もう一度ここから
朦朧とする意識の中、マキはだんだんと視界がはっきりしていき目の前にいる人物が心配そうにこちらを見ている。
「おい、どうかしたのか? 今日に黙り込んじまって」
辺りを見渡すと、そこはギルドの応接室でラントはマキが書いたであろう書類を片手にうろたえている。
「ここは……ギルドか?」
「何を言っているんだ? そんなの当たり前だろうが。いきなり意識を失って机に倒れたと思ったら、今度は何を言っているんだ?」
どうやらマキは、ラントとギルド加入のための手続きを終わらせ、その待っている時に机に突っ伏すような形で倒れてらしい。
「もし何だったら、こちらの救護室で休んでいくか?」
「いや、大丈夫だ。ラント、今は何時だ?」
「おいおい、何を呆けているんだ? 今は午後の1時過ぎだぞ」
ラントの言葉にマキは、自分が過去に帰ってきた事を自覚して、しっかりと認識している未来の出来事を思い出す。
この街の宿に賊が入りだし、宿泊客を次々と殺されていた光景。マキはその始まりの時間を思いだそうとして時計を確認する。
「あの事件が起きたのが夜10時ごろ……だとすると、もう9時間切っているんだな」
マキは今の状況を把握して、まずやるべき事を整理して行く。
あんな未来を体験しないために、マキは最初にとった行動は。
「ラント、急な話で申し訳ないが後ろのイサミにアダム達を迎えに行ってもらえないだろうか」
「そんなの自分で行ったらどうだ? お前だってこの後用事がないんだろう」
「すまないが、急用が出来てしまってな。出来ればお前にも手伝ってもらいたい」
ラントは訝しげな様子でマキを見つめる。
急に変化したマキに何か乗り移ったのではないかと警戒しているのだろう。マキは真剣な表情で今から起きる事を告げる。
「今から9時間後にアーリアの高級宿に、賊が侵入して宿泊客を皆殺しにしていく。俺はそれに巻き込まれてしまって、ここに戻ってきた」
「何を言っているんだお前は? そんな事出来るはず……」
「世界樹で願いを叶えたとしたらどうだ?」
マキの言葉にラントは驚き、しばらく考えた後マキの言っている事が真実であることを理解して、真剣にマキの言葉を受け止める。
「もしマキが巻き込まれたとしてもお前のレベルは83。この世界でお前に勝てる奴なんていないだろうが、お前が戦う前にみんな殺されたのか? それともお前より強い奴がその場にいたのか……」
「いや、奴らの実力的に素手での攻撃でも一撃で倒せる。レベルからしてほとんどが高くない」
「ならどうして?」
「レベルが高くても、俺は戦った事がないんだ。いざ戦ったら何も出来ずに恐怖に俺は振るえてる事しか出来なかった」
「マキ……」
「そこでラントに頼みたい……俺に剣での戦い方を教えてくれないか?」
あの時戦った賊は、マキの剣の構えだけ見て武器も持った事のないまったくの素人と認識した。それほどまでに今のマキの中身、――は戦いになれていないのである。
ラントはマキの頼みに少し考え込み、マキの持っていた武器を見る。
「お願いできないか?」
「少し待ってくれ、イサミ」
「はい」
「悪いが、門の所にいるマキの連れをこちらまで連れてきてくれないか? それから、ここを出る前にフレデリックに応接室に来るように伝えてくれ」
「了解いたしました」
イサミに指示を出して、ラントはマキの刀の方に近づく。イサミが出て行った事を確認した後、刀を手に取り鞘から少しだけ引き抜く。
「俺は、こう言う武器を使った事がなくてな。今呼んでる奴ならこれに似た奴を使っていたから少しはまともに教えられるだろう」
「ラント?」
「お前の話を信じてやる。本当だとしたら、俺の愛すべき民を傷つける馬鹿野郎が来るって事だからな」
「助かるよ、恩にきる」
「それじゃ、もっと詳しい所を詰めていくか」
マキとラントが今回の襲撃で何がどう起きるのかを確認していると、応接室のドアがノックされて一人のいかにも歴戦の勇士と言えるような壮年の男が入ってくる。
「何のようだ、ラント卿、こちらも軍事演習で兵を鍛え上げていたとこなのだが?」
「すまないなフレ爺、少し鍛えて欲しい奴がいてな」
「……なるほど。その坊主か、見た感じ相当鍛えている見たいだが動きがまるで素人だな。よしわかった」
フレデリックがそう言うと、マキを掴まえてそのまま運び出そう歩きだす。
マキが引き剥がそうと暴れるが、ビクともせずただ体力を消費するだけだ。
「お前さんはどうやら速さ特化の戦士みたいだが、わしのような体力馬鹿には掴まったら引き剥がせないほどに腕力はないせいでこうなる。お前さんのようなタイプは掴まったら終わりだ、そこのとこをしっかりと理解しておけ」
そう言いながら、フレデリックはマキを連れて行き、ラントはそんな二人を見送った後、今回の賊に対しての軍の編成をするべく、自分の軍団に声を掛けに行った。
「それにしてもこの刀。見るからに切れ味がよさそうだが、こんなのどこで手に入れたんだ?」
歩きながら自らが先ほどから持っている刀をしげしげと見つめながら歩いていく。




