小さな花
茂みの中美味しそうなにおいにつられてふらふらと匂いのする方向に近づいていく。もう何日も何も食べずにこの森を彷徨っているわたしにはこのにおいはとても魅力的でたまりません。
においを辿り行きついた場所。そこには、緑の髪を弄りながらのんびりとはなうたを歌う綺麗な女の人がいて私は思わず見惚れてしまってしまいました。
「ん?」
女の人はこちらに気がつきニコリと笑ってくれましたが、わたしはこわくてつい隠れてしまって申し訳なさで顔が熱くなるのを止められません。
「そこに隠れている子。どうかしたの?」
声を掛けてきてくれるけど、わたしにはどう返したら良いかわからず黙り込む事しか出来ません。
だけど、体は正直でお腹がクゥ~と鳴ってしまい更に恥ずかしさから顔から火が出るのではないかと思う位熱くなります。
「お腹が空いていたの? ちょっと待ってね」
女の人は、近くにあった布でできた山のような物の中から何かを取り出し、私の方に近づいてくる。
差し出された物は、赤い皮で覆われた果実のような実。わたしもたまに見つけてはこれで空腹を満たす。
女の人から果実を受け取ったけど、なんでくれるのかわからず見つめていると、
「大丈夫だよ。君がここにいる間は僕が君を護ってあげる。だから、安心して食べていいんだ」
優しそうな人だとすぐにわかった。でも、この人を信用しちゃいけない。信用したらまたどこかでいなくなってしまうから。わたしはこの人から離れるべく茂みの方に入りそのまま走り抜ける。
「あっ!? 待って!」
あの人の声が聞こえたけどあの優しさを信用しちゃいけない。信じる前にこの人から離れないと、もう誰かを信用するのは怖いから……
だけど……もしこの人が……ほんとうにこの人が優しい人だったら……
――――
「とは言ったものの今の時間からお前達を連れてだと、着くのは夜深けになってしまう。悪いが今日はここの野営地で一晩すごそう」
まだ日も高く、夜になるには十分な時間がある中、ウィリアムの提案にマキ達は不思議そうに首をかしげる。
「ここから里までに道なりには地図じゃ見えない切り立った渓谷があってな、迂回するにしても渓谷を越えるにしても、それなりの時間が必要になる」
そう言いながら、ウィリアムは地面に里と今いる場所との間の簡単な地図を描きマキ達に説明する。
どれくらい深い渓谷なのかわかってないマキ達もウィリアムの言葉に納得して頷き返す。
「渓谷を超えるって下まで降りるのか?」
「いや……渓谷には世界樹の根が這ってあってな、太さから人が歩くにも問題ない事も確認せれている。だが、通るにはかなり入り組んでいてさながら迷路のようになっている」
ウィリアムの説明に納得して辺りを見渡していると、遠くの方に大きな花が咲いているのが見えてアダムが不思議そうに眺めていると、英知が発動して文字が空中に浮かび上がる。
――――アルラウネ
木人になり損なった成れの果て。主に夜に活動して森に棲む動物や踏みいった人間を捕食する。木人により処分されており、その数はあまり多くない。
じっと眺めていると、アルラウネは顔を出しこちらを……と言うよりアダムををじっと見つめている。
その姿は小さく、3~4才くらいの見た目の子供に見える。
「あの子……ついてきちゃったんだ」
アダムが近づこうとした瞬間、ウィリアムはアダムを制止してアルラウネに弓を構え矢を放つ。
矢はアルラウネの心臓より少し高い所に刺さり、アルラウネは痛みからか、大きな奇声を発して逃げようと地面から飛び出して走り出す。
「何してるんですかっ!?」
「あいつらはなり損ないの欠陥者だ。さっさと処分して被害を少なくするのが、俺達なりのけじめってものだ」
逃げ出したアルラウネの足を射貫き、動かなくなった所を射殺そうと射の構えをとる。
そんなウィリアムとアルラウネの間にアダムは割って入り、アルラウネを庇うように立ち塞がる。
アダムの行動に一瞬驚いた表情を見せたウィリアムであったが、すぐにアダムを構えを解かずに睨み付ける。
「なんのつもりだ? アダム」
「こんな小さい子に何してるんですか。かわいそうじゃないですか!?」
「アルラウネは放っておけば必ず何かしらの被害が出る。今まで例外なんて無いほどにだ。そいつは危険なんだ、わかったらどけ!!!」
「退きません。この子は僕を頼ってここまでついてきたんです。危険だからなんて理由でこの子は殺させませんよ」
双方退かずに睨み続ける中、ラムはいつでもウィリアムを取り抑えるべく構えており、マキはアダムの必死さになにかを感じとり、仕方ないと言いたげにため息を吐きお互いの間に入る。
「二人とも落ち着け、今はまだ危険って訳じゃないんだろ? ならしばらくこの子はアダムに預けるって事にはできないか?」
「もし被害が出たらどうするんだ?」
「その時はこちらでどうにかするよ。アダムもそれで良いか?」
「う、うん……」
「それじゃこの話はこれで終わりと言うことで」
ウィリアムは小さく舌打ちをして、矢をしまうとそっぽを向いて歩いて行ってしまう。
そんなウィリアムの事など気にせず、アダムはアルラウネに近づくと刺さっている矢に手を添えて、
「痛いと思うけど我慢して」
刺さった矢を引き抜き、すぐさま回復呪文を唱え傷の残らないように治療する。矢を引き抜く時、痛みからかすごい奇声を放ち、そのせいか少し立ちくらみを感じる。しかし、アダムはそんなの気にしないという感じの雰囲気でアルラウネの治療に必死になっている。
体に刺さっている矢も同じように引き抜くとまた同じように治療をする。
「これで大丈夫です。どこか痛い所はないですか?」
アダムの問いかけにアルラウネは首を横にフルフルと振ってそのまま、逃げるように茂みの中に入って隠れてしまう。
「……嫌われちゃったかな?」
「そんなことはないと思うぞ」
隠れてしまったけど、気配は近くにある。きっとあの子も戸惑っている。だからああやって様子見で隠れて見ているのだろう。
「とりあえず、あの子の事は置いといて俺達もウィリアムが言ってた野営地にいくぞ?」
「……うん」




