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第1話「勇者認定」

旧作『元ジャンク屋追放勇者のんびり辺境開拓記。怖い魔族と仲良くなって、いつのまにか賢者魔王と呼ばれてた?』

をタイトル変更し、大幅加筆修正したリニューアル新連載作品です。

何卒宜しくお願い致します。

 剣と魔法が幅を利かせ、数多の魔物が跋扈ばっこする、

 中世西洋風異世界……


 ここは大陸でも有数の強国、ヴァレンタイン王国の王都セントヘレナ、

 最下層の貧民街と呼ばれるスラムである。


 その一角には店舗すらない、汚れた『むしろ』を敷いた上に、

 粗末な品物を並べただけ。

 貧しい身なりをした商人達の『店』がひしめいていた。

 

 と、その時。


 いきなり誰かが、大声で叫んだ。

  

 手入れだ!

 

 またも別の者が叫ぶ。


 ヤバイ!

 逃げろぉ!


 とも、聞こえて来る。


 間を置かず、何と!

 そのような場所には全く不似合いな、豪華なサーコートを着込んだ騎士の一団が、どかどかと踏み込んで来た。

 

 彼等はテンプル騎士団と呼ばれる騎士達である。

 創世神教会に在籍する神職者を守護するのが役割の特別な地位にある騎士達だ。


 騎士達は大きな声をあげ、ある方向を指さした。

 そこにはみずぼらしいブリオーを着たひとりの少年が座っている。


 この少年も商人らしい。

 

 だが少年の前にあるむしろに載っているのは、商品というよりは、

 ほとんど壊れたガラクタである。


 騎士達は走り寄り、少年を指さし、問い質す。


「おい、ジャンク屋のダン・シリウスというのは貴様か!」


 高圧的に叱りつけるような物言い。

 しかしダンと呼ばれた少年はあまり臆さずに、ゆっくりと答える。


「……何だよ、お前ら手入れか?」


「……………」


 騎士達は無言である。

 全員ねめつけるようにダンを見た。


 少年は大袈裟に肩をすくめ、言葉を続ける。


「でも俺の売るもんで、ヤバい品はないよ。調べるだけ調べたら良いさ」


 少年の言う通りである。

 彼の前に並んで居るモノは、捨てられたものをそのままか、

 少し直してあるものばかりだ。


 しかし騎士達は、少年の質問に答えずに、「ずいっ」と詰め寄った。


「答えろ! 貴様がダンなのかと、聞いておるのだ!」


「う~ん、お前達は衛兵じゃなく騎士か。じゃあ手入れじゃないな。確かに、俺がダンだけど……」


「そうか! 間違いなく、ダンだな! 信じがたいが、巫女様のお告げだ! クズ如き貴様が救世の勇者に認定された」


「は? 何、俺が勇者? 冗談だろ?」


「バカモノ! 冗談ではない! 聖なる神託が下されたのだ! 我らとて、このようなゴミ溜めに来たくはないわ!」


「おいおい、言うに事を欠いて俺をクズ呼ばわりし、その上、ゴミ溜めは酷いだろ」


「黙れ! さっさと来い! 枢機卿様と巫女様がお待ちかねだ! その後は国王リシャール陛下から、貴様は正式に救世の勇者として認定される!」


 騎士達はむしろを跨ぎ、ダンへ詰め寄った。

 置かれていた商品も構わず踏みつけ、蹴飛ばした。


「おい! お前ら酷い事するな! 俺がまた使えるよう、直したのに!」


「黙れ! 抵抗すると、力に訴えても連れて行くぞ!」


 騎士のリーダーらしき者が剣を抜き放った。


 刀身が陽の光を受け、ギラリと光った。


 どうやら騎士達は『本気』らしい。

 ダンは大きく息を吐き、頷くと、無抵抗の意思を示したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここは……

 ヴァレンタイン王国王宮である。


 ひとりの少年が、無理やりという感じでひざまずかされていた。

 少年はダンであった。


 ダンは市場から連れ出されてすぐ、創世神教会へ連れて行かれ……

 巫女のベタな祝福を受け、枢機卿からは汚らわしいものでも見るような眼差しで、イヤイヤという雰囲気で『救世の勇者』だと認定されたのである。


 そして国王リシャールに謁見した後、この部屋へ連れて来られた。

 

 ダンの前には……

 ひとりの美しい金髪碧眼の少女が、

 先ほどのテンプル騎士達同様、ゴミを見るような目で立ちはだかっていた。

 

 少女の名はアンジェリーヌ。

 国王リシャールのひとり娘で16歳、つまり王女である。


 周囲に御付きの家臣や侍女、護衛の騎士が大勢居るのも構わずに、

 アンジェリーヌは大声で叫ぶ。


「あ~、ヤダヤダ! いくらご神託だからと言って、こんなガラクタ拾いの、薄汚いジャンク屋と、王女たるこの私が結婚するなんて!」


「……………」


「ダンと言ったわね! いっそ、勇者を辞退しなさいよ! あんたみたいなゴミ野郎、触るのは勿論、見るのも、名前を呼ぶのさえ嫌だから!」


「……………」


「あ~あ!! 創世神様のご神託がノーカウントになってくれないかしら」


 アンジェリーナのとんでもない悪口雑言は止まらない

 

 ……対して、ダンはじっと耐えていた。

 ここまでの経緯も含め、むかつくが仕方がない。

 

 もしも反抗すれば、「死あるのみ!」なのは確かだったから。


 なりたくて勇者になったわけじゃない。

 本当はそう言いたかった。

  

 いきなり「救世の勇者だ」と言われても彼自身は何も変わっていない。

 たくましくないし、武術の心得もないのである。

 

「ふん! まあ勇者の妻という名誉は手に入るから、我慢するしかないか!」

 

「……………」


「これから、お前をガンガン鍛えてやるわ! 眠る間もないくらいにね!」


「……………」


「返事は!」


「……はい、アンジェリーヌ様」


「ふん、さっさと訓練用の鎧に着替えて! そして騎士団長! こいつを死ぬ手前まで鍛えなさい!」


「は、アンジェリーヌ様!」


「それと王宮魔法使い!」


「は、アンジェリーヌ様!」


「こいつに魔法と学問を教えなさい! 身体の鍛錬と同じく徹底的にね!」


「は! かしこまりました!」


「侍従長!」


「は、アンジェリーヌ様!」


「こいつに行儀作法、一般常識を教えなさい! 以下同文!」


「心得ましたっ!」


 指示を出し終えたアンジェリーナは冷たく笑う。


「ダン・シリウス。コイツ、訓練の途中で死なないかしら……」


「……………」


「不慮の事故でね。あはははははははは!」


 相変わらず跪いたままのダンの頭上に、

 アンジェリーナの高笑いがずっと響いていたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。

※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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