遅すぎた救援
「捕らえた賊を尋問しろ! 残った賊の居場所を聞き出せ!!!」
アーリアの兵士に指示を出しながら、宿の入り口で包囲を完成させていく。
現場を指揮しているラントは中に入る事に警戒をして、踏み込む機会を伺っている。
「あのマキさんほどの実力者がいて、この被害……よほどの実力者なんだろう……」
入り口からは誰も出てこない状況が続いた後、騒乱が収まり静けさが夜の街を包む。
ラントは、中の状況を確認しようと入ろうとした時、中から崩れる音が響きわたり騎士団に緊張が走る。突入を躊躇っていると、中から命乞いの声が聞こえてきてすぐさま何かが潰れる音と物が崩れる音が響き、それきり音が聞こえなくなる。
「中でいったい何が起きているんだ?」
「どうしますか団長?」
「……レベルの高い団員何人か俺と一緒に来い、残りの者は包囲を解かずに警戒を続けろ」
ラントと数名の兵士が中に入った後、外では警戒をしている兵士の見えない上空にて賊が何人も屋根伝いに逃げているのであった。
中に入ると明かりが全て消えているせいか暗闇で何も見えず、ラントたちは目が暗闇に慣れるまでその場で待つことにした。目が慣れてきたところで目の前で起きていた惨状を目の当たりにして息をのむ。
「これは酷い……」
ラントが辺りを確認するとそこには宿の衛兵と複数の賊の亡骸が転がっており、想像を絶する戦いが繰り広げられたのだろうと伺える。衛兵のほとんどが急所への一撃で止めが刺されており、相当の手練が紛れ込んでいたのだろうと伺える。
更に奥に進むにつれて鋭利な刃に斬られたのだろう骨ごと両断された亡骸の数が増えていく。
亡骸を追いかけていくと壁を切り裂かれた後があり、そこを包囲していた兵士のバラバラにされた亡骸が転がっていた。
「クソッ! ……どうやら完全に逃げられたようだな。お前らは生存者がいないか探してくれ。お前は外の兵士に調査の救援を頼んできてくれ」
ラントの命令に従い部下はそれぞれ行動を始め走り出す。ラントはつい先ほどまで一緒にいた今日知り合った冒険者が取った部屋に向かい歩きだす。
暗い中を進んでいくと奥の方から歩いてくる者が見えてくる、ラントは武器を手にし警戒を強める。
その人物がはっきりと見えるようになりその人物がマキである事を知る。ラントは良く知る人物である事から警戒を解きマキに近づこうとして彼が抱いているものを見て動きが止まる。
マキの抱いている少女はまるで眠っているように見えるが、彼女の姿にもう生きていないことを理解してしまう。
「……マキ。生きていたんだな、良かった」
「……なに、が。良かったんだ……?」
「ッ!?」
マキの殺意が膨れ上がり、ラントは死の恐怖に苛まれる。
下手に言葉を紡げばマキに殺されかねない。ラントはその場でへたり込み恐怖でマキを見ることが出来ずにその場で突っ伏す。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。殺意に苛まれたラントには時間にして数刻のように感じた……。ラントが顔を上がるとそこには誰もおらず、残思念によって自分が震えていた事を察する。マキのいない廊下でラントは冷や汗を拭い立ち上がる。その手はいまだに震えが止まらず落ち着くまでその場から動けないでいた。