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人界黙示録  作者: 橘渚月
4/11

はじまりの朝

 彼らは度々夢を見る。

 かつての仲間たちとの日々を、そしてその最期を…

 果たしてそれは、その時の気持ちを忘れないための(いまし)めか、それとも…



□■□■□■□



 今は先生を含め六人しか居ないが、それとは別に十人程居た。

 それではなぜ今居ないのか?

 原因はいくつかあるが、結果から述べると皆死んだのだ。


 理性を蒸発させて暴走した者、自らの力に耐えきれずに自壊した者、自ら命を絶った者、さらなる力を追い求め仲間を手にかけようとした者…

 これらの中には先生とハルを除く四人が処分を下した者も居る。


 その時の強く印象に残った記憶が夢となっているようだ。


 本来、夢とは記憶の整理のために見られるものである。

 ただ、彼らの夢は普通の夢ではない。

 何が違うのか、それは、普通の人間でも時々見るような、夢の中でこれは夢だと確信できる夢、俗に言う明晰夢(めいせきむ)である。

 明晰夢は、夢の中で夢の状況を全て自分の思い通りに出来る。


 つまり、彼らは夢の中で、自分の意志でかつての仲間を(ほうむ)っている…ということになる。


 ここで忘れてはいけないこと、彼らは人間ではないということだ。

 自分の力をコントロールできなければ居場所はない。

 コントロールするためには力を使う必要がある。

 周りに被害を出さないためには夢の中が最適だろう。


 こうして日々かつての仲間を繰り返し殺し続けている時点で人間とはかけ離れているということに気づいていない。

 そうしているうちに人の心が薄れていくのは当然の事ではあるが、それはまだ価値観の違いで済む話ではある。

 それから先へ進んでしまうとそれはもう獣や化け物そのものだ。

 そうなってしまえば自分の居場所を探したりするどころか、今居るこの場所すら無くなり、最終的には処分される。

 そう、あの十人のように…



□■□■□■□



 朝が来た。

 とは言ってもこの世界に太陽は存在しないため周りの景色はあまり変わらない。

 変わるのは時計の針と窓から()し込む薄明かりのみだ。

 その中で各々(おのおの)が身支度をし、広間まで出てくる。


「おはよう、相変わらず早いね、トモは」

「コウか、おはよ」


 トモはソファで本を読みながら返事をする。


「ユキも相変わらずだけど最近ルミ遅いよね」

 コウも向かいのソファに座る。

「あぁ、確かに言われてみればそうだな」


「ハルはまだみたいだね、まぁまだ朝早いし仕方ないか」

「ん?呼んだかい?」

 唐突に後ろから声がかかる。


「おっとビックリ、いつからそこに?」

 コウは振り返ってハルに尋ねた。


「ちょうど今、だね」

「そっかそっか…あ、おはよ」


「うん、おはよ、トモも」

「おう、おはよ、ちなみに今日はどっちなんだ?」


 トモがなんとなくハルに聞いてみるとハルは少し照れくさそうに言う。

「今日は男…だね」


「あ、悪い、その…興味本位で…」

 トモはハルの反応を見て無神経な質問だったかと思い少し後悔した。


「ううん、別にいいよ」

「ならよかったけど…以後気をつける」


 ハルは特別気にした様子はないようだったが、トモは思った以上にデリケートな質問だと認識し、以降自重するよう心に決めたが、これを最初で最後にしようと話を続ける。


「どちらにしても見た目は全然変わらないのな」

「あ、確かに、見ただけじゃわかんないね、あっちにいた時はどうしてたの?」

「うーん…それはちょっと…」


 言えない事情があることを察したコウはそれ以上深入りすることなく申し訳無さそうに答えた。


「そっか…ごめんね」


 どこか気まずい空気が流れ始める。


 ハルは自分のせいで空気が悪くなったと感じ、場を持たせようとふと口を開いた。

「あ、でも今あっちがどうなってるかなら…」


「え、ほんとに!?」

「確かにそれは気になる」


 二人はその話に食いつくようにして顔を上げると後ろからいきなり声がかかった。


「アタシも気になる!!」


「うわっ、いきなり後ろから大声で叫ぶなよ…もう…」

「ごめんごめん!」


 コウが注意する。

 ユキはそう言って、てぺへろと言わんばかりの仕草をし、周りをふと見回してルミが居ないことに気がつく。


「あれ?ルミはまだ来てないんだ?いつもアタシが最後なのに珍しいね」

「体調でも悪いのかな?」


「ルミもその話聞きたいだろうし心配だから見てくるね!」


 ユキはルミの部屋の方まで小走りで行った。

 ふと思い出したようにハルが口を開く。


「そういえばルミちゃん、昨日少し元気無かった気が…」

「そう言われてみるといつも以上に空回りしてたかもな…」

「全然気づかなかったな…そんな酷くなければいいんだけど…」

 三人でルミのことを心配しているとユキが向かった方向とは反対の扉が開く。


「どうしたお前ら、揃いも揃ってそんな辛気(しんき)臭い顔して」


「あ、先生、おはようございます。今日はいつもより早いですね」

「ああ、少し今日は志向を変えようと思ってな…それで、なにがあったんだ?」

「実はルミがですね…」

 そういってコウが状況を説明し始めた。



□■□■□■□



 ユキはルミの部屋の前まで来て扉をノックする。


「ルミ、起きてる?」

「…ユキちゃん…?」


 扉の奥からか細い声がした。


「そう!ハルが体調でも悪いんじゃないかって言ってて気になって…」

「あ、ほんとに…そんな心配しなくても大丈夫だから…」


「ならいいんだけど…でも一応万が一があるから…入るよ?」

 ユキはドアノブに手をかけて扉を開け放つ。


「あっ、ちょっと今は…!」

 ルミは慌ててベッドから転げ落ちる。


「え?あ、ごめん!ル……ミ………?」



□■□■□■□



「なんだと…それは本当なのか?まずいな…」

 一通り話を終えて、男は顔を引き攣らせた。


「ここにいるのがお前らだけってことはルミの様子を見に行ったのはユキか…ならまだ大丈夫だろうが…」

「どういうことですか?」


 コウは男の反応を見てただならぬことだと察し尋ねる。

 あとの二人も真剣な面持ちになった。


「今までなかったから大丈夫だと思ってたんだがな…ここまで来ると…やむを得ない…とりあえず全員シェルターの方に来てくれ。ユキとルミもなんとかして連れてきて欲しい」


「わかりました…」


 そこには先ほどまでの和やかな雰囲気はなかった。

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