絶望を打ち破れ
「ほんとにくるの?」
みんなが撤退してから、数刻が経ちマキとラムはスライムの墓場で篝火をおこしてグール化したスライムを倒している。
無理矢理みんなを撤退させたのだからと少しでも被害をなくすためのだったのだが、マキとの地力が離れすぎていてグールが動き出すと同時にラムの察知で位置を割り当て、マキの一刀の元に切れ捨てるせいでラムも暇そうにしている。
「ラム、そんなに離れ過ぎるなよ。なにかあった時に護れないだろ?」
「えへへっ、ごめんなさ~い」
機嫌良く謝りマキの左腕に引っ付き、左腕の邪魔にならないように形を変えるとそのままもぞもぞと蠢いている。それがくすぐったくてマキはラムを撫でると蠢くのをやめてじっとしている。
「それよりまき……まじんってほんとにおかあさんなの?」
「……ああ。前のお前自身がそう呼んでたし間違いないだろう」
その言葉に一瞬身震いを感じ、ラムの方を見るがスライムの姿のせいで感情も読めない。だが、きっと自分の母親の事を考えているのだろうと言う事は想像できた。
「……らむのおかあさんはね、すらいむたちのおさのこだったんだ」
「うん」
「らむがうまれたせいで、おかあさんみんなから「こをすてなさい」っていわれたの。おかあさんはさいごまでいっしょにいるっていってたけど、むらのみんながおかあさんかららむをひきはなしてたににすてたの」
この森でハイスライムは必ず一匹で行動しているモンスター。それは群れから異端な子が生まれた時に捨てられるのが原因なんだとラムの話を聞いて感じていた。
ゲームとして、遊んでいた時は、ハイスライムは弱いけど良い素材になる事から見つけたら必ず狩るものとされていた。
ラムもアダムと出会うまでそんな捨てられた現実と孤独な時間を怯えながら過ごしていたのだろう。
「きっとおかあさん……あのときこわれちゃったんだね」
ラムは記憶に残る最後の母親の悲痛な叫びが今でも思い出せる。あの優しかった母がマキの言う化け物になっているとはいまだに思えていないのだろう。
「まき……。おかあさん、たすけられないかな?」
「……悪いが俺達では無理だ。あれは助ける助けない以前に倒せるかどうかの領域だからな」
「そっか……」
ラムとしてはきっと母親を救いたい思いがあるのだろう。マキも救えるなら救いたいと思うが、そうするには手遅れなのは前にその姿を見たことでわかってしまっている。
もうグラトニースライムを救うには、その命を断つことしかない。
「……まき」
ラムの言葉に辺りを見回してみると、こちらに向かって強い気配が接近してくる。その気配に中てられて野生のモンスターや獣はその場から一目散に逃げ出している。
「来たようだな」
頭上から降ってくる粘液の塊を、後ろに飛んで回避する。その場に降り立った暴食の固まりは回りにあったスライムグールの死骸とスライムの死骸を喰らって、崩れた円柱のような形になって辺りを見渡す。
「み~つけた……」
「……おかあさん」
ラムは信じられないと言う言葉を紡ぎ、マキから離れて人型になる。
そんなラムの姿をグラトニースライムは捕食する対象としてしか見ておらず、その雰囲気は空腹に並べられた大好物を置かれた動物のようだ。
「やっとみつけました。私の子……今度はずっと一緒にいてあげます。私の一部となって私と共に行きましょう?」
「何言ってるんだこいつは」
親子として一緒にではなく、血肉としてと呟くその化け物に狂っているとか見えない。
マキはラムを掴み自分の事に引き寄せる。その姿を見たグラトニースライムはその身をぶるぶると震わせて、明らかな殺意をマキに向ける。
「私の子に何をしているのです? ムシケラ」
「悪いが、こいつは俺たちの仲間で家族だ。お前なんかに喰わせたりするもんか」
「まき……」
マキの言葉にその液体をふくまらせていくグラトニースライムは、怒りで制御できていないのか所々原型をとどめて置けずに裂けて粘液を吐き出す。
「ムシケラ……ならてめぇも喰い殺してやろうかぁ!!!」
「……お断りだ。ラム、俺はお前を信じる。だからお前も俺を信じてくれ」
「……うん。まき、おかあさんをとめてあげて」
ラムの言葉に頷きマキは腰に差してある刀を抜刀して、その刀身に闘気を纏わせる。刀を持たない左腕にはラムがスライムの姿で引っ付きそのまま、マキの邪魔にならないように篭手の形を保っている。
「来いよ絶望。リベンジマッチと行こうじゃねぇか?」




