まだ見ぬ世界
遅くなりました…
週一どころか月一もできてないですね…
申し訳ないです…
目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。
体は動かないが辺りを見渡すことができるし、移動することができる。
ん?体が動かないのに移動できる…?
振り返るとそこには私が居た。
「え…?嘘…そんな…」
しばらく、自分がどうなっているのか分からなかった。
しかし、そのまま部屋を出ようとしたところで凄まじい怖気を感じ、その場に縛り付けられるような感覚に襲われる。
何かを理解してしまった。
そう感じた時には既に遅く、頭の中を直接掻き回されているような気持ちの悪い感覚に吐き気を覚える。
その感覚に耐えきれずその場で踞ろうとしたが体が動かない。
それからどれほど経っただろうか。
やっと気持ちの悪い感覚が薄れ、脳内がクリアになっていく。
そこで、この場所で目覚める前の最後の記憶を必死で呼び起こし、自分がどのような状況に置かれているかを考え始めた。
…がしかし、記憶をいくら遡っても一向に結論が出ない。
そもそも本当にそんなことがあったのかさえはっきりとしないし、夢だと言われた方がしっくりくる。
一度冷静になってみると記憶の整理がついてきて、周りの情報も把握することができた。
いきなりのことで驚いて混乱していたが、よくよく見てみるとそこはいつしか見た事のある部屋だったのだ。
どこで見たかは覚えていないが見慣れているような…そんな気がして一安心できた。
「なんだ…夢か…」
そう口に出すと急に現実感を帯び始め、夢のことはすぐ忘れるだろうと考え、とりあえず部屋から出てみることにして歩を進めようとしたがドアは近づいてこない。
不思議に思って瞼を擦ってみると浮遊感に包まれ、扉が遠ざかっていく。
そしてすぐその現象が収まると、いつもより重力を感じ、一瞬だけ自分の体ではないような感覚があったが、また振り返ってみると視界には椅子の背もたれとその後ろの壁だけが写った。
そこで、先程振り返った時後ろに自分の姿があった事を思い出して肌が粟立つ。
しばらく腕を摩っているうちに粟立っていた肌は治まり、普通に移動することも可能になった。
そのまま扉に向かって進んで行き、ドアノブに手をかけ、部屋の外に出るとそこは礼拝堂のようなところだった。
辺りを見回しても人影は無く、異常なほどの静寂に満ちていて、扉の軋む音だけが室内に木霊する。
ステンドグラスから差し込む光は赤みがかっており、外は夕暮れ時のようだった。
周囲を気にしつつ礼拝堂の外まで出ると目の前には緑が溢れていて、何か懐かしさを感じる。
振り返って建物を見てみてると、やや廃れていたがそれでも荘厳さを残している大きな教会のようだった。
しかし、この教会には 全く見覚えはなく、なぜ先程懐かしさを感じたのかは分からなかった。
気を取り直して深呼吸をしてみると、勢いよく吸い過ぎたのか、むせ返ってしまう。
「ゲホッ、ゲホッ、ケホッ、ゴホッ」
咄嗟に口元を抑えたが、手のひらに違和感を感じ、広げて見ると赤くベッタリとしたものが付着していた。
「え…嘘…これって…」
驚愕に目を見張り、先程夢だと結論づけた不思議な体験を思い出してお腹の辺りを摩ると微かに痛みを感じ、さらに目を見開いた。
「夢…じゃなかったの…?でも…これって…」
彼女は夢が現実か判断がつかないようだったが、異常に静まり返った周囲と、夕暮れ時にも関わらず太陽が沈んでいかない光景に気づく余裕もなかった。
立ち尽くしている彼女の視界を黒い何かが横切る。
バッとそちらを向くと物音一つさせずに光の一切を遮断しているような小さな影がいた。
「猫ちゃん…?」
その声に気づいたのかその小さな黒い影は一度立ち止まって振り返ったが、また歩き出した。
「あ、まって!」
彼女はその黒い影の後を追いかけて森の中へ進んで行った。
■□■□■
「よーし二人とも、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
「問題ない」
「二人とも頑張ってね!」
「お、応援…してます…!」
先生の問いかけに僕とトモが答えると、ユキのルミの激励が飛ぶ。
ハルは壁にもたれながら軽く拳を作るジェスチャーをしていて、頑張れという気持ちが伝わってきた。
僕はしっかりと頷き、改めて気合いをいれる。
「おう」
トモも簡単な相槌しか打たなかったが、いつも以上のやる気を感じた。
二人は心を落ち着け、集中力を高め始める。
コウの周りを草や葉が取り巻き、トモの周囲には負の力が集まる。
これは周りから見てどうなっているかが分かりやすくなるよう男の力によって調整されているためである。
この調整が無いと自分も他の人も状況が把握できず、事故が起きてしまう。
過去の例としては許容量を遥かに超えるエネルギーを発生させ、その空間ごと消滅してしまったということがあった。
同じことを繰り返さないために試行錯誤した結果である。
そんな中で2人は徐々に力を集中させてゆき、現在の上限近くまで達する。
一度そのままキープして、お互いに向き合う形となる。
1人で少しずつ器を広げていくのは不可能ではないが途方もない時間がかかる上に、波があると簡単にヒビが入るため、とても効率が悪い。
だからこそ、お互いに力を相殺させ合い、暴走しないよう制御しつつも、相手に危害を加えないように加減をする必要がある。
そのような細かなコントロールをすることによって精神力はかなり削られるが、効率良く上限をあげていくことができる。
トモはコウに向けて負の力を発してゆき、コウは周りから吸収した生命力を負の力にぶつけて相殺していった。
変わり映えの無い光景だったが2人が消耗しているのは目に見えてわかった。
しばらく続いていくうちに両者互角だった力関係が動き始め、コウの方が優勢となり、トモが押され始める。
コウがそのことに気がついて力を緩めたと同時にトモが焦ったのか一気に力を放出した。
トモがまずいと思った時には既に遅く、コウは負の力に呑み込まれた。
コウはその瞬間咄嗟に放出を止め、負の力を吸収することにした。
生身の人間であったならば即死する程のものであったが、先程周りから吸収した生命力が余分に体内に残っていたため体内で相殺させることにしたのだ。
その一瞬の出来事にトモを含め周りは目を剥き、すぐ補助に入ろうとしたが、黒い靄の中からコウが抜け出し、無事なことがわかったため誰も手を出すことは無かった。
しかしその際にかなり力を消費したことによってその場で立っているのがやっとの状態だった。
それでもコウは止めようとせず、周りから生命力を吸収してすぐに体制を立て直し、継続の意志を表明する。
いつものんびりとしたコウが見せる闘志を感じた周りは何も言わずただ見ることに専念し、それを感じ取ったトモも先程まで後悔しているような瞳をしていたが吹っ切れたように真っ直ぐとコウを見やる。
それからはどちらもお互いに容赦なくかかっていった。
それが危なげなくしっかりと成り立つには相手が自分と対等であるとお互いに理解し通じ合うものを持っていなければならない。
それほどの信頼関係と今までの経験を活かしながら即座に対応していく姿に他の3人は固唾を飲んで見守っていた。
しかし、約1名、疲労で動けなくなっていた者は何か浮かない表情をしていたが、そのことに気づいた者はいなかった。
元の世界に戻ってわかることは残酷な現実以外に何かあるのか。
それを知っているはずの男がなぜこの隔離された安全な世界から出るようなことを言い出したのか。
ハルは1人、その男に目を向け、ただひたすらに考えを巡らせているのだった。