願いと引き継ぐ者
あれからどれくらいの時間が流れたのだろう。
アダムとラムの亡骸を抱いて、ただひたすら歩き続けた。目的地は決まっていたからそこに向かってマキは歩き続けた。
途中出会った魔物は、こちらを攻撃してくるもその威力の小ささにマキを傷つける事はできていない。逆にマキの物を退かす様な蹴りでふき飛び、そのまま動かなくなってしまう。
ゆっくりとした足取りでただ前へ前へと歩き続けついに目的の場所にたどり着く。
「ついたよ。アダム……」
森の葉から漏れる日の光が優しく降り注ぐ広場。その近くに根しか見えないほど大きな樹が壮大にそびえ立っている。近くには崩れてしまった歪な建物の残骸が転がっており、あの時の思い出が蘇る。
樹の根の部分に穴を掘りそこにアダムとラムの亡骸を置き埋めていく。瓦礫から無事な材料を取り出して墓標のように建て、墓標に飾るように露天で買った髪飾りをくくり付ける。
不恰好な墓の前でやる事の無くなったマキはお墓の前に座りこみ、茫然と二人との短かった時間を振り返る。
「約束……まもったよ。アダム」
彼女と交わした最後の約束……一緒にここに帰ってこよう。その約束だけがマキを突き動かしてきた。
「この先、どうしようかな……」
何も出来なかった自分には何も出来ないと悟ってしまい、何もやる気が起きなくなってしまっている。
アダム達の墓の前で茫然として時間が流れて行く。夜の静けさの中何かが囁くような声が聞こえた気がした。
―――お前が不甲斐無いから死んだんだ。
言葉がマキの心を締め付ける。マキはその声の主を探そうと辺りを見渡すがそこには誰もいない。
―――こんな奴を信じて死んでいった彼女達がかわいそうだ。
「そんなことわかっているんだ!!! 街について、自分の……この体の強さを知った時、俺は英雄になれるんじゃないかって思ってしまった。あの時だって」
あのままアダム達といれば彼女達は守ることができた。しかし、マキはそれをしなかった。浮かれていたんだ。自分ならこの状況をどうにかできると過信して飛び出した。
―――その結果がこれですか? どんなに素体がよくても、おまえは何の力もないただの学生。ただ平穏に生きていた奴がいきなり戦いに放り込まれて、戦えるはずがないんだ。
「……わかっているよ」
そんな事は、今の状況的に嫌というほどわかっている。マキの目の前にはその結果が現実としてつき付けられているんだから。
「俺は……これからどうすれば良いんだ? なんで俺はこの世界にやってきてしまったんだ」
―――そんなの自分で決めろ。そのための肉体はお前が持っているし、何を始めるにも適した場所にお前は今いるんだから。
謎の声のセリフに、マキはアダムとのやりとりを思い出す。
『あの樹の根元でだと絶対叶うって言えないけど、もしかしたら叶うかも知れないでしょ? マキ君にとっても悪い話じゃないと思うんです』
―――もしも、この樹が願いを叶えてくれるなら……お前は何を願う?
その言葉にマキは壮大な樹を見上げ考える。この願いが叶うならと。
「もしも……この願いが叶うなら……俺は願いたい。彼女達との時間を……こんな最悪な結末を……俺はやり直したい。不甲斐無い俺でも彼女達を守れるんだという結果の未来が見たい」
―――ならば、君の願いは叶うだろう。君の体には君の願いを叶える才能がある。
マキは願った、彼女達との時間をもう一度と。自分の体の奥底が熱くなっていく感覚に見舞われながらそれでもその樹に願いを祈り続ける。
―――さあ、唱えるんだ。統べての時間をやり直させるために!!!
声に反応するかのように、両手を前に掲げ胸の内に浮かんだ言葉を声高らかに叫びだす。
『時扉!!!』
目の前に開かれた空間はどんどん大きくなっていき、マキを……世界を飲み込み、更に肥大していく。
意識が途切れる寸前、謎の声の言葉が聞こえたがマキは聞きとる事ができず気を失う。
―――君を巻き込んでしまって申し訳ない。それでも俺は彼女の……世界樹の乙女の求めた優しい時間を取り戻したいんだ。俺じゃ出来なかった事をお前に託す。俺の体を存分に使ってくれ……正樹。
願いは願いを巻き込み、新たな世界を歩きだす。
―――マキは願い引き継ぐ者を開花した
―――マキはちっぽけな勇者Lv.1を開花した
―――マキの絶望の灯火がLv.2になった
仕事と自分事の関係上明日の投稿に間に合うかわかりません。その時は完成しだい投稿していきたいと思います。ご理解よろしくお願いします。




