森の野営地
ウィリアムが言っていた野営地に歩いていくと、木でできた柵のようなもので囲まれた場所が見えてくる。柵の外側には、なにかに攻撃されたような後があり、その周りには矢が幾つも刺さっている。野営地に入ろうと入り口に向かうとそこには待っていたのか仁王立ちで立っているウィリアムの姿が見える。
「さっきのアルラウネは?」
「あなたが攻撃したから怯えて隠れちゃいましたよ」
ウィリアムの言葉に少しムッとした声で返すアダムに、ウィリアムは視線をそらし小さく「すまん」と謝る。
そんな二人のやりとりにマキは小さくため息をついてウィリアムに近づき、
「今はそっとしてあまりふれないほうがいいだろうな。あの子がアダムに懐いたらきっと機嫌も治るだろう」
「……そうである事を願う」
ウィリアムに案内されて、野営地の中に入ると何人かの木人の兵士がこちらに近づき敬礼のような姿勢になってウィリアムを向かいいれる。
ウィリアムも慣れたように、手を上げると兵士達は姿勢を戻し、ウィリアムに報告を始める。
「ウィリアム隊長。森の囁きにあった禍々しきスライムは発見できましたか?」
「まだ見つかっていない。各々見張りには警戒を怠るなと通達してくれ」
「スライムの埋葬は7割まで完了いたしました」
「今日までで7割か……残りは間に合わなそうか?」
「この分だと、今夜には屍霊化かするかと思われます……」
「そうか……今夜はお前達にも苦労をかけると思うがよろしく頼む」
ウィリアムが兵士達にそれぞれ指示を出している横で聞いていて、今の状況について、ある程度理解することができた。
ウィリアム達木人が行っていた埋葬は屍霊化する数を減らすために行っていた事で今夜がまだ残っているスライムの遺体が動き出さないぎりぎりのリミットだったのだろう。
ゲームの時、このゲームには夜の時間が存在していて、その時間に現れる死霊の種類はとんでもなく多い事を思い出す。スライムは獣……果ては竜や聖獣なんかにもグールが存在していた。その理由が今の状況なのだろうとすると納得がいく。
「ウィリアム、なんなら俺も手伝おうか?」
「気にするな……っと言いたい所なのだが、手伝ってもらえるなら助かる。何せ夜の魔物は厄介だからな」
ゲームだった頃から、昼と夜で出てくるモンスターが違っており、断然夜のほうが厄介なモンスターが存在している。
先ほど見かけたアルラウネや知識のない魔獣、グールなんかの死霊系、それに極稀に出てくる死霊ボスがゲームの時、夜の森にはPOPしていた。
パーティを組んでプレイできたらそこまで苦戦しないのだが、罠を仕掛けられたり、動きが早かったり、魔法を使ってきたりで近接設定のプレイヤーは好んで入ろうとはしないのがこの夜の森である。
アダムが棲んでいた所はなぜか夜になってもモンスターが近寄ってこない安全なおかげで生きてこれたが、もし近寄ってきたら初日に全滅していただろう。
「そういう意味ではあの場所はすごかったんだな」
「どうかしました?」
「なんでもない。それよりアダム」
死霊系にはアダムの力は効力を発揮するのだが、戦闘なれしていないアダムを戦場に連れて行くのは気が引けてしまう。
アダムには後々戦闘においての身のおき方なんかを教えて行くとして、今回は後方で支援に徹してもらう事を考える。
「なんとなく言いたい事はわかります。ここに残って傷ついた人達の治療をしてくれって言うんでしょ?」
「ああ、頼めるか?」
「それは問題ないです。マキも怪我したらすぐに帰ってきてくださいね」
各々野営地で夜に備え疲労を回復するべく野営地の設けられた場所でのんびりする事になる。
そんな中、木人の兵士の何人かはマキの実力が気になるのか模擬戦を申し込まれ、そのいくつか軽くこなしながら兵士達のレベル上げを手伝い、夜になるのを待った。




