躊躇いの結果
賊に敗れた後も周りでは悲鳴や物が壊れる音が響き、早く過ぎ去れと願いながらマキは床に倒れ何も出来ずにいる。
元学生で喧嘩もさほどした事無いマキには今起きている事が自分ではどうしようもできないとわかってしまいただ恐怖に震えそうになる体を押さえ込む事がやっとな状態である。
そんな時、足音が聞こえてきてこちらに近づいてくるのがわかる。マキは生きている事を察しられないように息を殺して死んだフリをする。
「ここらには、もう無いようだな」
「このまま、アーリアの兵士が来る前に兄貴との合流場所に向かうか」
「場所は忘れてないよな?」
「もちろんだ、ここから東の洞穴に襲撃から一刻後に合流。もう金目の物も無いしずらかろうぜ」
「ああ、そうだな」
賊が通りぬけ、人の気配がしなくなった後、マキは安堵に空気を吐く。
族達はもう少しでいなくなる。その事実にマキは少しの希望を持つことが出来た。
生き延びられればどうにかなる。アダム達には立ち向かったけど不意をつかれて気を失っていたと言おう、そう頭の中で整理していた時、
「ラム!!!」
聞こえてきた言葉に、自分が置かれている状況とその中にあいつらもいる事を思い出し、マキは咄嗟に立ち上がり、アダム達がいる部屋に戻るべく走り出す。
間にあってくれと祈りながら走る足はもつれ何度も転びそうになりながら、部屋に近づいていく。
今の自分が行ったところで何ができるかわからない。それでもこの世界でずっと一緒にいてくれた人たちがいなくなる恐怖にマキの体は突き動かされる。
「もう少しで……」
自分達が使っていた部屋にたどり着くと扉は破壊されており、賊が中に入ったのが一目でわかる。
マキは急いで中に入ろうとした瞬間、中から勢いよく何かが飛び出してくるのが見えた。
飛び出してきたものは壁に激突して声にならない声を出しその場にずり落ちて動かなくなる。
近づいて見るとそれはマキの良く知っている人物であることがわかる。
「あ……だむ……?」
不安に駆られながら、良く知る人物に触れて見るとまだその肌にはぬくもりがあって生きているように思えた。だが、彼女の体は触れた瞬間何の抵抗も無く床に倒れ、そのまま動かない。
マキは彼女を抱き上げ、生きているか確認して察してしまう。
彼女はもう事切れている……。
「嘘だ? なんで? なんでなんだ? アダム? アダム!?」
必死に呼びかけるも彼女からは反応は無く、マキの声は廊下空しく響く。
「おいおい、死んじまったじゃねぇか。もっと優しくしてやれよ、俺は死体抱く趣味なんかねぇぞ」
「だって、こいつら無駄に抵抗してきてむかついちまったんだからしかたねぇだろ」
後ろから声が聞こえてきて、振り返ると賊が二人笑いながらこちらに歩いてくる。
その手にはラムの体を形成している粘液を持っており、賊はそれを何気なく床に捨てる。
「なんだ、まだ生き残りがいたのか。その女の連れか、わりぃわりぃたのしむ前に殺しちまってよ」
族の言葉を理解することが出来ずに、マキは茫然と賊を見ている。
その心には、怒りや殺意がたまっていき、マキは賊達を睨みつける。
――――絶望の灯火LV.1を開花した
「お? なんだやる気か? そのままじっとしてれば楽に死ねたのにな」
賊は刃物をこちらに構え、振りかぶってくる。
マキはその瞬間信じられない現象に見舞われる。賊の振るった刃はとても遅く避けるのにも十分な時間があり、マキは何気なくその刃の峯部分を摘み、賊の刃を止める。
「へっ?」
賊も今起きていることに理解できずに、呆けた顔になる。マキはアダムの亡骸を床に寝かせ賊の刃を離した瞬間に賊の顔に拳を振るう。拳は難なく賊に当たると賊はその拳の勢いにそって後ろに吹き飛び壁に激突してそのまま貫通する。
賊の頭は殴られた衝撃で体から吹き飛び更に遠い所に転がっている。その光景をもう一人の賊は唖然とした状態で見つめている。
(ああ、なんだ……。こんなにこいつらは脆かったのか……)
マキはもう一人の賊の方を見ると賊は今自分が置かれている状況を理解してマキから離れようとして後ずさろうとするも恐怖で足が竦みその場にしりもちついてしまう。
そんな賊に止めを差すべく、近づいていく。
「待ってくれ!!! 俺達が悪かった、謝る!!! 謝るからど……」
喧しく騒ぐ賊に、マキは怒りを込めてその拳を振り下ろす。拳を受けた賊はそのまま床を貫通して下の階に落ち、その頭は殴られた衝撃で潰れてしまい、族の死体の当たり一面血が飛び散っている。
動くものがいない空間で、マキは部屋に入り、ラムの亡骸を拾い集める。
最後までアダムを護ろうとしたのだろう、いろんな所に飛び散っており一つ一つ拾い集めるのは難しい。
全部拾い集めた後、アダムの所に行き、彼女の亡骸とラムの亡骸を抱いて歩きだす。