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短編傑作選

明智光秀がサンタさんに信長の首をお願いした話

 昔々あるところに明智光秀という武将がおりました。

 織田信長という武将に仕えていた明智光秀は破天荒な信長に苛められてばかり、いつしか明智光秀は信長が死んでくれればいいのになと思うようになったのです。


 そんなある日、光秀は知り合いの宣教師にとある話を聞きます。

 それは十二月二十五日のクリスマスと呼ばれる日に、赤い靴下を枕元に置いて欲しいものをお願いするとサンタさんという赤い服を着て白い口髭を蓄えたお爺さんが届けてくれるというものでした。


 そして十二月二十五日の夜。

 明智光秀は枕元に赤い靴下を置くと、サンタさんにお願いをしました。


「サンタさん、サンタさん。どうか、信長の首をください」


 本当にサンタさんは来てくれるのでしょうか。期待に胸を膨らませながら眠りについた次の日、赤い靴下の中を見てみると一通のお手紙が入っていました。

 急いで手紙を取り出すと明智光秀は読んでみます。


 内容はこうでした。



『やあ、明智光秀くん。君のお願い確かに聞き届けました。

 でもごめんなさい、今すぐに君のお願いを叶えるのは難しそうです。

 来年の六月の二十一日に本能寺に来てください。

                          サンタより』



 それはサンタさんからのお手紙でした。


 来年の六月の二十一日に本能寺に。一体何があるのでしょう?

 不思議に思いながらも、次の年の六月の二十一日に明智光秀は自分の軍隊の進路を変えて本能寺に行ってみました。


 するとどうでしょう。

 本能寺が真っ赤に燃え上がっているではありませんか。

 慌てて本能寺の中に入ると、そこには赤い服を着て白い口髭を蓄えた恰幅のいいお爺さんが信長の首を持って立っていたのです。


「あ、あなたはもしかしてサンタさん?」


 明智光秀が恐る恐る訊ねると、サンタさんはにっこりと優しい笑みを浮かべていいました。


「やあ、メリークリスマス明智光秀くん。遅くなってしまってすまなかったね。ほら、君がお願いした信長の首だよ」


 サンタさんは明智光秀の元に歩いてくると、手に持った信長の首を明智光秀に手渡しました。

 それは確かに織田信長でした。明智光秀をいじめていた信長の首に間違いありませんでした。

 本当にサンタさんは信長の首を持ってきてくれたのです。


「サンタさん、ありがとうございます!」


 明智光秀がお礼を言うとサンタさんは満足気に頷き、トナカイの引くソリに乗ると空を舞って帰っていってしまいました。

 織田信長は当時天下人に一番近い武将でした。

 そんな織田信長の首を取った明智光秀は、計らずも天下人に一番近い武将になったのです。


 天下はもうすぐそこでした。

 しかし、そんな明智光秀の天下は長くは続かなかったのです。

 ほんの数日と経たない内に明智光秀の前に毛利攻めの為に遠出をしていたはずの羽柴秀吉の軍が現れたからです。


 一体どうやって、あんな距離をこの短期間で羽柴秀吉は移動してきたのでしょう。

 敗北に打ちひしがれる明智光秀の前に羽柴秀吉が現れて言います。


「これで天下はワシのもんじゃ」


 しかし、明智光秀の視線は羽柴秀吉の隣に立つ人物に釘付けになっていました。


「そんな、あなたがどうして?」


 赤い服に、白い口髭を蓄えた恰幅のいい老人。

 それはサンタさんでした。

 なんでサンタさんが羽柴秀吉の隣に。驚愕に声を失う明智光秀に羽柴秀吉が言います。


「簡単な事よ。ワシもサンタさんに、天下が欲しいとお願いしとったんじゃ。光秀、お前を殺して天下を貰うで」


 なんという事でしょう。羽柴秀吉もまたサンタさんに天下をくださいとお願いしていたのです。

 この短期間で中国を返してここまで来られた理由も、サンタさんの力によって羽柴秀吉の軍全てをサンタさんのトナカイのソリのように宙に浮かせて飛んできたからだったのです。


「これで天下はワシのもんじゃ」


 羽柴秀吉は明智光秀に止めをさしました。


「メリークリスマス羽柴秀吉くん。これで天下は君のものだ。遅くなってしまったが、確かに渡したよ」

「サンタさん。ほんまありがとう!」


 羽柴秀吉がお礼を言うと、サンタさんは満足気に頷くと明智光秀が持つ信長の首を手に取りました。

 慌てて羽柴秀吉がサンタさんに問います。


「サンタさん、信長さまの首をどうするんじゃ?」


 サンタさんは信長の首を手に持ったまま言いました。


「織田信長くんにお願いされてね。自分が死ぬ事があっても死体は誰にも渡さないで欲しいと。メリークリスマス織田信長くん。遅くなってしまったが、君が頼んだ安息。確かに渡したよ」


 サンタさんがそう言うと、信長の首は優しい光に包まれて消えてしまいました。

 織田信長もまた、サンタさんにお願いをしていたのです。


「さて、これでこの国での仕事は終わった。それじゃあ、私は行くよ。まだまだ世界中に私のプレゼントを待っている人々がいるからね」


 そう言うとサンタさんは、トナカイの引くソリに乗ると宙を舞い去って行ってしまいました。

 残された羽柴秀吉は、そんなサンタの姿を目で追いながら一人呟きます。


「サンタ……、恐ろしい力じゃ。こりゃ誰にも使わしたらあかん。ワシが天下を取ったらキリスト教は弾圧じゃ!」


 そうして天下を取った豊臣秀吉によってキリスト教は弾圧されてしまいました。

 それによって後に本能寺の変と呼ばれる事件の影にいたサンタさんの存在もまた歴史に残る事はなかったのです。


 西洋における神秘の時代が終わりを告げ、再び日本でクリスマスが祝われるようになる頃にはサンタさんは空想の存在になってしまっていました。


 今となっては戦国時代にサンタさんがいたなどと信じるものは誰もいません。

 しかし、そんな中にあっても明智光秀がサンタさんに信長の首をお願いしたという話は隠れキリシタン達によってまことしやかに語り継がれ、こうしてお伽話として現代に残っているのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サタンかな?
[良い点] 史実をサンタクロースを交えた、ユーモラスなお話に変えた出来ばえですね。 柔軟な頭脳が感じられる作品でした。 私はどちらかというと堅物ですのでこういう柔軟なお話は書けませんが、それだけに受け…
[一言] みんないいこにしてたんだね! ( ´∀`)つ(๑'∀'๑)
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