襲撃直前
賊が襲撃する直前の時間、ラント達と共に宿の入り口で待機している。
マキの装備にはこの世界に来てから持っていた刀ではなく、フレデリックにもらったダガーの鞘がホルダーに携えており、緊張でがちがちに固まっている。
「今からそんなでは身が持たんぞ、もっとリラックスしたらどうだ?」
「無理言うな……こちとら実戦なんて片手で数えられるぐらいしかした事無いんだ」
「悪いなマキ、こちらとしても君のような戦力になる者がいると憂いなく戦えるんだ」
宿のロビーにはラントとフレデリック、そしてアーリアの兵士が数名とマキ……そして、
「怪我したら無理せず言ってくださいね」
「らむがあだむをまもるんだから」
ロビーの受付にアダムとラムが応援している。
マキは彼女の参戦を反対したのだが、自分の回復で役に立てると退かず絶対に後方から出ないという約束をしてついてきたのである。
マキとしては彼女達には安全なところで帰りを待っていてもらいたかったであろう。
「アダムはそこから何があっても動くなよ、ラムはアダムを全力で護れ」
「了解です」
「いわれなくてもわかってる」
二人の返事に少しの不安が残るがそこは全力で護れば問題ないと自分に言い聞かせ、振り返るとフレデリックがニヤニヤとにやついていた。
「なんだよ?」
「あの嬢ちゃん。お前のこれか?」
そう言いながら、小指を立ててくるおっさんの脇腹に拳を叩き込み衝撃でおっさんは悶絶する。
「いきなり何言い出してんだお前!?」
「つっ~……んだよ、緊張を解そうと思ったおっさんなりのジョークじゃねぇか」
「時と場所を考えろ!」
「だからこそ言ってるんだよ、ああやって戦場で頼みを聞いてくれる者は大切だぞ。そいつは生涯ずっっと連れ添う時の方が多いんだ。大切なら意地でも護りきりな」
真剣に話しにマキは頷き返すと、フレデリックは鎧からソケットを取り出し、その中身を見せてくる。
「ちなみに……これが俺のかみさんだ。元傭兵で俺とも何度も死線を潜り抜けてきた相棒のような女だ。最近ガキも生まれてそれがまたかみさんに似てかわいいんだ」
真面目な話からいきなり惚気話を始めるフレデリックに半分あきれながらも戦場をも日常のように感じられる胆力に少しは見習おうと思うマキであった。
「それで、俺のガキは男なんだけど、もう俺の真似しておもちゃの……」
でもこんな子供の自慢話を永延と聞かせる親父にはならないようにも誓うマキなのであった。
「フレデリック、子供がかわいいのはわかるが……っ」
「……どうやらおいでなすったようだ」
さっきまでの緩んだ空気が一瞬で張り詰め、全員が外に注意を向ける。
外からは複数の足音が聞こえてきて、この宿を包囲しようとしている。マキ達は頷きあい、自分の武器を構え賊の突入を待つ。
「突入だ!」
宿の扉が蹴破れて、一気に賊が中に侵入する。賊の一人がラントに向かって斬りかかってくるが、ラントはその武器を持つ手を掴み賊を空中に投げ飛ばす。
「なに!?」
「……全員戦闘準備! 賊共を一匹残らず捕縛しろ!!!」




