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ゲ・オリジン  作者: しろ組
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九、ゲオ、異国に憧れる

九、ゲオ、異国に憧れる


 ゲオは、モリータに殴られた箇所の治療を、源庵から受けていた。

「頬の()れ以外は、あまり、目立った外傷(けが)は、無さそうですね」と、源庵が、診断結果を述べた。

「そ、そうですか…」と、ゲオは、安堵した。やられた割りには、大した事にはなっていなかったからだ。そして、「変わった治療方法ですねぇ」と、感心した。

「そうなんですか?」と、源庵が、きょとんとなった。そして、「これが、当たり前なんじゃないのですか?」と、問い返した。

「ええ」と、ゲオは、頷いた。そして、「私の国では、魔法で治しちゃいますよ」と、得意げに、答えた。大概(たいがい)の怪我なら、回復魔法(チーユ)で、瞬く間に治ってしまうからだ。

「そ、そうなんですかぁ〜」と、源庵が、すんなりと聞き入れた。そして、「私らは、薬を処方して、治療するのが、主流なんですけど…」と、言葉を続けた。

「そうなのですね」と、ゲオは、苦笑した。治療の方法も、異なっている事を、初めて知ったからだ。

治療魔法(チーユ)とは、いったい…?」と、源庵が、興味を示した。

「そうですねぇ。私は、使えませんが、神官様や司祭様のような方が、使えるんですかねぇ」と、ゲオは、あやふやな回答をした。自分の知る限りでは、その辺が、無難だからだ。

「なるほど。神様に、祈りを捧げられている方が使われる神聖な法力なのですね」と、源庵が、解釈した。

「ま、まあ、そんなところですかね」と、ゲオは、調子を合わせた。間違いではないからだ。そして、「法力とは、私達の言うところの魔法ですか?」と、尋ねた。

「ええ。私は、使えませんが、ゲオさんの仰られる魔法と同じものと思われます」と、源庵が、回答した。

「そうなんですか」と、ゲオは、理解を示した。そして、「法力で、治療なんかはな為されるのでしょうか?」と、好奇の眼差しで、問い掛けた。どんな感じなのか、知りたいからだ。

「う〜ん」と、源庵が、険しい顔となった。

「何か、不味い事でも…?」と、ゲオは、心配した。聞いてはならない事を質問したと思ったからだ。

「いいえ」と、源庵が、頭を振った。そして、「私達の国では、法力を使える者は、敬遠されるのですよ」と、冴えない表情で、理由を述べた。

「そ、それは、どういう意味ですか?」と、ゲオは、怪訝な顔で、尋ねた。何がいけないのか、さっぱりだからだ。

「法力は、特別な能力(ちから)ですので、身分の確かな者でも、軽々しく、人前では使用しないのですよ」と、源庵が、口にした。

「なるほど。確かに、魔法を使えると、人によっては、気味悪がる方も居られるかも知れませんね」と、ゲオも、理解を示した。使えない者からすれば、得体の知れないものでしかないからだ。そして、「でも、その力を悪用する者が、支配者となりますと、穏やかな話ではないですねぇ」と、顔をしかめた。ただ事ではないと察したからだ。

「ええ」と、源庵が、小さく頷いた。そして、「法力を使える者でも、歯が立たない相手でした…」と、嘆息した。

「そ、それは、いったい…」と、ゲオは、信じられない面持ちで、問うた。法力の使い手でも、歯の立たない相手となると、どのような者なのか、想像がつかないからだ。

「相当な悪知恵の働く者ですし、国外の者とも、秘密裏に、結託していたようなのですよ」と、源庵が、不機嫌に語った。

「なるほど。モリータみたいに、用意周到な者みたいですね」と、ゲオは、口にした。自分の知り得る限りの悪党と言えば、モリータくらいしか、現時点では、思い当たらないからだ。

「ははは。モリータという者は知りませんが、ゲオ殿の仰られるその者と、性格が、同格と言えましょう」と、源庵が、同調した。

「で、あなた方は、逃げ回っておられるのですね」と、ゲオは、気の毒がった。形は違えども、性根の悪い者に追われるのは、さぞかし悔しいだろうからだ。

「ええ。宛の無い旅に、安住の地など在りませんからね」と、源庵が、溜め息を吐いた。

「そうですね…」と、ゲオも、言葉を詰まらせた。自分達も、これから、宛の無い旅をしなければならないからだ。

「ゲオ様、旅は道連れと申します。あなた方の安住の地が見付かるまで、御同行させては、頂けませんか?」と、品の良いバニ族の娘が、申し出た。

 次の瞬間、「い、良いですよ!」と、ゲオは、鼻の下を伸ばしながら、即答した。異種族でも、若い()に言い寄られて、断れる道理が無いからだ。

 その刹那、「良かった…」と、品の良いバニ族の娘が、右手で、胸元を押さえながら、安堵した。

「わ、私の方こそ、宜しくお願いします」と、ゲオも、(かしこ)まって、一礼した。そして、「しかし、どうして、そのような事に…」と、眉をひそめた。国を追われるような悪人とは思えないからだ。

「それは…」と、品の良いバニ族の娘が、口ごもった。

「あ! すみません…」と、ゲオは、詫びた。聞いてはいけない質問をしたと察したからだ。

「いえ…。まだ、追い出された日の心の傷が、癒えてないもので…」と、品の良いバニ族の娘が、口にした。

「相当、お辛い目に遭われたのでしょうね…」と、ゲオも、同情した。触れられたくないくらい、酷い目に遭ったのだと想像したからだ。

「すみません…」と、品の良いバニ族の娘が、陳謝した。

「良いんですよ。私も、無理に、聞かなくても良いんですから…」と、ゲオは、やんわりと言った。特別、聞く必要は無いからだ。

「ありがとうございます…」と、品の良いバニ族の娘が、にっこりと微笑んで、礼を述べた。そして、「気持ちの整理が付きましたら、お話しします…」と、補足した。

「分かりました」と、ゲオは、すんなりと聞き入れた。話したくなった時に、聞かせて貰えれば良いだけだからだ。

「ゲオ殿。我らは、異国の地の事を、一切、存じておりませんので、何処へ向かったら宜しいのやら、さっぱりでござる」と、源庵が、冴えない表情で、溜め息を吐いた。

「そうなんですか…」と、ゲオは、相槌を打った。そして、「私も、海を渡ったら、どうしようか、何も考えていないのですよ…」と、苦笑した。先の事など、何一つ考えていないからだ。

「そうなんですね。まあ、当面の間は、ゲオ殿に委ねるとするでござる」と、源庵が、理解を示した。そして、「姫様も、その方向で、宜しいですね?」と、問い合わせた。

「ええ。私も、異論は有りません」と、品の良いバニ族の娘も、承知した。

「あの、ちょっと、御聞きしたいのですが。娘さんは、何処かの国の高貴な出自の御方なのでしょうか?」と、ゲオは、恐る恐る尋ねた。源庵の言葉から、時折、”姫”と、発せられるからだ。

「ええ」と、品の良いバニ族の娘が、小さく頷いた。そして、「私は、兎月(とげつ)の国の城主、因幡(いなば)団十五の娘、天美(あまみ)と申します」と、名乗った。

「兎月の国とは?」と、ゲオは、目をしばたたかせた。天美の素性よりも、国名に、興味をそそられたからだ。

「兎月の国は、ここよりも、遥か東の島国です」と、源庵が、回答した。

「なるほど。遥か東の国ともなりますと、私も、知らない筈ですよね…」と、ゲオは、自嘲した。この年で、異国の文化の事など、何一つ知らないからだ。

「ゲオ殿。もしも、東の方へ行かれるのでしたら、この話は、無かった事にさせて頂きますよ」と、源庵が、示唆した。

「分かりました」と、ゲオは、聞き入れた。源庵の態度から、東へ向かうのは、不味いと、直感したからだ。そして、「西の方へ向かうとしましょうか…」と、提言した。その方が、無難だからだ。

「申し訳ありません…。無理を申しまして…」と、源庵が、陳謝した。

「良いんですよ。まあ、取り敢えず、ライランス(いち)の商都ワトレへ向かいましょうか」と、ゲオは、口にした。ワトレならば、裸一貫でも、仕事には困らないからだ。

「なるほど。商都でしたら、色々な物を揃えられるかも知れませんね」と、源庵も、理解を示した。

「そうですね」と、ゲオは、相槌を打った。そこまでは、深く考えていないからだ。

「異国の商都ともなりますと、兎月国の幕ノ原を思い出しますわね」と、天美が、目を細めて、懐かしんだ。

「そうなんですかぁ〜」と、ゲオは、興味を示した。異国の商都に、些か、興味をそそられたからだ。そして、「いつかは、行ってみたいですねぇ〜」と、何気に言った。

「いつかは…ですね…」と、天美が、溜め息を吐いた。

「そうですね…」と、源庵も、同調した。

 その瞬間、ゲオは、はっとなり、「私、何か、余計な事を言っちゃいましたか…?」と、表情を強張らせた。不適切な事を言ったと察したからだ。

「まあ、その…」と、源庵が、言葉を詰まらせた。

「源庵。ゲオ様を責めてはいけません…」と、天美が、頭を振って、制した。

「承知しました…」と、源庵が、聞き入れた。

「も、申し訳ございません…」と、ゲオは、咄嗟に、平伏(ひれふ)すなり、平謝りをした。何にせよ、気分を害させたのは、間違い無いからだ。

「ゲオ様、(おもて)を上げて下さい」と、天美が、促した。

「いえいえ。御二人に、不快な思いをさせたのは、事実です…」と、ゲオは、返答した。軽々しく頭を上げるのは、申し訳無いからだ。

 そこへ、「ゲオ様! どうなされたのですかっ!」と、丸顔の男の声が、背後からして来た。そして、「まさか、いかがわしい事でも…?」と、声を震わせた。

 その瞬間、ゲオは、振り返るなり、「ちっ! 違いますよっ!」と、即座に否定した。丸顔の男が思っているような(ふし)だらな事はしていないからだ。

「本当ですかぁ〜?」と、丸顔の男が、訝しがった。

 ゲオは、天美へ向き直り、「御二人共、黙って居ないで、私の潔白(けっぱく)を証言して下さい!」と、必死の形相で、要請した。このままでは、悪い印象(イメージ)しか残らないからだ。

「ゲオ殿。私の故郷でしたら、間違い無く、切腹ものでしょうね」と、源庵が、淡々と言った。

「そうですね。でも、ゲオ様は、(さむらい)じゃありませんので、(はりつけ)でしょうねぇ〜」と、天美も、口添えした。

「そ、そんなぁ〜」と、ゲオは、項垂れた。真相を述べてくれそうもないからだ。

「ゲオ様。俺は、別に、何とも思っちゃいませんよ。ただ、平伏して居た理由が知りたかっただけなんですから…」と、丸顔の男が、あっけらかんと言った。そして、「ゲオ様がやらかしたのだったら、俺も、一緒に謝りますので…」と、補足した。

 その瞬間、ゲオは、丸顔の男を見やり、「え? 本当ですか?」と、信じられない面持ちで、問うた。信用を無くしたものとばかり思っていたからだ。

「ええ」と、丸顔の男が、力強く頷いた。そして、「如何わしい事の出来る器用さが有れば、もっと、出世している筈ですからね」と、言葉を続けた。

「確かに…」と、ゲオは、苦笑した。そして、「とにかく、誤解だけは、解いておかなくてはいけませんね」と、口にした。このままではいけないからだ。程無くして、語り始めた。

 しばらくして、「なるほど。そのような事情でしたか…」と、丸顔の男が、納得した。そして、「俺は、構いませんけど、他の奴らが、どうか…?」と、眉をひそめた。

「ですね」と、ゲオも、頷いた。まだ、他の者達の意見を聞いていないからだ。

「でも、ゲオ様が決めたのでしたら、誰も、文句は無いと思いますけどねぇ」と、丸顔の男が、口にした。

「そうかも知れませんけど、ちゃんと、お話をしておいた方が宜しいかと思うんですがねぇ」と、ゲオは、眉根を寄せた。一応、全員に、話をしておいた方が、後々(あとあと)()める事も無いだろうからだ。

「そうですね。俺に異存は有りませんので、ゲオ様の思うがままにして下さい」と、丸顔の男が、一任した。

「私の方も、中吉に言い聞かせておきましょう」と、天美が、申し出た。

「確かに、中吉殿は、姫様の御言葉以外は、聞き入れませんからね」と、源庵も、同意した。

「そちらの方は、お願いします」と、ゲオは、委ねた。要は、相手が納得してくれれば、それで良いからだ。

「承知しました」と、源庵が、快諾した。

「で、あなたは、何用で?」と、ゲオは、尋ねた。何かしらを伝えに来たのだと察したからだ。

「ええ。ティーサさんが、一応、段取りについて、説明をしたいとの事ですので、呼びに来たんですよ」と、丸顔の男が、回答した。

「そうですか」と、ゲオは、口元を綻ばせた。ようやく、行動を起こせるからだ。そして、「話を聞かせて頂きましょう」と、意気込んだ。

「大丈夫でしょうか?」と、天美が、不安を吐露した。

「姫様。御心情は、御察しします。でも、今回は、ゲオ殿という頼もしい味方が付いてますので、ここは、強気に行きましょうぞ!」と、源庵が、あっけらかんと言った。

「そ、そうですね!」と、天美も、力強く頷いた。

「デヘヘェ…」と、ゲオは、鼻の下を伸ばしながら、弱々しく笑った。頼りにされるのは嬉しいのだか、自分は、人生下り坂の戦力としては心許ない中年のおっさんだからだ。

「ゲオ様。俺らも、力を貸しますんで、堂々としていて下さい」と、丸顔の男が、耳打ちした。

「ははは…。当てにしてますよ…」と、ゲオも、小声で、返答した。丸顔の言葉が、妙に、勇気付けられたからだ。

「姫様、ティーサ殿の所へ参りましょうぞ」と、源庵が、進言した。

「ええ」と、天美も、即答した。

「まあ、ティーサさんの段取りの通りに、事が旨く運べば、問題は無いでしょうけどね」と、ゲオは、ぼやいた。これまでの人生で、予定通りに、事が運んだ事など、一度も無かったからだ。

「ですね」と、丸顔の男も、相槌を打った。

「確かに、言われてみれば…」と、源庵も、はっとなった。

「そうでしたね」と、天美も、瞬く間に、表情を曇らせた。

「すみません! こう長く生きてますと、ついつい、悪い方に考えてしまうもので…」と、ゲオは、二人へ詫びた。どうしても、前向きな想像が、湧かないからだ。

「ゲオ殿。むしろ、その方が、気の引き締まる思いでござる。油断は、思わぬ災いを招き兼ねませんからね」と、源庵が、口添えした。

「そうですね。何事も、軽く見ていてはいけませんからね」と、天美も、同調した。

「ふぅ〜」と、ゲオは、安堵した。今回は、良い意味で、注意喚起(かんき)が出来たからだ。

「ゲオ様、急ぎましょう」と、丸顔の男に、急かされた。

「うむ」と、ゲオも、頷いた。待たせ過ぎると、機嫌が悪くなってしまうかも知れないからだ。

「ティーサ殿は、気が短いですからなぁ〜」と、源庵も、表情を曇らせた。

「まあ、待たされるのも、気分の良いものでもありませんものね」と、天美も、冴えない表情で、補足した。

「いざとなれば、私の所為(せい)にして下さい。私ならば、何とか(こら)えられますので…」と、ゲオは、申し出た。自分が、憎まれ役になれば、他の者達に、害は及ばないからだ。

「いいえ。それはなりませんわ!」と、天美が、頭を振った。

「確かに、そうなった時には、皆で責任を取るのが、筋ですからね」と、源庵も、口添えした。

「ゲオ様。怒られる時は、俺も、一緒ですよ」と、丸顔の男も、力強く言った。

「ははは…」と、目を細めた。これほど、頼もしい事など、一度も無かったからだ。そして、「では、参りましょう!」と、意気揚々に告げた。

 少し後れて、三人も頷いた。

 間も無く、ゲオ達は、店内へ歩を進めるのだった。

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