森に蠢く何か
興奮している相手と話すにしても一人にしているアダムが心配であり、マキ達は木人の男を連れて野営をしていた場所に戻る事にする。
男を担いで運ぶ中、最初は逃げ出そうと暴れていたが、マキの異常な強さに敵わないと悟ると体力を温存するためか、動く事をやめてマキに運ばれるがままになっている。
「あだむかえったよ~」
「おかえりなさい。何か見つけられ……誰ですかその人?」
アダムはマキが担いでいる男を見て、不思議そうにその肌を突き出す。男はアダムを睨もうと顔を合わせるといきなり呆気に取られたような顔をして、茫然とアダムを見つめる。
不思議そうに男の前で手をひらひらさせていると男はアダムから顔を逸らす。その顔は少し赤くなっているが木人についていまいちわかっていないマキ達にはその変化がわからなかった。
「アダム、こいつについて調べてくれないか? こちらから話しかけても、無視されてしまってな」
「はぁ……まあいいですけど」
マキに言われるがまま、英知を発動させて男の事を調べ始める。男の情報が文字として浮き上がり男はその光景に驚き、目を白黒させている。
名前:スイートウィリアム 年齢:26歳
性別:男 種族:木人族(魔族トレント)
Lv.25
STR(攻撃力):0750
CON(生命力):1200
INT(知 力):0300
POW(精神力):1192
DEX(器用さ):0498
AGI(素早さ):0633
LUK(幸 運):0032
才能
隠蔽Lv.4
射手Lv.6
木霊Lv.8
狩人Lv.2
男の情報を引き出し、この男の素性がわかったとこでマキはスイートウィリアム(以後ウィリアム)を降ろす。
依然ラムが巻きついており、身動きのとれないウィリアムは警戒しながら逃げ出す隙を窺っている。
「スイートウィリアム……長いからウィリアムで良いか」
「ふざけるな!!!」
「それでウィリアムはなんで俺達を襲ってきたんだ? 俺達は今木の精の里に向かうべく森を行進中なんだが……」
「森のみんなが囁いてくれた。禍々しいスライムが森の生き物やマナを喰い潰しているって」
禍々しいスライムの言葉にマキとアダムはラムを見つめる。澄んだような綺麗な青色の体に濁りなどなく、これのどこに禍々しさを感じたのかと言う微妙な疑問の眼差しでウィリアムを見る。
「お前は、こいつのどこに禍々しさを感じたんだ?」
「えっ? ……見た目がスライムだからこいつしかいないと思ったんだ」
「コラ目線逸らさずこっち見ろ」
「仕方ないだろ! この森のスライムは数週間前に絶滅したんだから!!!」
ウィリアムの言葉にラムは拘束を解き、人化をしてウィリアムに詰めよる。ラムは信じられないといった表情と泣き出しそうな雰囲気でウィリアムの腕を掴む。
「うそをいうな!!! みんながいなくなるはずがない!!!」
「嘘じゃない……。俺達はスライム達が棲んでた巣に行って確かめてきた」
ウィリアムはその時の事を思い出しているのか、苦虫を噛み潰したような顔で、
「喰い荒らされたスライムの残骸と砕けたスライムコアがあった……。スライムのお前ならわかるだろ? スライムにとってコアはスライムの卵だ。それが砕かれていたという事はもうこの森にはスライムは誕生しないということだ」
ラムは力なくその場にへたり込み、茫然と言い訳を考えては口に出来ずに声にならない声を発している。
そんなラムの姿にアダムはマキの袖を引っ張り何かを訴えかけるように見つめる。そんなアダムの姿にマキは仕方ないといいたげなため息をついて、ラムの頭を撫でる。
「ウィリアム。すまないが俺達をそこまで連れて行ってくれないか? こいつのためにも確認しておきたい」
「……もう一度聞くがお前達じゃないのか? 森を喰い荒らすスライムと言うのは?」
「それは断言できる。俺達じゃない」
ウィリアムは少し考えた後、マキ達を見つめ頷くとマキに対して手を差し出す。
「数々の非礼……すまなかった」
「気にするな。こちらには対して被害は出ていないんだから」
その手を握り返し、笑って許しウィリアムの先導の下、マキ達はスライム達の巣に向かう事になった。
――スイートウィリアムが仲間になった。




