時扉の代償
「マキ君大丈夫?」
フレデリックにしごかれた後、ボロボロになっているマキに回復をするアダム。
傷が癒えていくと、マキはアダムに礼を言い頭を撫でる。されるがままになってるアダムをラムが頬を含まらせて無理やり引き剥がしてしまう。アダムはイサミに貸してもらった衣装を身に纏っているのだが、その衣装がどういうわけかイサミが着ている服とおなじメイド服でありその姿にマキとしては少しそわそわしてしまっている。
「それにしてもお前さん、素体が良いがけあってのみ込みが早いな。鍛えれば更に強くなれるぞ」
マキを褒めながら背中をたたいているフレデリックに耐えながら、ラントの進捗を尋ねる。
マキから得た情報に合わせて兵士を配置しており、宿にはラントとフレデリック、それと数名の兵があたる予定らしい。
「それにしても、未来から帰ってくるなんて能力、何の代償もなしに使えるなんていいもんだな。いつでもやり直しがきくなんてよ」
「時扉は確か戻った時間までに経た物がなくなるから実質それが代償じゃないか?」
「そんなのでいいのか、もしかしたら何か気づかないうちになっているなんて事はないのか?」
「調べて見るか? アダム調べてもらえないか」
アダムは了承してマキのステータスを公開する。
新しい才能がいくつか増えているほか何も変化がなく、その才能を調べる事にする。
―――絶望の灯火
絶望にその身が蝕まれていく。
絶望でその身が焦がされた時、その者はもう戻れない存在である。
―――願いを引き継ぐ者
彼の者の願いを引き継いだ者に与えられる。
彼の者の記憶をも引き継ぎ、その経験をも学べる。
―――ちっぽけな勇者
その勇気が始まりである。
誰かを救いたいという決意こそが勇者の始まりだったりする。
上限に達するとその者の能力上限を引き上げる。
「どれも、今のとこ問題とかないみたいだな」
「ステータスも変わってないし、もしかしたら代償なしなのかもしれないな」
ラントにどこも変わってない事を確認してもらい、マキもその事に同意する。
記憶についてもこの世界に来てからの記憶に欠損もない。
「あのね、マキ?」
「なんだ? そんな心配そうな顔して」
「マキ君がここにくる前にいた場所の記憶は大丈夫? 何も忘れていない」
「あっちにいた時の全てを覚えているわけじゃないし、思い出せないものだってあるはずだ」
「それでも、覚えている事を考えて見て?」
アダムに言われるがまま、自分の前の世界にいた時の事を思い出す。
あの世界でいた学校の部室、教室、そして一緒にいた仲間達の顔。家族の事を思い出し、家の間取りから自分の部屋の隠してあるエロ本の位置まで思い出せる。
「やっぱり何も忘れていないな、気にしすぎなんじゃないか?」
「マキ君自身の事は? ちゃんと覚えてる」
「何言っているんだよ、忘れるわけないだろ俺は―――」
そこまで言い掛けて言葉に詰まる。いつもすぐに思い浮かべなくても言葉に出来る事ができなくなっている。それくらい長年連れ添ってきたそれが思い出せなくなってしまっており、マキは恐怖を感じてしまう。
「俺の名前は……いったいなんだ?」
「何言っているんだ? お前の名前はマキだろうが」
「それはこの世界にいた時のなまえだ、俺が俺であった時の名前があったんだ!!!」
その後、アダム達に教えてもらった名前が他人の物のように思えてしまってマキは自分が仕出かした事の重大さに悟ってしまう。




