暴食の絶望2
戦闘が始まり、マキ達は前回と同じ陣形をとってモンスター達を迎えうつ。
だが前回とは違いラムが兵士達の補助に入っているおかげで誰一人怪我をすることなく、モンスターをいなしている。
「あのスライム、うちの兵士より強いのではないか?」
「そうだな、ラムはアダムの系譜の能力に属しているからな、他より強いぞ」
アダムが持っている中でもっとも強力な能力『系譜』。
自身の強化する事は出来ないこの能力だが、仲間を増やすことでその効果は絶大なものになる。
――系譜
能力の対象者は、能力の上昇、得られる経験値、ステータス向上上限が2倍になる。
また、能力の対象は進化及び転職の時、通常よりも優れた形態を選別する事が可能。
希少種のハイスライムであり、系譜で能力の底上げされているラムは成長したら俺をも凌ぐ存在になる。
「まあ、強いのなら頼りにさせてもらう。グールの処理が終わったら、村で美味しいものをご馳走してやってもいいかもな」
「おいしいもの!?」
ウィリアムの言葉に反応してラムは索敵を中断してこっちに飛ぶような勢いで近寄ってくる。
ラムの反応にウィリアムは困惑しながらも「約束だ」と言い、ラムはうきうきしながらまた、索敵のほうに戻っていく。
今までマキだって、何度もラムにご飯をあげたりしていたのに、懐いてくれなくて、今ウィリアムがご飯で軽々とラムを釣っていたのを見て若干嫉妬してしまう。
「俺……なんか嫌われるようなことしたかな?」
「どっちかと言うと、あれは素直になれていないだけだと思うんだが?」
「どういうことだ?」
「自分で考えろ鈍感」
マキとしては、今は一緒に過ごす家族だと思っているし、妹のようにも思っている。
ラノベなんかの兄が最初よく妹に避けられている状況に、なんであんなに悲観的になっているのかと疑問に思っていたけど、いざ自分がその立場になるとこれは堪えるなと納得してしまった。
「あらかた狩り終わったか?」
「そうだな、前回よりも奇襲への対応もできて意外と楽に事が運んだ。ラムのおかげだな」
マキの言葉にラムはドヤ顔で偉そうにしている。
グールの討伐は夜が空ける前に終わらせる事ができて、それぞれ撤収作業を行っている。マキ達に奇襲を掻けようとしていたモンスターもラムのすばやい感知に待ち構われ難なく討伐され、今兵士に素材に加工されている最中だ。
――――この分なら、出会わずに済むかもしれない。
脳裏に浮かんだ言葉に、マキは頭をひねりなんでこんな言葉が浮かんだのか考え込む。
前回の事が思い出せないのとなにか関係しているのか……。そうも考えたがだからと言って今この場を離れれば問題ない。
マキは兵士達が剥ぎ取っているモンスターの素材を運びやすいようにまとめて行く。途中ラムが素材でなにか食べたいと言ってきたので、ビックファングの串焼きを作ってラムに渡してやる。
「おいマキ……ビックファングってあれ食いきれるのか?」
「心配ない。前にビックピックを丸ごと食ったことがあるからあれぐらいぺろりと食えるだろうよ」
マキの言葉に完全に引いてるウィリアムに、その内慣れるだろうと完全な放置を決め込み残りの荷物をまとめて行く。
しばらくして、ウィリアムも正気に戻り、兵士達に指示を飛ばしながら片付けに勤しむ。
荷物も片付け終え、篝火に火を松明に加工した後、一同は野営地に戻る事にした。
全員朝には里に帰れると安素したきぶんでもどっていく。ここに来てから何日も滞在していた兵士達は家族の所に帰れることが嬉しくて、今日の戦いを互いに称えあいながらもその歩は緩むことなくしっかりとした足取りで進んでいく。
そんなみんなの浮かれ気味な雰囲気を注意する事もなく、マキとウィリアムはもしもの時の為に最後尾で残党が残らないかの確認をしている。
「まったく、帰るまでが任務だと俺の教官も言ってたぞ」
「そう言ってやるなよ。みんなだってやっと帰れることが嬉しいんだろう。兵士は命がいつ落ちてもおかしくないからな」
「……ま、そうだな。俺としては頼れる仲間がいてくれることであいつらに注意してきぶんを台無しにしなくて済んだとありがたく思っているがな」
「頼れる仲間ねぇ」
「おうよ、お前もラムも俺にとっちゃ頼れる仲間だ。俺からも長にお前達の頼み事が通るように進言してやる」
「うぃりあむ。ごはんは?」
「ああ! 里に着いたら上手い飯屋に連れて行ってやるから楽しみにしておけ」
ウィリアムの言葉にラムは嬉しそうに目をキラキラさせている。
兵士達が先行した後、スライムの墓場で気配を探ってみるがグールは見当たらず、いるのはモンスターの切れ端を食べにきた小さなモンスターのみ。
マキとウィリアムは問題ないと結論を出し、兵士達の後を追うことにした。
ひたっ……ひたっ……
なにかが滴り落ちる音がする。小さなモンスターはその音に気が付き周りを警戒するように耳を澄ます。
滴り落ちたものが、大地を腐食させながら、腐った臭いを漂わせる。弱いモンスターはその臭いを嗅いだだけで絶命してしまい、そうじゃなくてもその場にいる全ての生命はもがき苦しむようにその場から逃げようとする。
「オナカガスイタ……タベタイ……アノコヲ……セカイヲ……ナニモカモ……」
滴り落ちてくるものはだんだん増えていき、生きているものに触れると激痛に見舞われたかのようにその場で狂ったように暴れ始める。
身動きのとれないモンスターに降り立った大量の粘液はそのまま包み込むように獲物を捕らえて捕食を始める。暴食の化身は空腹を抑えると、この場にあった残り香を嗅ぎながら触手を地面に突きだす。
「足りない・・・・・・まだまだ足りない」
その場に合った墓を掘り返しスライムの残骸を貪った後、辺りを見渡す。
今まで生い茂っていた緑が全て枯れ落ち、スライムはそれらに興味がないのかある一点を見つめている。
「このにおい・・・・・・やっと見つけた・・・・・・」
その場に興味をなくしたスライムは動き出す。
その道のりはマキ達が向かっている野営地への道のりだった。スライムは興奮を抑えられないのかだんだんと速度を上げていき、求めていた獲物を見つけた喜びに咆哮をあげる。
「ミツケタァァァァ!!! ワタシノコォォォォォ!!!」
絶望は狂喜にまみれてマキ達を追う。




