一〇、お呼びじゃない奴ら
一〇、お呼びじゃない奴ら
ゲオ達は、店内へ戻った。
その刹那、「遅かったねぇ。夜明けまで、待たなきゃならないかと思ったよ」と、ティーサが、開口一番に、嫌味を言った。
「このおっさんが、姫様を口説いてまして…」と、源庵が、口にした。
その瞬間、「え、ええ?」と、ゲオは、目を白黒させた。事実無根だからだ。そして、咄嗟に、振り返った。ここは、反論すべきだからだ。
「ゲオ様。ここは、潔く認めて下さいよ」と、丸顔の男も、冷ややかに促した。
「ゲオ様。遅れた原因は、あなたの助平心がしでかした事ですので、ティーサさんに、詫びて下さい」と、天美も、補足した。
「ひ、姫様を口説こうとは、何とも、破廉恥な!」と、中吉が、激昂した。
「ゲオ。欲求不満が、溜まっていたのね…」と、アヴェ・ンダも、嘆息した。
「ゲオさん、この大変な時に、何をやっているんですか!」と、元役人の大男が、語気を荒らげた。
「ひっ!」と、ゲオは、萎縮して、尻餅を突いた。まさか、やってもない事で、これ程、責められるとは、思ってもなかったからだ。
「おいおい。ゲオさんだって、男なんだぜ。若い娘を前にしたら、変な気を起こしたって、不思議じゃないだろうぜ」と、無精髭の男が、口元を綻ばせた。
「そこいらの若い娘と一緒にされては、困るでござる!」と、中吉が、息巻いた。
「わ、私は、そのようなつもりは…」と、ゲオは、気圧された。天美を、そのような如何わしい対象として、見た覚えは無いからだ。
「そう言われても、俺からすれば、服装以外は、どう見ても、バニ族のお嬢さんだぜ」と、丸顔の男が、要らぬ口を挟んだ。
「おい! これ以上、話をややこしくするな!」と、元役人の大男が、怒鳴った。
「確かに、そうでござるな。拙者としましても、これ以上、拗れてしまいますと、関係が、悪化してしまうかも知れませんのでね」と、源庵も、賛同した。
「ここは、ゲオが、ティーサさんに謝罪するしかないでしょうね」と、アヴェ・ンダが、提言した。
「そうですね。そもそも遅れた原因は、ゲオ様のいやらしい行為が、原因なのですから…」と、天美も、しれっと補足した。
「ええ! そういう流れですか!」と、ゲオは、素っ頓狂な声を発した。自分が、詫びを入れる流れになっているからだ。
「ゲオ様、時間が有りませんので、急いで、ティーサさんに詫びて下さい」と、丸顔の男が、要請した。
「はあ…。分かりました…」と、ゲオは、生返事をした。気乗りはしないが、場が収まるのなら、やるしかないからだ。そして、ティーサの正面へ、移動するなり、両膝を付いた。その直後、平伏すなり、「私の所為で、皆様に、御迷惑を掛けた事を、御詫びします!」と、謝罪した。
「は? あたいは、何も怒っちゃいないがねぇ」と、ティーサが、淡々と告げた。そして、「茶番も済んだ事だし、さっさと手順を話すから、顔を上げな」と、促した。
「は?」と、ゲオは、呆気に取られた。謝罪が、無駄に終わったからだ。
少しして、「ぼんやりしてないで、しゃきっとしろっ!」と、ティーサに、一喝された。
次の瞬間、ゲオは、我に返り、「は、はい!」と、直立した。
「ゲオ様、堂々として下さいよぉ〜」と、丸顔の男が、指摘した。
「は、はあ」と、ゲオは、生返事をした。急に、そのような事を言われても、そう易々と変われるものではないからだ。
「ゲオに堂々としろと言われても、難しいわね。人生の大半を、うちの下働きとして生きて来たんですものね」と、アヴェ・ンダが、溜め息を吐いた。
「デヘヘェ」と、ゲオは、苦笑した。まさに、その通りだからだ。
「ゲオさんは、そのままで良いんじゃないか?」と、元役人の大男が、口にした。
「そうだな。急に威張られても、困りものだしな」と、無精髭の男も、口添えした。
「背伸びをしても、ろくな事にならないしな」と、ゲラーナも、同調した。
「話は、済んだかい?」と、ティーサが、問うた。
「え、ええ」と、ゲオは、即答した。そろそろ、本題に入るべきだからだ。
「ティーサ殿、どのような手筈でしょうか?」と、源庵が、尋ねた。
「そうさねぇ。お前さんらには、街を出るまでの間、荷台にでも隠れてて貰おうかと思っているんだよねぇ〜」と、ティーサが、回答した。
「と、言いますと、幌の中にでも隠れてろって事でしょうか?」と、ゲオは、眉間に皺を寄せた。一番、使う手だからだ。
「最近は、検査の目が厳しいから、踏み込まれたら、終了だぜ」と、元役人の大男が、険しい顔をした。
「そうね。知り合いだったら、それなりに、簡単に済むでしょうけど、今はね…」と、アヴェ・ンダも、表情を曇らせた。
「あたいを見くびらないでおくれよ」と、ティーサが、含み笑いをした。
「じゃあ、何かしらのお考えでも?」と、ゲオは、問い掛けた。そして、「ティーサさん、聞かせて頂けませんか?」と、促した。興味が、そそられたからだ。
「つまり、モリータの名前を、逆に利用してやろうって事さ」と、ティーサが、したり顔で、返答した。そして、「あいつの息がかかってりゃあ、確率的に言って、すんなりと通して貰えるんだと思うんだけどねぇ」と、理由を語った。
「確かに、ティーサさんの言う通り、あいつに、信用が有れば、すんなりと行くだろうけどな…」と、元役人の大男が、奥歯に物の挟まった言い方をした。
「そりゃあ、どう言う意味だい?」と、ティーサが、睨みを利かせた。
「俺は、別に、あんたの考えに、ケチを付ける気なんて無いんだが、元より、他にも、役人内で、あいつの事を快く思っている奴が居るとは、考えられないんだよ」と、元役人の大男が、説明した。
「なるほど。あんたと同じように、モリータに対して、不満を持っている奴が居る事も、踏まえておけって事だね」と、ティーサが、理解を示した。
「そういう事だ」と、元役人の大男が、頷いた。
「しかし、そうなると、計画の練り直しが、必要となるねぇ」と、ティーサが、渋い表情をした。
「そうなったら、強行突破しかないでござろうな」と、中吉が、淡々と口にした。
「どうせ、出て行くんだから、ひと暴れするのも、アリだな」と、丸顔の男が、口元を綻ばせた。
「そうだな。降りかかって来る火の粉は、払わなけりゃならないからな」と、無精髭の男も、冴えない表情で、同調した。
「まあ、それは、最終手段にしておこうぜ。暴力で、問題が、解決するものでもないからな」と、ゲラーナが、意見を述べた。
「確かに、そうですね。暴力は、怒りと憎しみしか生みませんからね」と、源庵が、溜め息を吐いた。
「そうですね」と、天美も、相槌を打った。
「確かに」と、ゲオも、頷いた。自分も、力ずくで、物事を解決するのは、好きではないからだ。
「あたいらは、殺るか、殺られるか、だからねぇ。そんな甘っちょろい考えじゃあ、命が、幾つ在っても、足りないからねぇ」と、ティーサが、異を唱えた。
「あんたらは、特殊だよ」と、丸顔の男が、ツッコミを入れた。
「某の忍びの場所も、似たような境遇でござるな」と、中吉が、理解を示した。そして、「隙を見せると、命取りになるでござるからなぁ〜」と、言葉を続けた。
「まあ、どっちも危いのは、間違い無いのは、確かだろうな」と、無精髭の男が、納得した。
「そうですね。しかし、現在、拙者らは、追っ手に目を付けられているでござる。ここを出れば、刺客に襲われるのは、必至でござる」と、源庵が、真顔で語った。
「つまり、行動を共にするという事は、我々も、その刺客に狙われるという事ですね?」と、ゲオは、問うた。一応、確認しておきたいからだ。
「如何にも」と、源庵が、すんなりと頷いた。そして、「忍びは、目的の為ならば、手段は選ばないでござる。どんな手を使ってでも、命を奪いに来ますからね」と、補足した。
「あたいらよりも、執念深そうだねぇ」と、ティーサが、顔をしかめた。
「そうでござる。忍びに生きる者は、四六時中、心の刃を研いでいるでござる。そのように、仕込まれているのでござるよ」と、中吉が、自嘲気味に述べた。そして、「命を奪う事でしか存在を感じられない哀れな道化でござるよ…」と、皮肉った。
「中吉、自分を貶めるような事は、言わないで…」と、天美が、眉根を寄せた。そして、「少なくとも、私は、あなたに、命を救われていますわよ」と、否定した。
「そうですよ。あなたは、道化なんかじゃありません。大事な家臣ですよ」と、源庵も、口添えした。
「ははは…。家臣は、言い過ぎでござるよ。某には、身に余る御言葉でござる」と、中吉が、苦笑した。
「そんなに謙遜しなくても、良いでござるよ」と、源庵が、取り成した。
「そうよ。国を乗っ取った卑怯者達に比べれば、中吉の方が、まともだと思いますわよ」と、天美も、補足した。
「まあ、モリータよりかは、他人の役に立っているんだし、胸を張っても良いんじゃないのか?」と、元役人の大男が、口を挟んだ。
そうですね。アヴェ・ンダ様の名前を悪用して、私腹を肥やしている奴に比べれば、中吉さんのやっている事は、天美様のお役に立っておられるので、人の道には外れてませんよ」と、ゲオも、意見を述べた。主人の為に尽くしている事を感じ取っているからだ。
「ゲオ様。俺らも、アヴェ・ンダ様に対して、メス犬扱いをしたのは、従者失格ですね…」と、丸顔の男が、神妙な態度で、口にした。
「そうですね。御主人に対して、手を挙げてしまったのですからね…」と、ゲオも、同調した。理由は、どうあれ、アヴェ・ンダに手を挙げたのは、事実だからだ。
「ゲオ、気にしなくても良いわ。あなたは、人として、間違った事はしていないわ。これは、私が、あの男の本性を見抜けなかった罰よ」と、アヴェ・ンダが、語った。
「ゲオさん、どうします? アヴェ・ンダさんを解放しますか?」と、元役人の大男が、問うた。
「そうですね。元凶がはっきりしたので、解放して下さい」と、ゲオも、同意した。悪態をついていたのは、自分達を護る為の演技だと発覚したからだ。そして、「私は、アヴェ・ンダ様の気持ちを何一つ知らないのですね…」と、溜め息を吐いた。今回の件で、思い知らされたからだ。
「ですよねぇ」と、丸顔の男も、冴えない表情で、相槌を打った。
「俺が、もう少し、モリータの事を監視してりゃあ、未然に防ぐ事が出来たかも…」と、元役人の大男も、眉根を寄せた。
「今更悔やんだって、仕方がないだろう。モリータの野郎が、一枚上手だったって事さ」と、無精髭の男が、淡々と言った。
「確かに、ここで愚痴ってても仕方がないな。面倒な事にならないうちに、次の行動に移ろうぜ」と、ゲラーナが、提言した。
「そうでござるな。時は、待っててくれないでござるからな」と、中吉も、頷いた。
「まあ、争いだけは、避けたいですね」と、源庵が、口にした。
「相手の出方次第でしょうかねぇ」と、ゲオは、眉間に皺を寄せた。何事も無く、順調に進めれば良いからだ。
「ふん。それは、運を天に任せるしかないだろうねぇ」と、ティーサが、冷ややかに言った。
「そうですね。天命には逆らえませんものね」と、天美が、補足した。
「姫、某は、そのようなあやふやな事は、信じないでござる。ならば、姫が、国を追われるのは、間違っているでござる!」と、中吉が、熱っぽく口にした。
「私も、そう思います。後取りの姫様が、命を狙われるのは、天命なんかじゃありませんよ!」と、源庵も、強い口調で、口添えした。
「まあ、あたいが言えた義理じゃないけど、おかしな事をやる奴ってのは、大抵、人の道を外れた筋を通さない野郎ばかりだったねぇ」と、ティーサが、口を挟んだ。
「キャプテン・ハークの船を乗っ取ったモヒカズだったっけ?」と、無精髭の男が、どや顔で、割り込んだ。
「ああ。あのエテ公だよ」と、ティーサが、不快感を露にした。そして、「ハークに、散々、世話になっておきながら、あんな殺し方をするんだからさ」と、憎々しげに、言葉を続けた。
「まあ、半魚族でも、助からないだろうな」と、無精髭の男も、顔をしかめた。
「だろうね。大鮫に、丸飲みにされたところを目の当たりにしているからねぇ」と、ティーサが、告げた。
「どの辺の海域でしたか?」と、ゲオは、何気に、尋ねた。些か、気になったからだ。
「ハド村の沖辺りかねぇ」と、ティーサが、淡々と回答した。
「ゲオ様、何か、おかしなところでも?」と、丸顔の男が、問うた。
「あそこの鮫は、黄ワニと呼ばれる大人しい鮫の居る海域だと、昔、聞いたもので…」と、ゲオは、眉間に皺を寄せながら、返答した。その鮫が、ハークを丸飲みにしたという話が、解せないからだ。そして、「ティーサさんが、目撃したのは、どんな鮫でしたか?」と、質問した。ティーサの見た鮫が、黄ワニだとすれば、ハークの伝説には、裏が在る事になるからだ。
「う〜ん。忘れちまったねぇ〜。鮫は、鮫だからねぇ〜」と、ティーサが、溜め息を吐いた。
「ゲオさん。何にせよ、今は、真相を突き詰めている場合じゃありませんよ」と、元役人の大男が、頭を振った。
「そ、そうですね」と、ゲオは、苦笑した。今は、ハークの伝説の真相よりも、いかにして、ハド村へ行くかが、重要だからだ。
「話を元に戻すけど。チビハゲとバニ族のお嬢ちゃんは、特徴が有り過ぎるから、そのまんまじゃあ、乗せられないねぇ」と、ティーサが、指摘した。
「そうですね」と、一同が、一斉に、声を揃えた。
「じゃあ、私は、ここに残るしかないでしょうね…」と、ゲオは、落胆した。一緒に行けば、他の者達に、迷惑を掛けそうだからだ。
「ゲオ様が残るのでしたら、俺も、今回は、見送らせて貰おうかな…」と、丸顔の男も、示唆した。
「ここに来て、そりゃあ、無いぜぇ〜」と、無精髭の男が、口を尖らせた。
「今回は、縁が無かったと思うしかないでござるな」と、中吉も、淡々と口にした。
「そうですね」と、天美も、嘆息した。
「何を諦めているんだい?」と、ティーサが、溜め息を吐いた。
「何か、手でも有るのですか?」と、源庵が、怪訝な顔で、尋ねた。
「有るよ!」と、ティーサが、どや顔で、返事をした。
「聞かせて下さい!」と、源庵が、要請した。
「つまり、二人には、別の物になって貰うって事さねぇ」と、ティーサが、意味深長に言った。
「そりゃあ、どういう意味でござるか?」と、中吉が、質問した。
「そうだねぇ。干物にでもなって貰おうかねぇ」と、ティーサが、しれっと口にした。
「それは、姫を亡き者にしようと申すのでござるのかっ!」と、中吉が、激昂した。
「ははは! 勘違いしないで欲しいさねぇ!」と、ティーサが、一笑に付した。そして、「単に、呼び名が変わるだけで、特に、姫さん自体は、変わりゃあしないよ」と、説明した。
「どうとでも、言えるでござる!」と、中吉が、否定した。
「なるほど。そういう事ですね!」と、ゲオは、にこやかに、口を挟んだ。名称を変えれば、人であっても、干物にでもなれるからだ。
「しかし、そんな子供騙しが、通用する訳ないだろう…」と、中吉が、難色を示した。
「そうだな。中身を調べられれば、終了だぜ」と、無精髭の男も、同調した。
「要は、役人を納得させられるような仕込みをしなきゃあならないって事だな」と、元役人の大男が、口にした。
「しかし、姫様を物として扱うのは、少々…」と、源庵も、表情を曇らせた。
「必要でしたら、私は、何にでもなりますわ」と、天美が、告げた。
「じゃあ、私が、ティーサさんの提案に乗っかっても良いわよ」と、アヴェ・ンダが、申し出た。
「女性には、そのような事は、させられません! ここは、私が、やりましょう!」と、ゲオは、立候補した。こうでも言わないと、格好が付かないからだ。
その瞬間、「どうぞ、どうぞ」周りの者達が、一斉に、賛同した。
「え?」と、ゲオは、面食らった。まさか、満場一致で決まるとは、思っていなかったからだ。そして、「やるしかないですね…」と、表情を強張らせた。何をやらされるのか、さっぱり判らないからだ。
「安心しな。別に、痛い目に遭わそうって訳じゃないんだからさ」と、ティーサが、穏やか口調で、告げた。
「じゃあ、どんな目ですかぁ?」と、ゲオは、怪訝な顔をした。ろくでもない事だと予感したからだ。
「別に、あんたが降りても構わないわよ。残る二人の内、どっちかにやって貰うだけだからさ」と、ティーサが、淡々と言った。
「ゲオ様、ここは、やって下さい。男が、廃りますので!」と、丸顔の男が、進言した。
「そうですよ。恐らく、ゲオさんにしかやれない事だと思いますよ」と、無精髭の男も、補足した。
「まあ、話を聞いてからでも、取り止めても良いんじゃないのか?」と、ゲラーナも、意見を述べた。
「ゲオ殿、何とか、引き受けて下され!」と、源庵も、圧力を掛けながら、申し出た。
「う〜ん。話を聞かせて下さい」と、ゲオは、冴えない表情で、促した。断るにしても、話を聞いてからにしないと、無理そうだからだ。
「へ、簡単な事さよ。現物になって貰うんだからさ」と、ティーサが、あっけらかんと言った。
「で、でも、こんな夜中に干物なんて、無理なんじゃないんですか?」と、ゲオは、表情を強張らせた。月明かりでは、干物にする事は、不可能だからだ。
「う〜ん。別に、干物にならなくても良いんだけどね」と、ティーサが、意味深長に言った。
「でも、本当にならないにしても、それらしく見せる必要があるでしょう?」と、ゲオは、尋ねた。干物にされるのだから、何かしらの格好にさせられるのは、確かだからだ。
「包帯で、ぐるぐる巻きになって貰おうさねぇ」と、ティーサが、含み笑いをした。
「包帯と干物と、どのような関係が在るんですか?」と、ゲオは、小首を傾いだ。関連性が、しっくりと来ないからだ。
「あんたには、子供のミイラになって貰おうと思っているんだよねぇ」と、ティーサが、考えを述べた。
「は? 何ですか? そのミイラってのは?」と、ゲオは、怪訝な顔で、尋ねた。いまいち、想像が出来ないからだ。
「ミイラってのは、別の大陸に在る砂だらけの国の王族だけが、布に巻かれた死体の事を言うのだよ。あたいも、外見だけしか見た事が無いから、本当に、干物かどうかは知らないけどねぇ」と、ティーサが、説明をした。
「そうなんですかぁ〜」と、ゲオは、理解を示した。一応、実物を見ているのならば、納得するしかないからだ。
「ゲオ様が知らないのに、役人に、ミイラの事が、判るんでしょうかねぇ〜」と、丸顔の男が、懸念した。
「モリータの息がかかった奴らなら、尚更だろうな」と、元役人の大男が、皮肉った。
「だろうな」と、ゲラーナも、相槌を打った。
「じゃあ、私が、お化けにでもなれって事ですね」と、ゲオは、理解を示した。要は、包帯を巻いて、大人しくしてれば良いのだと解釈したからだ。
「まあ、簡単に言えば、そうだねぇ」と、ティーサが、調子を合わせた。
「からくりさえ判れば、どうって事ありませんね」と、ゲオは、安堵した。ようやく、理解出来たからだ。
「じゃあ、拙者が、包帯を巻いてしんぜましょう」と、源庵が、申し出た。
「そうかい。じゃあ、あんたに任せるとしようかね」と、ティーサが、一任した。
「源庵、任せましたよ」と、天美も、口添えした。
「はっ! 承知しました!」と、源庵が、一礼した。
「でも、新しい物を巻くのは、かえって、怪しまれるんじゃないのか?」と、無精髭の男が、指摘した。
「あたいも、そんな勿体無い事なんてしないよ。古くなった物を使うまでだよ」と、ティーサが、回答した。
「廃物利用って訳ですね…」と、ゲオは、眉根を寄せた。お役御免前の布切れを巻いて、ミイラに扮するのが、まるで、お誂え向きに思ったからだ。
「ゲオ様、そんなに悲観なさらないで下さい。街を抜けられるまでの辛抱ですので…」と、丸顔の男が、言い含めた。
「おっさん。ただ、大人しくしているだけで、他人の役に立てるなんて、中々、出来やしない事だぜ。もっと、胸を張りな」と、ゲラーナも、口添えした。
「ははは…。そうですね…」と、ゲオは、聞き入れた。確かに、何もしないで居るだけなのに、役に立てるという事など、ほとんど有り得ないからだ。
「仕切り台の裏へ行きな。時間が無いから、そこで、ミイラの支度をしてくんな」と、ティーサが、指示した。
「ゲオ殿、参りましょう」と、源庵が、告げた。
「ええ」と、ゲオも、応じた。
間も無く、二人は、仕切り台の裏へ回り込んだ。
ゲオは、受け箱の中に、色褪せた包帯が、くるまっているのを視認した。
「ゲオ殿。早速、作業に取り掛からせて頂きますので、そこに横たわって下さい」と、源庵が、促した。
「は、はい!」と、ゲオは、その場で、仰向けになった。そして、「こ、これで、宜しいですか?」と、尋ねた。この姿勢が、無難だからだ。
「ええ」と、源庵が、返事をした。そして、「そのままじゃあ、不味いでしょうから、干物っぽい何かを巻き付けましょうか?」と、提案した。
「そ、そうですね…」と、ゲオも、同意した。そのままでは、怪我人と間違われるかも知れないからだ。
「ティーサ殿。何か、乾いた物でもござらんか?」と、源庵が、問い合わせた。
その刹那、「つまみ用の鎧イカだったら、使っても良いよ!」と、ティーサが、返答した。
「これですね。中々の上物ですねぇ」と、源庵が、にこやかに言った。
間も無く、「あんたら、何用だい?」と、ティーサが、不機嫌そうに、尋ねた。そして、「飲みに来た訳でもなさそうだねぇ」と、言葉を続けた。
「如何にも! ここに、密輸をした者が逃げ込んで居るかも知れんので、一応、捜索をさせて貰いに来たんだよ」と、聞き覚えの有る男の声が、意気揚々に、理由を語った。
「ほう。で、何を密輸しようとしていたんだい?」と、ティーサが、挑戦的に、問うた。
「犬と称して、女性を国外へ売り飛ばそうとしている連中だ」と、聞き覚えの有る男の声が、言い切った。
「へぇ〜。あたいらも、昔は、そうやって、国外の ヤバい奴らと取り引きをしていたさねぇ〜」と、ティーサが、しれっと言葉を返した。そして、「客じゃないんなら、とっとと帰りな! しっしっ!」と、捲し立てた。
「ほう。じゃあ、これを見ても、同じ事を言えるのかな?」と、聞き覚えの有る男が、勿体振った。
「へぇ〜。あたいを脅すのかい?」と、ティーサも、怯まずに、言い返した。そして、「その紙切れが、本物かどうか、怪しいものだねぇ〜」と、訝しがった。
「にゃにほぉ〜! ほひーは、ひゃはをうはぎゃふほは?」と、滑舌の悪い男の声が、口を挟んだ。
「は? 何を言っているのか、判らないねぇ。口の中を、ちゃんと直してから、喋んな!」と、ティーサが、一喝した。
「テン・ネーン。少し黙っていろ」と、聞き覚えの有る男の声が、窘めた。
「ひゃひ…」と、テン・ネーンが、神妙に返事をした。
「俺が、詰所で作成した物だから、これは、本物だ」と、聞き覚えの有る男の声が、落ち着き払って、告げた。
「そうかい。けれど、何も無かった場合は、どうするんだい?」と、ティーサが、質問した。そして、「この暴挙を、庁舎の本隊へ、伝えても良いんだね?」と、補足した。
「それは、結果が出ても、遅くはないんじゃありませんか?」と、聞き覚えの有る男の声が、意味深長に、回答した。そして、「で、捜索をやらせて頂けるのですかねぇ〜」と、上から目線で、要求した。
「善かれ 悪しかれ、あんたが、全ての責任を取るんだったら、あたしゃ、構わないよ」と、ティーサが、渋々、許可した。
その間に、ゲオのミイラ作業も、完了した。
「ゲオさん、出来ましたよ」と、源庵が、小声で、告げた。
「そ、そうですか…」と、ゲオは、ぎこちなく返事をした。ガチガチに巻かれているので、動く事が出来ないからだ。そして、「口を動かす以外は、何も出来ないんですね…」と、ぼやいた。これ程、不自由になるとは、思っていなかったからだ。
「姫様が心配ですので、ちょっと、様子を見て来ます」と、源庵が、口にした。
そこへ、「おい! お前! そこで、何をしている!」と、聞き覚えの有る男の声が、詰問した。
「ちょっと、頼まれ事をしていたものでして…」と、源庵が、曖昧な返答をした。
「退けっ!」と、聞き覚えの有る男の声が、言い放った。
程無くして、ゲオは、声の主の顔を視認するなり、「!」と、息を呑んだ。モリータだと判明したからだ。
「この小汚ない物は、何だ?」と、モリータが、源庵を見やりながら、尋ねた。
「これは、異国のミイラという物です」と、源庵が、回答した。
「ミイラ?」と、モリータが、訝しがった。
「ご存知無いのですか? このように、包帯を巻き付けて、遺体を保存しているのですよ」と、源庵が、説明した。
「は? 死んだ者を保存するだと? 寝言は寝てから言えよ」と、モリータが、毒づいた。
「何か、不審な点でも在られるのですか?」と、源庵が、問い返した。
「そうだな。殺しの可能性も、考えられるからな」と、モリータが、口にした。
「で、どうしたいのですか?」と、源庵が、質問した。
「こいつを、剣で刺すとしようかなぁ〜? 死んで間も無いなら、血が流れる筈だからな」と、モリータが、含みの有る物言いをした。その直後、金属の擦れる音がした。
ゲオは、息を呑んだ。嫌な予感がしたからだ。
「さあて、どこを刺してやろうかなぁ〜」と、モリータが、示唆した。
「あなた! 死者に対する冒涜ですよ!」と、源庵が、食って掛かった。
「うるさい! お前も、不法滞在者として、牢屋へぶち込んでやっても良いんだぞ!」と、モリータが、凄んだ。
「あたいの店で、ギャーギャー騒ぐんじゃないよ。刺したきゃ、刺しゃあ良いさ。気の済むようにすりゃあ良いさ」と、ティーサが、冷ややかに言った。
「確かに、そうですね。私も、罰当たりな行為を看過したくなかっただけですけど、やりたいのでしたら、どうぞ」と、源庵も、同調した。
「へっ! そんな迷信にびびってちゃあ、役人なんて出来ないよ」と、モリータが、口にした。次の瞬間、「えいやっ!」と、声を発した。
その刹那、「ぐ…」と、ゲオは、胸の衝撃に、歯を食い縛った。流石に、貫かれたかと思ったからだ。
その直後、「痛っ…!」と、モリータが、痛がった。そして、「ミイラという物は、こんなに硬い物なのか…」と、感想を告げた。
「そうさねぇ。干物になっているから、石くらいに硬いかもねぇ」と、ティーサが、見解を述べた。
「御役人殿。これで、気は済みましたか?」と、源庵が、尋ねた。
「くっ!」と、モリータが、歯噛みをした。
「客じゃないんだし、営業妨害だから、とっとと帰ってくれないかねぇ〜」と、ティーサが、不機嫌に、勧告した。
「テン・ネーン、出るぞ!」と、モリータが、声を掛けた。
その直後、「ひゃひ」と、テン・ネーンの空気の漏れる返事が、聞こえた。
間も無く、モリータの足音が、遠ざかった。
少し後れて、テン・ネーンの足音も、小さくなった。
しばらくして、扉の開閉音が、響いた。
その直後、「ゲオ殿!」と、源庵が、覗き込んで来た。そして、「大丈夫ですか?」と、問い掛けた。
「は、はい…」と、ゲオは、弱々しく返事をした。一応、大丈夫そうだからだ。
「まさか、刺すとはねぇ〜」と、ティーサも、溜め息を吐いた。
「いったい、何を考えているんですかねぇ〜」と、源庵も、困惑した。
少しして、「中吉が、教えてくれなければ、ややこしい事になるところでしたわね」と、天美の声がして来た。
源庵が、顔を背けるなり、「姫、御無事でしたかっ!」と、安堵した。
「ええ。奥へ隠れて居ました」と、天美が、回答した。
「そうでしたか…。こちらの方に、気を取られてまして、気が付きませんでした…」と、源庵が、言葉を詰まらせた。
「あなたは、あなたのやるべき事に従事していただけです。お陰で、私達も、助かっているのです。気になさらなくて良いんですよ」と、天美が、労った。
「しかし、あいつらが、あっさりと出て行った事が、気になるなぁ〜」と、元役人の大男が、口にした。
「そうだな。帰ったと思わせて、待ち伏せをされているかも知れないな」と、ゲラーナも、考えを述べた。
「暇な奴だから、その線が、濃いかも知れないな」と、無精髭の男も、同調した。
「かなり、執念深い奴みたいですね」と、源庵も、溜め息を吐いた。
「モリータ、捜索とか言ってたけど、本命は、外へ出るなり、捕らえる気なんだろうねぇ」と、ティーサも、憶測を口にした。
「ただの嫌がらせだな」と、丸顔の男が、皮肉った。
「しかし、嫌がらせに屈する訳にはいきません。何かしらの方法で、抜け出すしかないでしょうね」と、天美が、強い口調で、言った。
「しかし、外の様子が判りませんので、どうにも…」と、源庵が、言葉を詰まらせた。
「そうだな。二人だけで来ているとは思えんがな」と、元役人の大男も、同調した。
「しからば、某が、様子を見て来るでござる」と、中吉が、偵察を買って出た。
「おいおい。正面から行く気かよ?」と、丸顔の男が、問うた。
「某は、あそこから探るでござる」と、中吉が、回答した。
「ああ。なるほどね」と、丸顔の男が、理解を示した。
「では、見て参る!」と、中吉が、告げた。程無くして、店の奥へ移動した。
「まともに出たら、モリータの事だから、間違いなく職権を乱用して来るだろうな」と、元役人の大男が、行動予測を述べた。
「確かに、天下の往来なら、何をやろうと、役人という立場で、都合の良いように、捏造出来るからな」と、ゲラーナも、口添えした。
「つまり、やってもいない罪を付けられるという事ですね?」と、源庵が、尋ねた。
「そういう事さね。だから、ここでは、あっさりと引き下がったのだろうねぇ」と、ティーサも、見解を述べた。
「モリータという者は、私利私欲為なら、手段を選ばない卑しい者なのですね」と、天美が、不快感を吐露した。
「まあ、中吉殿が、戻って来てから、次の行動に移るのが、賢明でしょうな」と、源庵が、口にした。
「そうだな。人数によっては、強行策も考えなきゃあならんだろうな」と、元役人の大男も、同調した。
「そうなったら、落ち合う場所を決めておいた方が良いだろうな」と、ゲラーナが、提言した。
「そうですな。闇雲に、逃げ回っても、困りものですからね」と、源庵も、賛同した。
「じゃあ、西の門にしたら、どうだい?」と、ティーサが、助言した。
「そうだな。取り敢えず、そこにしておいた方が、確実だろうな」と、ゲラーナも、同意した。
「姫様、構いませんね?」と、源庵が、伺った。
「ええ。皆様の意見に、異論はありませんわ」と、天美も、聞き入れた。
「じゃあ、荷馬車を手配しておこうかねぇ〜」と、ティーサが、告げた。
「じゃあ、ゲオさんや姫さんらを先に乗せた方が、良いかもな」と、無精髭の男が、提案した。
「確かに、あの状態じゃあ、動けないですね。それに、アヴェ・ンダさんも、足腰に来ていますからね」と、丸顔の男も、口添えした。
「失礼ね! 私は、そんなに老いぼれてないわよ!」と、アヴェ・ンダが、語気を荒らげた。
「傍から見たら、結構、老化しているって事さ。あたいも、腰をやっちまった時に、思い知らされたからね」と、ティーサが、淡々と語った。
「くっ!」と、アヴェ・ンダが、納得行かないと言うように、歯噛みした。
「あんまり腹を立てると、皺が増えちまうさね」と、ティーサが、宥めた。
「アヴェ・ンダさん。ここは、大人しく、馬車へ便乗させて頂きませんか?」と、天美が、声を掛けた。
「あなたも、私が、年増だから、そう言うのかしら?」と、アヴェ・ンダが、不機嫌に、問うた。
「私は、そういう意味ではなく、皆さんのご厚意だと受け止めますわ」と、天美が、考えを述べた。
「そうね。今は、私が、年増かどうかなんて、どうでも良い話ですものね。確かに、馬車で移動した方が楽だし、皆の足手まといにはならないって事よね」と、アヴェ・ンダも、納得した。
「後は、中吉殿が戻られたら、連中の配置も判るでしょうからね。手薄な所から脱出ですね」と、源庵が、口にした。
「ところで、ゲオさん。さっきから何も喋っていないけど、大丈夫か?」と、元役人の大男が、心配した。
「一応、死体ですので、息以外は出来ないように、固く巻いているんですよ」と、源庵が、説明した。
「確かに、死体が、声を発しちゃあ、不味いですよね」と、無精髭の男が、理解を示した。
「流石に、さっきのは、胆を冷やしましたけどね」と、源庵が、吐露した。
「モリータの野郎は、ある意味、イカれているからなぁ〜。まともな感覚だと、足下をすくわれるぜ」と、元役人の大男が、見解を述べた。
「そうさねぇ。あたいも、同感だよ。久方ぶりのイカれ野郎だね」と、ティーサも、同調した。そして、「あんなのが、よくも、役人になれたもんさねぇ〜」と、眉をひそめた。
「背後に、相当な権力者が居るんだろうな」と、ゲラーナが、補足した。
「アヴェ・ンダは、何か知らないかい?」と、ティーサが、尋ねた。
「私も、よくは知らないわねぇ。詰所の所長になったって、挨拶に来たくらいで、その前の事は、知らないわね」と、アヴェ・ンダが、回答した。
「あんたも、モリータの噂の一つや二つくらい、聞いた事が有るんじゃないのかい?」と、丸顔の男が、元役人の大男に、問うた。
「う〜ん。俺は、あいつの事は、何一つ知らないが、テン・ネーンが、情報を止めている可能性も考えられるな」と、元役人の大男が、冴えない表情で、口にした。
「今更、あいつらの背後の奴の事を論じても、手遅れだろ?」と、無精髭の男が、指摘した。
「相当な卑怯者だろうぜ。例え判ったところで、今の俺らには、意味の無い事だろうぜ」と、ゲラーナが、吐き捨てるように言った。
「確かにな。今は、どうやって抜け出すかだぜ」と、元役人の大男が、口にした。
そこへ、「只今、戻ったでござる」と、中吉が、告げた。
「中吉殿、様子を教えて下され」と、源庵が、促した。
「拙者の調べでは、表に、モリータが、指揮している隊と、裏口には、先刻の滑舌の悪い男と役人とは違う者数人が、待ち伏せているでござる」と、中吉が、状況を報告した。
「どうやら、ゲオ様に出し抜かれたもんだから、腕の立ちそうな冒険者崩れのような奴らを雇ったのかも知れないな」と、丸顔の男が、憶測を述べた。
「あいつにしたら、学習しているみたいだな」と、元役人の大男が、皮肉った。
「相当、悔しかったんだろうぜ」と、ゲラーナも、口添えした。
「そうなると、戦いは、必至だろうな」と、無精髭の男が、眉根を寄せた。
「そうなるでしょうね。しかし、出来れば、避けたいところですね」と、源庵も、溜め息を吐いた。
「誰かが、連中の気を惹くしかないでござるな」と、中吉が、示唆した。
「そう言えば、女子供の抜け出せる窓が、奥の部屋に在りましたわね」と、天美が、口にした。
「なるほど。その手が有ったでござるな!」と、中吉が、はっ息を呑んだ。
「でも、そっちの方にも、連中の手が回っているんじゃないのか?」と、丸顔の男が、懸念した。
「いや、そっちの方へは回っていなかったでござる」と、中吉が、回答した。そして、「ここは、正面から出るのが、手かも知れないでござるな」と、口にした。
「なるほど。あいつらの読みじゃあ、俺らは、打って出ないっていう読みなんだろうな」と、ゲラーナも、憶測を述べた。
「モリータを攻め立てれば、嫌でも、裏の奴らも呼び込むだろうからな」と、元役人の大男も、意気込んだ。
「やれやれ。俺も、覚悟を決めなくてはならないだろうな…」と、無精髭の男が、ぼやいた。
「嫌なら、ゲオさんを運ぶ方へ回ったって良いんだぜ」と、丸顔の男が、提言した。
「そうさせて貰おうかな。痛い思いをするのは、嫌だからな」と、無精髭の男が、聞き入れた。
「拙者も、手伝うとしよう。窓まで、ゲオ殿を運ぶ事くらいは、させて頂こう」と、源庵も、申し出た。
「俺とお前さんは、モリータ達へ殴り込みと行こうかな」と、ゲラーナが、戦意を高揚させた。
「そうだな。あの面を、一回、ぶん殴ってやりたいと思っていたんだよな」と、元役人の大男も、賛同した。
「某も、加勢するでござるよ」と、中吉も、告げた。
「俺は、裏口を見張っておくぜ。入って来られても、困るからよ」と、丸顔の男が、見張り役を買って出た。
「裏の連中は、あたいに任せな。中では、好き勝手な事をさせる気なんて無いからね」と、ティーサが、力強く言った。
「こりゃあ、頼もしいな」と、丸顔の男が、嬉々とした。
「そうそう」と、無精髭の男も、相槌を打った。
「何だい! 調子の良い事を言うんじゃないよ!」と、ティーサが、呆れ気味に言った。
「十を数えるので、姫様達は、奥へ行くでござる」と、中吉が、促した。
「分かりましたわ。皆様も、後ほど…」と、天美も、同意した。
間も無く、ゲオも、無精髭の男と源庵に持ち上げられるなり、奥へ運ばれるのだった。




