さされる事もなかった。
地球の中世西洋風の街、
ヴァレンタイン王国の王都セントヘレナの人口は約5万人である。
中央広場に王宮があり、放射線状に道路が伸び、様々な区画に分かれている。
勇者ダンにより、世界の平和を脅かす魔王が倒されたので、
行き交う人々の表情は安らかであった。
王国の人々もホッとしてるだろうし、
自分もようやく、全てのしがらみから解き放たれた……
歩くダンの表情は晴れやかである。
《うっわ~っ、すっげぇ解放感っ! 空気がひどく美味い! やっと任務がオワタという感じか。そうそう! 城へ帰る前に足りない分の買い物をしておこう……》
《そうだっ! しばらく王都へ来ないだろうから、あそこへも行こう! 多分お宝と掘り出し物が見つかる! いやぜって~あるぜ!!》
ダンの顔は「にやにや」が止まらない。
彼は魔王を倒しても慰労されただけ。
褒美はゼロ、報奨金もゼロ、
魔境と呼ばれる未開の地に隣接する、
放棄されたヴァレンタイン王国の狭い旧領を貰っただけである。
だが、その地は追放場所として与えられたもの……
いわばダンの流刑地そのものなのだ。
つまり地位も金も得る事は出来なかった。
得たのはかろうじて魔王討伐の栄誉と未開の地だけ……
残念ながら、栄誉のみでは食っていけない。
だが……
冷静沈着の上、慎重で堅実な性格のダンは、
魔王退治の傍ら、コツコツと『蓄え』を増やしていた。
勇者法……
創世神の神託による勇者の約定から……
魔王が居た城の財宝は王家に一切を渡していたが、
それ以外は、犯罪を犯さない限り自由、お構いなしだとされていたのだ。
「マスター」
その時。
声をかけて来る者が居た。
端麗な顔立ちをした小柄な少女である。
年齢はダンより少し年下で16歳くらいだろうか。
漆黒の革鎧を着込んでいる。
少女は肩までのショートカットの煌めく銀髪。
――シルバープラチナの美しい髪を持っていた。
ダンへ柔らかく、微笑んではいたが……
どことなく人間離れしていて、やや冷たい印象を受ける。
間を置かず、少女は、ダンへ向かい「びっ」と敬礼する
「マスター、お疲れ様でございます」
「おお、スオメタルか、待たせたな」
「いいえ、そんなに待ってはおりませぬ。もう出発の準備は万端でございますか?」
「いや、買い物がまだだ」
「では、マスター、お供致します」
「ああ、一緒に行こう」
「御意でございます」
数時間後……
買い物を終えたダンは、少女スオメタルと共に大手を振って、
王都セントヘレナの正門を出た。
ちなみに、購入したものは、左腕の収納魔法腕輪に全て放り込んであった。
ダンが寄ろうと言ったもうひとつの場所とは、
王都のゴミ集積場である。
勇者になる前に生業としていた、
前職ジャンク屋の癖がつい出てしまっていたのだ。
スオメタルには大いに嫌がられたが……
「ご自由にお持ち帰りください」コーナーの掘り出し物商品……
否、ガラクタや粗大ゴミも嬉々として大量にキープし、
これまた腕輪へ放り込んでいた。
解放感に満ちあふれたダンはスオメタルを連れ、街道を歩いて行った。……
そしてひと目がなくなると、ふたりはさっと街道から目立たない雑木林へ入る。
周囲に誰も居ない事を再度確かめたダンは、即座に転移魔法を発動、
ヴァレンタイン王国を、スオメタルと共にさっさと後にしたのであった。
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