これからの事
マキがお風呂から上がり冷静になる事ができ改めてそう言う事態にはならないだろうと予測する。いくら男女一つの部屋でもそう言うのはないと自分に言い聞かせる。
部屋に戻るとラムがベットを一人、体を丸めてしてぐっすり眠っている。
夕方眠っていたが、ラムはその後もはしゃいでいて疲れてしまったのだろう。アダムが頭を撫でてもくすぐったそうに動くだけで目覚める事はない。
部屋を見渡すと、窓辺に備え付けられたテーブルの椅子にアダムが座っており、開けられた窓から夜風が入ってきてアダムの髪を揺らす。
まだ季節的には春の近いのだろう。入ってくる風に濡れた髪がひんやりとした感覚に見舞われる。
「アダム眠れないのか?」
「うん……僕も初めて来た街に興奮してるのかな? 全然眠くないんだ」
「そっか……」
アダムが座っている反対の椅子に座り、一緒に夜風にあたる。
夜風は冷たく体が少し震えてしまう。アダムも寒いのか肌を擦ったりして温まろうとしている。
「ねぇ、マキ君はこれからどうするんだい?」
「俺か? とりあえずお前らが無事に暮らせるようにはしないといけないし……」
「その後は?」
その後……。その言葉の意味を察してしまう。
この暮らしも今はやる事がなくて、何かの手がかりにアダム達を護る事をしてるだけで、本当の目的はどうしてここに来たのかを知る事、そして元の世界に還る方法を探すことだ。
いつまでもアダム達と一緒というわけにはいかないのだろう。それこそ彼女達を危険があるかも知れない世界に連れ出す事になりかねない。
「……」
「ごめんね。僕のわがままなのに、君を迷わせてしまって……僕達が自分達で暮らせるようにするためにギルドに入るようにしたんでしょ?」
ギルドに入ればお仕事だってできるし、街にだって自由に入れる。それに、家を造ればあの地帯の魔物に対して守りにもなる。それだけでは不安であるから自分のギルドへの加入もした。高レベルならいくつも頼みたい仕事がこちらに来るだろうし、その対価にラントにアダム達の護衛を頼む事も視野に入れている。
そうすれば、彼女達の安全はほぼ約束されたものになる。
「アダム達の事はラントに頼むつもりだ。今日話して見てあの人なら大丈夫だと思えるから」
「……わかった。僕もマキ君を引き止めるのはやめます。それがマキ君の願いなんだとしたら僕には何も言う事はできません」
「ありがとう……アダム」
「なんだったら、願掛けしていくのも良いかもしれませんよ?」
「願掛け?」
不思議そうにしているマキの前に英知を発動して一つの物の詳細を提示する。
――――世界樹
樹幻界の統べての理を循環させる大樹。
その理は、願望をも循環させ叶えることがある。
願望を叶える手順は大樹の聖壇に―――――。
どんな理不尽な願望をも叶える事から、聖壇は誰も近づけない場所――に存在されている。
「あの樹の根元でだと絶対叶うって言えないけど、もしかしたら叶うかも知れないでしょ? マキ君にとっても悪い話じゃないと思うんです」
アダムの提案に少しの不安があったが、目の前の必死な彼女に断る事も無粋である。
「わかった。アダム達と一緒にあの樹の元に帰る事を約束するよ」
「ありがとう……ございます」
一区切り会話が終わり、沈黙が部屋に残る。ラムの寝息が規則的に聞こえてくる以外に部屋の中には音がしない。
そう、部屋の中には……。
「外に誰かいるのか? こんな時間に」
「何言っているんですか? 外に誰かいるはず……」
その瞬間、宿の入り口辺りから蹴破るような音が響き、大人数の人の足音が聞こえてくる。
宿の護衛らしき者の怒鳴り声が聞こえてきて、暴れるような音と武器同士がぶつかる音がしばらく続いた後、誰かが倒れる音が響く。
そして、宿全体に聞こえる声で、
「野郎共、金目の物をかき集めろ!!! 抵抗する奴は殺しても構わない。アーリアの乱暴者が来る前に裕福な奴らから根こそぎ掻っ攫いな!!!」
その声を皮切りに、一気に足音は廊下を駆けはじめる。
「このままじゃまずい! アダムはここにいろ、誰が来ても絶対開けるな」
「まって、マキ君!!!」
アダムの制止を聞かずにマキは自分の武器を片手に外へと飛び出した。




