大森林開拓計画~始まり~
「おーい、そっちをもっと引っ張ってくれー」
森に帰ってきてマキ達は最初に野営のためのベースキャンプをいくつか立てている。街で買った時に取り扱い方を教えてもらい試行錯誤しながらようやく完成した頃には数刻過ぎており、アダムはそれだけでへとへとになっている。
「とりあえず、家が経つまでの職人と俺達の寝泊まりするとこは確保できたかな。アダムもお疲れ」
「僕の体は……肉体労働に……向いてないよ……」
「あだむひんじゃくだな~、もっといろいろたべないとたいりょくつかないぞ?」
「うるさいです」
アダムは近くの木影に座りこみ休憩を始め、ラムはそれに付き添ってアダムの膝に元の姿に戻って居つく。そんな二人の姿を見ながらマキはポーチから刀を取り出し、鞘の抜けないように固定した状態で素振りを始める。前の街を出る前にフレデリックに少しでも刀を振る感覚を覚えておけと助言された事を実践している。
「マキは元気だね」
「そうか? いつ戦闘になってもいいように、こうやって振る感覚を馴染ませておきたいだけなんだけどな」
この世界に来てから、今まではこの強さならどうにかできるとつけあがっていたせいで、いざ実戦になった時に何も出来ずに誰かがいなくなる。そんなのはもうごめんだとマキは素振りを続ける。
「それで、これからどうするの?」
「そうだな……とりあえず木の精であるドライアド族の隠れ里を探さないとな」
「それってもりのなかのむらのことか?」
ラムはこちらを向いてプルプル振るえながら、スピーカーのくぐもった声が聞こえてくる。スライム状態の時はいつもこんな感じに聞こえてきて一緒に過ごすうちに慣れてしまっている。
「ラム、どこか知ってるの?」
「むかしね、おかあさんといっしょにいたときにみんなでたちよったことがあるんだ」
「そっか……」
ラムは最初からアダムと一緒にいてその前にどこで何をしていたのか、マキは知らない。ゲームの時からスライムは群れで行動しており単独で行動するスライムはプレイヤーの狩りこぼしかと思っていた。
「ラム、もう少しゆっくりしたら一緒にドライアドの里に行こ?」
「うん、いいよあだむ」
この二人が気にしてないなら平気かとマキは二人のやりとりを聞きながら素振りを続ける事にした。
――――
森の深いところ光も届かない闇の中、一人の女性がのんびりと散歩するかのように着ている白衣を翻しながら森を歩いている。いや、見えていない闇の中にうごめく物が数体存在する。
「この森に世界樹があるのね。あの中にはどれだけの膨大なマナが貯蔵されているのかしら?」
「わらわが見た事がない故にわからないが、この世界のマナはあの世界樹が補っているらしい」
女性の声に応えるスピーカーから聞こえるような音に、女性はにやりと笑い遠くに見える世界樹を見上げる。その姿に怯えるように鎖に繋がれた魔族達がふるふると震えて大きな魔族にしがみつく、大きな魔族はそんな震える者達を安心させようと撫でてあげて目の前の女性を睨みつける。
「そんなに睨まないで、恐ろしくて私失禁しちゃいそう」
「ふざけるな。約束は護ってもらうぞ?」
「ええ、今回の働き次第ではあなた達奴隷の解放して差し上げますわ」
嘲笑うような表情に大きな魔族は舌打ちをして、女性から離れるように遠ざかる。
そんな姿を見送った後、女性は懐から一つのケースを取り出し、一頻りニヤニヤとそれを眺めた後闇の方をみる。
「楓、椛?」
「「はい、お母様」」
闇から獣人の少女と鬼人の少女が姿を現し、女性に傅く。その姿を満足そうに見つめた後持っていたケースを鬼人の少女に放り投げる。
「あの奴隷達はあなた達に任せます。私はもうちょっとこの森を堪能しておりますので、作業の事頼みましたわね?」
「「はい」」




