宿
ラントに連れられ、入った宿は清潔に保たれており、また見るからに強そうな正装姿の男があちらこちらで警備を行っている。支配人らしき老人がラントに気がつくと、こちらに歩いてきて深々とお辞儀をする。
「ラント卿、ご足労いただき誠にありがとうございます。今日はどのような御用でございますでしょうか?」
「そんなに畏まるなじいさん、今日はここの食事をと思ってきたのだが、まだ席は空いているだろうか」
「ラント卿のためならば喜んで最高の席をご用意させていただきます」
「そうか、なら……」
こちらに振り返りアダムに抱かれているラムについて悩んでいるラント。席を用意させるべきかどうかわからない様子にマキはお子様用の椅子があれば頼めるかと応える。マキの言葉にすぐさま了承し、スタッフに声を掛ける。
「あの、ありがとうございます」
「たいぎである」
「いやいや、大層大切しているみたいだからただのペットじゃないなと思ってな」
ラムを撫でようとした瞬間、びっくりしてアダムの後ろに隠れてしまう。そんなラムにラントは苦笑いをして上げた手の行き先に迷いそのまま自分の頭を掻く。
そんな姿にアダムはすまなそうに謝り、ラントも笑いながらこちらにも非があると応える。
「ラント卿、御席のご用意が整いました。ご案内いたします」
「ああ、よろしく頼む」
支配人に連れられて着いた席は他の席から見ることもできない来賓用の個室で、そこにはラムの分を含めた5人分の席がご用意されている。
ラントが席に着くとその隣にずっとラントの後ろにいたイサミが座り、反対側にマキが座る。マキの隣の席にラムを下ろしアダムは残った席に座って、ラムにおとなしくするように言い聞かせる。
「ラント、食事に誘ってもらえて感謝するよ」
「いやいや、君から訪ねられるなら喜んで会おう。君はこの世界で唯一の80台なんだから」
ラントの言葉の意味に一瞬違和感を感じ、その理由になんとなく理解できる。
このゲームは、オンラインゲームだった時のレベル上限が100であり、廃人プレイヤーはのほとんどがこの領域に達していた。
中でもトッププレイヤーの10人ともなれば、このゲームで知らぬ者はいないほどの実力者。正樹のようなランク外のプレイヤーのアバターにここまで畏まるのにも理由があった。圧倒的にこの世界の存在より頭一つ抜き出ているのだ。
この世界ではマキ以外のオンラインプレイヤーが存在していない、もしくはいるけど隠れている。そのどちらかなのかもしれない。
「一つ聞きたいのだが、お前達のレベルはいくつなんだ?」
「俺のレベル50でイサミで40だ。この世界では俺と一騎打ちで戦おうとなんて思うのは相当イカれた奴ぐらいだ」
「なるほど、ちなみにお前らより上の奴っているのか?」
「俺が知ってる限りだと、まずこの世界の王だ。最近名の知れた奴だと鉄血の舞姫に航界科学者の成功体、それと最近異世界転移してきたどこぞの巫女……今知っているのだとこのくらいだ」
ラントが教えてくれた存在のほとんどについて、マキはある程度目星が着いてしまう。
鉄血の舞姫は部長と厨二的設定として作っていた機人。航界科学者はあの姉妹がゲームの設定資料集を見てキャラクターの設定に後付けでつけた鬼人と獣人。そして最後の巫女に着いても姉妹が勝手につけた設定がそのまま生きている霊人である。
その事にマキは深いため息を吐きうなだれる。それと同時にあの人たちも来ているかもしれないという可能性に少しの希望を持つことができた。
「それよりも、お前は俺に聞きたい事があってきたんじゃないか?」
「そうだった。ラント、ギルドに所属すれば出生が謎の奴でも身分を持てたりできるか?」
「……なるほど」
アダム達を見て納得したラントはマキの言いたい意味を理解する。
スライムのラムは使い魔としての登録ができるが、人であるアダムは出生が明らかになっていないせいか国民としての身分を証明できない事になってしまう。
アダムをギルドの一員として認められるとするならば、冒険者としての身分だって持てるし街に赴く度に検問に引っかからずに入れるようにだってできる。
「結論から言うと、特異な存在じゃない限り問題はない。ただそこのアダムはこちらで鑑定の最高ランクで調べたのに情報を得ることができなかった特異な存在なんだ。ギルドの者としては情報を明らかにならないうちは所属させられない」
ダメ元で聞いて見ただけなのでマキとしてもその答えは想像でき、仕方ないと諦める。
そんな中、アダムは手を上げて、目の前に文字を出現させる。
名前:アダム 年齢:0歳
性別:女 種族:神族
Lv.13
STR(攻撃力):0115
CON(生命力):0198
INT(知 力):0352
POW(精神力):0389
DEX(器用さ):0235
AGI(素早さ):0118
LUK(幸 運):5000
才能
英知Lv.3
治癒Lv.3
魅惑Lv.5
神聖Lv.3
系譜Lv.1
世界樹の加護
願い抱きし者
そこに映し出されたのはアダムのステータスである。英知の力を使って情報を引き出したのだろう情報記憶石では掲示できなかった部分まで見る事ができた。
「これなら問題ないでしょうか?」
「あ、ああ……これは、すごいな。一個人がこのような芸当ができるなんて」
「アダム、少しレベル上がってないか?」
「さっき、兵舎で治療してた時にあがりまして」
呆然としてるラントを揺すり、気がつくとイサミはラントに耳打ちをする。
イサミのひそひそ声にラントは頷き、あたらめてこちらを見る。
「アダムさん。この情報を移す事はできるかい?」
「可能ですよ。これならギルドに所属できますか?」
「ええ、これだけ完璧ならば問題ないです。明日ギルドに来てください、そこで改めて登録の手続きをしましょう」
イサミの言葉に安心したのか文字は消え、ラムは心配そうにアダムに纏わりつく。
心配ないとラムを撫でるとラムは元いた席に座りなおす。
「さて、お話も終わった事だし、食事にしようか」
ラントの言葉に反応したラムはそわそわしはじめ、アダムは苦笑しながらラムに優しく諭す。
イサミが席に置いてある呼び鈴を鳴らすと、支配人と配膳台を持った使用人が次々と食事を持ってくる。
そんな料理の数々にラムは周りをキョロキョロし始めており、ラントは優しく笑うと支配人にラムにいち早く食事が届くように指示を出す。
ラムの目の前に置かれた肉汁の滴り焼ける分厚いお肉の匂いにラムは限界をむかえ、お肉を頬張るように捕食する。
ラムの至福に満たされた震えを皮切りに皆思い思いに食事を始めるのだった。




