マキの決意と小さな願い
街での買い物が終わり、アダムには動きやすい服と前の時間で選んだドレスの他数点の服を選んで着替えてもらっている。この街で行動してる時に来ていたイサミの衣装はそのまま譲ると言う事なので、一緒にマキのポーチにしまってある。
「マキ君、こんなに買ってもらってありがたいんだけどいいの? 僕ばっかりこんなに贅沢しちゃって」
「気にするな、どっちみちあの服で出歩くのは目立ってしょうがない」
「そう言えばそうですね」
「らむもあのふくきらい。あだむにだきついてもごわごわするんだもん」
「だからって、服の中に入り込もうとするのはやめましょうね?」
この街を離れる前にいくつか森で生活するための野営準備なども買うために露天に向かって歩いていく。
いろいろと並ぶ店の前でアダムは一つのお店に近づき、売ってる商品を物色している。
そのお店の品揃えに見覚えがありながら近づくとお店の店主が大声でこちらを指差してくる。
「おまえ、この前の客じゃん!? また買いに来てくれたのかうれしいぞおい」
「マキ君知り合い?」
「ああ、この街の地図を売ってもらった店の店主だ。昨日の今日だって言うのにここらは昨日と変わんないな」
「賊が入りこんだ話だろ、なんでも立ち寄った冒険者の協力もあって賊はほとんど捕まったって話じゃねぇか、今もラント卿が賊の足取りを探しているって話しだしそのうち捕まるだろうし、それにこちとら今日の生活もかかっているんだ休みになんてできないよ」
捲くし立てる様に話してくる店主に圧倒されるアダムを助けるべくマキは店主との間に入りアダム達の盾になって上げる。
「それで、今日もなんか買ってくれるのかい? こちらとしてはそのほうが嬉しいけどね」
「そうだな……アダムこの中で欲しいのがあったら買ってやるよ。好きなの選びな」
「そんな、さっきだって服を買ってもらったのに」
「気にするな、実際ここに来るまでにラムの食費にいくら使っていると思っているんだ?」
ラムは素知らぬ顔で先ほど買った肉串を串事体に取り込み吸収している。あふれ出る肉汁にその身を震わせている姿を見ながらアダムはそっとマキから目をそらそうとする。
「別に遠慮入らない。ここで買わないほうがこの店の店主に悪いだろうが」
「兄ちゃんいいこと言うじゃないか! 嬢ちゃんも男が貢いでくれる時は素直に受け取っておき遠慮なんかしてると男には拒否に見える時があるからな」
「……それじゃ、えっと……」
アダムは一つ一つお店の商品を確認していく。時々これはないこれはあるという言葉が聞こえてきて、何かを英知で調べているのが見て取れる。
全てのアクセサリーを見比べた後、アダムは一つの腕輪を選んでマキの方をおずおずと見る。
「これでもいいですか?」
「ああいいよ。店主これはいくらだ?」
店主に代金を払い、アダムはその腕輪を腕にはめてマキに見せてみる。マキは一度頷くとポーチから一つのアクセサリを取り出す。この露天で買って、前の時間でアダムとラムの墓に備えた髪飾りである。
「これも俺が付けても似合わないだろうし、アダムに上げるよ」
アダムの髪に髪飾りを付けてあげて、マキはやっぱり似合うとアダムに微笑む。アダムの方はいきなりの事で唖然としていて、髪飾りに触れて慌て始める。
「こんなにもらっても僕には何も返せませんよ!?」
アダムとしてはこんなに受け取れないと返したいのだろう、慌てふためきながら言葉を捜している。そんな姿にかわいいと感じたマキはおもむろにアダムの頭をぽんぽんと撫でる。
「じゃあ、俺からの願いを聞いてもらっていいかな?」
「はい! 何でも聞きますよ」
ここでお決まりのセリフを言い掛けた現代人としての自分を心で殴りながら、
「それじゃ、これから長い付き合いになるんだし、俺のことも呼び捨てで呼んでくれないかな?」
マキの言葉にアダムは一瞬躊躇いながら頬を赤くして、
「うん、これからよろしくね……マキ!」




