暴食攻防戦2
まわりに漂っていた瘴気に隠れてグラトニースライムの触手が森の中に伸びていく。マキ達は瘴気と触手から逃れるべく次々と木から木に飛び移って回避をしている。
森に伸びていった触手は何かを引っ張るようにグラトニースライムの元に戻るとその先には捕らえられた魔物がおり、逃れようともがいている。
瘴気の中に引きずり込まれた魔物は、最初は悲鳴にも鳴き声をあげていたが、弱まっていき鳴き声が聞こえなくなる。
「マダタリナイィィィィィ!!!」
「避けるんだ、ラム!」
執拗に追いかけてくる触手と瘴気から逃れるように瘴気で枯れた木を飛び移りグラトニースライムの暴食の範囲を留まらせる。
グラトニースライムから出ている瘴気は本体を護るように漂っており、そのせいで相手の位置を把握することが出来ない。
「まき! だんだんふえてきてる!」
「わかっている!」
最初は数本しかこちらに伸びてこなかった触手も他の獲物を狩り尽くしてしまったのか、こちらに集中してきている。
このままでは、捕まってしまいあいつに取り込まれてしまう。そうならないためにも……
「ラム、あいつの頭上を通過する時に俺を離せ……近距離から斬りふせる」
「だめだよ!? そんなことしたらまきがしんじゃう!」
「心配すんな、無駄にレベルが高い分すぐには死んだりしない!」
「それでも……」
口論していて移動がおろそかになっていたとこをグラトニースライムは見逃すはずもなく触手のひとつがマキの足に絡みつく。
「ツゥカマ~エェタァァァァ!!!」
「だめぇ!!!」
そのまま自らの元に引きずり込もうと引っ張る力にラムが必死に堪えようとするが力の差が歴然でどんどんラムの体は引き伸ばされていく。
「ラム、俺を離せ! お前じゃあいつの瘴気に耐えられない!」
「やだ! やだ、やだ……絶対離さない……」
引き伸ばされていくラムの体からはなにかが千切れるような感触が絡みついているマキの腕に伝わってくる。
このままではラム自身の身が持たない。そう感じたマキはラムと自分が繋がっている部分に手をそえて……
「悪いな……凍星」
今までは武器にのみ使っていた技能だが応用ができるのではないかとラムの一部に霊気を纏わせる。
凍星が発動する感覚が起こり、凍結が始まる。
「だめぇ!?」
マキを掴んでいた部分が霊気によって氷結し、マキの腕から滑り外れる。足を触手で引っ張られていたマキはそのまま引きずり込まれるように瘴気の中に落ちていった。
「必ず戻る! だから待っていてくれ!」
「まき……かえってこなかったらゆるさないから!!!」
ラムの言葉を胸に瘴気の中を引きずりこまれる。瘴気はだんだん濃くなっていき息をするたびに苦しさが増していく。いよいよ呼吸をするのにも阻まれるほどの瘴気の濃さになったところで触手の終着点に辿りつく。
そこには、粘液で形成された土台にコアが埋め込まれ、所々から触手の生えているローパーのような物体がいた。
コアはグルリとこちらを見るかのように動く。
「にーがーすーかー!!!」
(来る! 刀じゃ捌ききれない……なら)
グラトニースライムの身に生えている触手をこちらに伸ばしてくる。周りを囲むように延びている触手の数は数え切れないほどに空間を埋め尽くしこちらを狙っている。
拘束されたら終わりだ。そう考えたマキは手刀に「凍星」を纏わせて触手を斬り捨てながら相手の攻撃が弱まるのをまつ。霊気を纏った攻撃なら触手も氷結してすぐには再生されない事をマキは今までの時間、グラトニースライムとの戦闘で把握している。
問題はマキの息と触手を斬り捨てるのとどっちが早いかと言うこと、触手を斬り落とした初めて1分が経過しようとしている。
(息が……苦しい……いつまで続くんだよ……)
マキの中にも焦りが出始めており、次第に触手をいくつかその身で請けてしまい、その痛みで少し息を吐いてしまった。
瘴気の中で意識が朦朧とし始め、ローパーのような形をしたグラトニースライムはこちらを見てニヤリと笑ったような気がした。
「お前を喰らったら次はあの子です……」
(また……だめなのか……? 俺はまた負けるのか……)
意識を手離しそうになる中、遠くから声が聞こえる。さっきまで一緒にいてマキが自ら手放したその子はマキを信じて声を張り上げる。
「まきーーーーっ!!! まけるなーーーーーっ!!!」
その声にマキは抗おうとする。まだ死ねない、死んでたまるかと絡みついている触手を無理矢理引きちぎる。
「ソンナ!? バカな!?」
(死ねねぇよ……俺はまだあの必死に俺の帰りを信じてる子との約束を果たせていないんだから!!!)
朧げな意識の中、マキは気力を振り絞って刀を掴み、その刀身を抜くのと同時に自らが持つ最強の技を無意識にとき放つ。
「大河ぁ!!!」
放たれた剣圧は瘴気を触手をグラトニースライムそのものを吹き飛ばし粘液はバラバラになってそこらへんにばら撒かれ、瘴気はそのまま消し飛ばされる。
コアは剥きだしの状態になり地面をごろごろ転がった後、枯れた木にぶつかり、その衝撃で木が倒れコアを下敷きにする。
「まき! ぶじぃ!?」
ラムが心配そうにこちらに飛び乗ってきて先ほどまでいた定位置からマキを気遣う。
マキは先ほどまでなかった新鮮な空気を吸い込み、肺に入った瘴気を吐き出すべく何度も咳き込む。
「ゲホッ! ゲホッ! グラトニースライムは!?」
辺りを見渡しても見当たらないグラトニースライムの姿にマキは警戒を続けているが、
――ラムは経験値90000を獲得した
――ラムのLvは上限45になりました
――ラムは「進化の系譜」を選択できます
ゲームでありきたりなメッセージが出てきたことで安堵する。
「おわったね……」
「ああ……だが、のんびりもしてられない。いそいでみんなの後を追いかけないと」
マキは枯れてしまった木を注意しながら登り渓谷の方を確認する。
そこには渓谷を挟んだ向こう側で松明のような明かりが大きく振っているのか左右に揺れている。
「ラム、どうやらみんな渓谷を渡れた見たいだ。俺たちも急いで向かおう」
「りょうかいです、まき」
マキ達が渓谷の方に向かって走り出したあと、そこには少しずつではあるが粘液が下敷きにされたコアの元に集まっていっている。




