みんなの元へ
遡ること数分前
「じゃあ…やってみるよ…?」
「うん、お願い」
ルミとユキは目を閉じ、手を重ねる。
たった30秒程だったが、その際に大きな変化は感じず、どうなったか確認するため2人が目を開くと…
「_____」
ルミは目の前の光景に絶句した。
ユキの瞳が変化している。
ユキは、キョトンとした表情でルミを見つめていた。
「成功…したの?」
「わからない…けど…多分…でもこれ…」
ルミは部屋の隅まで行き、手鏡をユキに渡す。
「_____」
手鏡を見て、今度はユキが絶句した。
「これが…アタシ…?」
ルミとは違い瞳には複雑な模様のようなものが現れ、元々赤茶色だった瞳が濃い赤になっている。
ただそれだけだったが、ユキにとってはとても衝撃が大きかったようだ。
口をポカンと開けたまま固まってしまっていた。
数瞬後、ユキは何かを思い出したかのように自分の肩を抱き、唸り始めた。
「うぅぅ…っ」
「ユキちゃん…?」
ルミはユキの様子を心配し、近づきながら声をかけると、
「今は…近づいちゃ…ダメ…!!」
と言ってユキは目いっぱいの力でルミを押し返す。
その反応は予想外であったためルミは体勢を崩し、ユキの力をまともに受ける。
普段通りであれば大した力は加わらず体勢を崩すだけであったのだが、ルミにより強化された力はそれよりも遥かに強いものとなっていた。
普段より大幅に向上し暴走寸前まで至っていたルミの体感ではほんの僅かを付与したつもりだったのだが、それはユキにとって大きな差異となってしまい、力の入れ方を誤ってしまった。
その強化された力をまともに受けたルミは後方へ大きく飛ばされ、壁に強く背中を打ち付けた。
「っ______!」
ルミは肺の空気を全て吐き出し、そのまま床に倒れ込み気を失った。
「ル…ルミ…!?」
ユキはすぐ立ち上がり、ルミの元へ駆け寄ろうとするが体が思うように動かない。
いきなりの変化に体がまだ対応しきれていないのだ。
何も出来ずにどうするべきか考えていると、3人の足音が近づいているのに気がついた。
■□■□■
ユキは3人の足音が遠ざかるのを確認したあと、やっと動けるようになったことに気づき、ルミへ急いで駆け寄る。
「ルミ!しっかりして!ルミ!」
慌てて体を揺する。
「んぅ…ん…」
「あ!ルミ!大丈夫!?あたしが誰だかわかる!?」
「ユキ…ちゃん…?あれ…私…」
ルミは戸惑っていたが、何が起きたのかを思い出していた。
「あぁ…よかった…」
ユキはホッとしてその場にへたりこんだ。
「ごめんね…本当に…」
「ううん…大丈夫だよ?」
申し訳なさそうに謝るユキにルミは宥めるように言った。
「それよりその眼…どうする…?」
「そうだよね…このままみんなのところに戻る訳にはいかないし…」
「でもユキちゃんの力が上がってるのは確かだから、やれることはやってみよ?」
「それもそっか…うん、やってみる」
今まで落ち込んでいたユキだったが会話をしているうちにいつもの調子に戻っていた。
ユキは目を閉じ、気持ちを静め、眼に神経を集中させる。
ルミは見守っていることしかできなかったが、心の何処かで大丈夫だと確信を持っていたため、さほど心配することも無かった。
そして数分後、ユキがゆっくり目を開くと、目の色はあまり変わらなかったが複雑な模様のようなものは消えていた。
ルミはホッと一息つき、先程と同様に手鏡をユキに向ける。
「ふぅ…よかった…意外となんとかなるもんだね…」
「眼はまだちょっと赤いけど…あんまり目立たなくなったし…大丈夫そうだね…?」
「うん!それで、次はルミの番だけど…いけそう?」
「うん…お願い…」
そうして再び2人は手を重ね、精神を研ぎ澄ます。
(今は自分の力を信じて…ルミを元の姿に…)
心の中で呟き、覚悟を決める。
まずはリンクを確立、ルミとユキの体を一つのものとする。
そうすることでより確実に能力を発動できる。
ユキの能力は活性と衰退。
部分的に対比した能力をかけていくのは精神の消耗が激しいのだが、ルミの今の状態を戻すためには他に手が無い。
しかし、負担はユキ一人だけにかかっている訳では無い。
本来、自分以外が消耗することはないが、今は二身一体とされているため、ルミの精神にも少なくない負担がかかっている。
それでも今のルミは心身ともに大幅に強化されている分ユキと比べると些細な負担になるが、それだけルミに気持ちの余裕があり、ルミがユキの負担をさらに減らすことが出来ていた。
つまり、この状態でかかっているユキの負担は半分以下程までになっている上に、ルミの能力によって付加された力もあり、活性と衰退の能力は少しずつだが、確実に反映されていく。
角や翼など、もともと人間の体に存在しない部分から徐々に小さくなっていく。
そして尖った爪や鱗のようになってしまっていた皮膚の一部が元に戻り始め、さらには瞳もいつもの穏やかなものになっていた。
背中辺りは少し鱗の跡が残り、完全とはいかなかったが、ほとんど元通りになった自分の体を見てルミはポロポロ涙を流してユキに抱きついた。
「ありがとう…本当にありがとう…ユキちゃん…」
「本当に上手くいってよかったよ…」
と、次はユキがルミを宥めるように背中をさすった。
そして数分間そのままでいた2人だったが、ルミがやっと落ち着いたため、ユキはそっと背中から手を離し、ルミもユキの腰に回した手の力を抜いてお互いに向き合う形となった。
「じゃあ着替えてみんなのところに行こっか」
「うん…!」
ユキはニッコリ微笑み、ルミもそれに応える形で微笑み返した。