開戦シバVSゴラン
「ウィリアム、相手は動いたか?」
「いや……さっきの攻撃を最後に身を潜めているらしい。だが気配は消えてない事からしてまだそこにいるはずだ」
闇に向かって構えているウィリアムは、確実に敵を見据えておりウィリアムに合わせるように他の兵士も弓を構える。
膠着状態が続けばいつか来るであろうマキ達が背後から仕掛けられる。そんな期待をしながらアダムは皆の姿を緊張した様子で眺めている。
「確かマキ殿の話だと、他にも鬼人の女がいるって話だったが……」
シバは辺りを見渡して気配を探ろうとするが首をふって「何も感じられないな」と呟く。それに同調するかのようにウィリアムも頷いて耳を澄ますと風もないのに木々が揺らぎだし音を奏でる。
「森もあそこにいるやつとその奥に小さいのしか感じないと言っているな」
「小さいの? 他にもいたって事なのか?」
「わからない……だがどちらにしてもそいつらも敵と見て間違いないだろう」
ウィリアムは射の構えの標準を動かし、先ほどよりさらに遠くに狙いを絞る。
小さな漏れる声と共に放たれた矢は闇に消えて行く中、闇に中でなにかが動き鎖の引きずる音が響き、その直後矢が刺さる音と苦痛の声と共に声の枯れた少年と少女の「兄貴(兄さま)!?」という声が響く。
「大丈夫だ。お前達はもう少しはなれたところにいろ」
闇の中から姿を現した存在に全員が緊張した面持ちで各々武器を持つ手に力を籠める。現れたのは一匹のガッチリと鍛えられた肉体を持つ小鬼が現れる。その両手両足を鎖で繋がれ、その左上腕には先ほどウィリアムが放った矢が突き刺さっている。
その肌はファンタジー小説で出てくるような深緑でその頭には角なんて生えていない。マキが説明した容姿とはまったく異なっていた。
ゴブリンはいかつい眼差しで里の壁門を見上げると、その拳を突き上げて名乗りを上げる。
「我が名は、冥魔界偉大なる大鬼、オーガルが直系の息子ゴラン。誇りある兵ならば我が元に来たりて我と戦え!!!」
アダムが相手のステータスを見ようとするよりも早く甲高い笑い声が隣から聞こえると、一人の男が壁門より飛び降りる。
慌てて、下を見るとそこには自らの愛剣を肩に担ぎ、ニヒルに笑って見せる老将シバがゴブリンの前に立っていた。
「その心意気、気に入った! 貴様の相手はわしがしようではないか。皆の者、手出しは無用だ!!!」
「ちょっとシバ様!?」
「心配するな、老いてもお前らの元団長……後れはとらんよ」
意気揚々と自らの愛剣をゴランと名乗ったゴブリンに向ける。それに応えるようにゴランは腕に繋がれた枷から伸びる鎖を打ち鳴らす。
「ウィリアムさん」
「言いたい事はわかる。だがああなったシバ様は……」
「違います。シバ様ならあのゴブリンに後れをとることはないでしょう……それよりも」
アダムが言おうとするより前に、ゴランの咆哮にて遮られる。咆哮と共に駆けだしたゴランにシバは冷静に剣を突き出すが、その突きは身を屈めて避けてみせる。そのままシバの懐に入ったゴランは拳を突き出そうとするが、シバはその拳を受け止めてゴランの脇腹に膝蹴りを放ちゴランを吹き飛ばす。
「クッ……鎖か」
「ああ……所有者以外が物理的破壊を行えない『隷属の鎖』だ。この忌まわしき鎖も防御の面では最強の盾にもなる」
「そりゃやっかいだな。嬢ちゃん!!!」
「は、はい!?」
「お前さん『スペルブレイク』とか使えないか!? それならこいつの鎖も無力化できるだろ」
「使えるけど駄目です。無理な解呪にはそれなりのリスクだってあるんですから」
その言葉に納得したのか、武器を構えなおしてゴランを定める。ゴランはシバに対峙するように鋭利な爪の伸びた指で手刀のようにかまえシバ定めて突進をする。
爪でシバを穿とうとするが、その爪をシバは手首を掴み相手の威力に乗せてぶん投げる。即座に受身をとってそのままシバとの距離をとるがシバはその隙を逃さずに剣の上段からの振り下ろしをする。
振り落とされた剣を鎖で咄嗟に受け止めるがその勢いを止めることは出来ず、剣はゴランの左肩に食い込み、斬られた傷口からは血が流れはじめる。ゴランはシバの剣を押し返そうとするが力で負けてるせいで徐々に剣はゴランを押し切ろうと迫る。
「クッ……仕方ない」
「っ!?」
ゴランは力を抜き左肩から先がシバの剣により切り離される。斬られたと同時にシバとの距離をとったゴランは右腕に繋がった鎖と共についてきた自らの左腕を掴む。左腕を食い千切り枷から外すと、右腕で鎖と掴み振り回し始める。遠心力の乗った枷は風を切る音を響かせて凶悪な凶器である事を知らしめる。
迫る枷を剣で受け止めると鈍い音が響きシバの手から剣が弾き飛ばされる。シバは弾かれた剣との距離を見て、腰に差してあったナイフを引き抜きゴランと対峙する。
枷をまた振り回して先ほどと同じように構えるとシバとの距離を縮め始める。ナイフであの猛威を防ぐ事は出来ないと悟ったシバは深呼吸を繰り返し、ゴランに向かって駆けだす。
一定の距離には脅威である凶器も接近し過ぎれば威力も発揮できない。その事を判断したシバはすぐに行動に移し、ゴランはシバの前進に合わせて枷を放つ。
だが、読みきっていたシバは枷を紙一重でかわし、ゴランをナイフで切り裂く。
「デュアルスラッシュ!!!」
シバの二連撃によって、ゴランの体には二筋の斬り傷ができ血を噴き出す。わずかな苦痛の表情を浮かべるが敵意を籠めた目でシバを睨み、シバも切り裂いたゴランから離れず、血を浴びながらもとどめをさすべくナイフでの心臓への刺突を構える。
だが、それは適うことなくシバはなにかに蹴り飛ばされるように弾き飛ばされ壁門に激突する。




