暴走する鬼
再び始まる攻防を他の兵士も見守っている中、アダムは周りをキョロキョロと見渡し近くにいたウィリアムもアダムの行動に気がつき「どうした?」と訪ねる。
「マキの話しでは、魔神と鬼人がこの里に攻め入るって話しでしたが、鬼人は今どこにいるのでしょうか?」
「言われて見ればそうだな? 先ほどのいた気配はあまりにも弱いし、注意するほどでもない……もしかしたらどこかから見ているのかもしれないな」
「ええ……でも今はシバ様があのゴブリンに勝つ事が先決です。でも、この間にどこかから鬼人が里に入るかもしれません。他の兵士の皆さんにはそちらの探索をして貰ったほうがいいのでは?」
「わかった……。全員、ここはシバ様に任せて大丈夫だ。我々はマキ殿から教えられてた鬼人の探索に向かう!!! 各々油断だけはするなよ」
ウィリアムの号令に従い、小隊事に別れて探索へと向かっていく。この場に残ったのはウィリアムとアダム、それとオオバとゴギョウというシバの補佐をしていた兵士が残った。
アダムはゴランを見つめ、そのステータスを確認するべく叡智を発動し、文字を発生させ空中に並べられる。
名前:ゴラン 年齢:23
性別:男 種族:ゴブリン
Lv.28
STR(攻撃力):0600
CON(生命力):1500
INT(知 力):0300
POW(精神力):1000
DEX(器用さ):1200
AGI(素早さ):1300
LUK(幸 運):0050
才能
環境順応Lv3
絶望の灯火Lv6
奴隷の楔
スペルリーフサンプル
兄貴肌Lv5
「ゴブリンってここまで強い種族なのか?」
「僕に聞かれてもわかんないですよ。でもマキのレベルに比べると低いとは思うのですが」
「あれは異常だ。この世界ではレベルの上限は最大で50が限界なんだ」
そんな話をしている間にシバはゴランに二連撃の斬撃をたたき込んでいるのが見えた。これで決着かと思った瞬間、シバは突如現れた存在に蹴り飛ばされ壁に激突する。
「シバ様!」
「すぐに回復に向かいます!」
いきなりの事で慌てて駆けだしたアダム達を見つめながら突如現れた存在は小さなため息を吐く。
「どうやらここまでのようですね」
アダムたちがその姿を視認する。鬼人の少女は乱れてしまったポニーテールの髪を整えて、ゴランを見つめる。そんな少女にゴランは血反吐を吐きながらも立ち上がろうとしながら叫びあげる。
「俺はまだやれる! 貴様は俺達の監視だけのはずだ!」
「残念ですが、それを判断するのはあなたじゃない。それに、片腕を失い致命傷とも呼べる傷を負ったあなたが目的を達成できるとは私には到底思えない。ですから……」
少女が取り出したものを見てゴランは恐怖で後退り始める。傷のせいで思ったよりも動くことは出来ず易々と少女の接近を許してしまう。
「兄貴!」
「来るな! お前らはここから逃げろ!」
「ではさようなら、ゴラン。そして……ようこそ」
少女がゴランの首筋になにかを押し付けると、ゴランは突如苦しそうに狂哮し、自らの首筋を抑えてその場で暴れ出す。少女もその姿を遠くから見るべく距離をとり、ゴランの変化を淡々と見つめている。
突如起きた事態にアダム達はどうする事も出来ずに見守る事しか出来ないでいると、森の闇の中から二つの存在が飛び出してくる。それは幼い二匹のオーク、オークたちはゴランに近づこうとしてその暴れぶりから何も出来ずに近くに佇む事しか出来なかった。
「兄貴!(兄さま!)」
「クルナァァァァ! ニゲロォォォォォォ!」
ゴランは最後の意識の中、二匹のオークをアダムたちのほうに投げる。その行動に慌ててオオバとゴギョウは受け止め、オーク達の無事を確かめる。オーク達には似たような枷が繋がれており、それが奴隷であるという事を示している。
オークたちは、ゴランの方へと駆け出そう暴れてオオバ達から逃げ出す。
「最後の理性をもって、あの二匹を生かす事を選ぶ、なかなか持って感動ではありませんか。でも、あの二匹はあなたの怒りを生み出すための道具でしかないのですよ」
少女が懐から取り出した短刀をオークの二匹に投げる。突如投げられた短刀にオークたちは気づく事はなく、二匹に刺さりその場に倒れる。
「ア、アア……」
「残念だったな。これがお前がもっとも怒る条件だ」
倒れたオーク達をアダムは慌てて回復を始める。傷は深くなくすぐさま治すことは出来たがオークたちは気を失っており起き上がることはない。そして、先ほどまで苦しんでいたゴランは咆哮をあげる。
オークたちが倒れた光景を見たゴランの体にも変化が訪れ、変貌して行く。角は鋭利に長く鬼である事を強調するように、肌はどす黒い赤色に染め上げて、そして体は元のサイズから何倍にも膨れ上がり、嵌められていた枷は膨張に耐えられず破壊される。
「これが、マキが言っていた魔神……」




