今夜の宿は?
アダムの洋服を買い終え、明日には仕立て直す約束でお店を後にする。辺りは日が暮れ始め、人々は足早に帰路について歩いている。
「今日はもう遅いし、家については明日にしようか?」
「それは構わないんですが、どこにお泊まりに?」
「んー……こんなことならラントにオススメの宿でも聞いておけば良かった」
地図を広げてみたけれど、暗くなってきている路地では地図は見辛く、宿などがある地域を探すのにも苦労してしまう。
「マキ君、いっそうのことギルドで宿について聞いてみるのもありなんじゃないですか?」
「そうだなぁ……このままここにいても仕方ないし行ってみるか」
目的地が決まったところでアダムはラムを呼んで抱き上げ、マキの後ろをついて行く。
疲れていたのかアダムの腕の中でラムはうとうととし始めている。そんなラムを見てアダムは微笑みながら撫でてあげるとそのままラムは眠り込んでしまう。
「ラム、寝ちまったのか?」
「うん、ずっと僕を守ろうと気を張ってたから疲れちゃったみたい」
「こうして見てると姉妹みたいだな」
「そうだね。僕がこの世界に来てからずっと一緒にいてくれたから、僕にとっては可愛い妹みたいなものかな」
「そっか……」
マキと出会う前はあの森で二人で生活していた。いつ来るかわかんない魔物に怯えながらもアダムを守るためにこのスライムは必死になっていたのだろう。
「考えるとこの街にきて一番休めてるのはラムなのかもな」
「ですね。こうやって安心しきって眠るなんてマキ君が来る前はなかったはずですから」
「そうなのか? 俺が来ると警戒してるから信用されてないのかと思ってた」
「警戒じゃなくて緊張していたんですよ。ラムは誰かに甘えることが苦手な子だから」
のんびり街を探索しながらギルドに目指し、歩いていく。
街のにぎやかさにあてられてついつい露天で買いものをしてしまい、観光気分で満喫して行く。
途中ラムが起きてからは美味しそうな匂いがすると、そのお店に突撃しては、食べ物を要求するといった感じでギルドにたどり着く頃には完全に日が落ちてしまっていた。
――――
ギルドにつくとラントに付き添っていた受付嬢が片づけを始めており、ギルドとしてのお仕事を終わらせようとしていた。
振り向いた時に、こちらに気がつきお辞儀をすると片づけを中断してこちらにやってくる。
「マキ様、いかがなさいました?」
「えーっと……」
「133と申します」
「イサミさんね、宿のオススメを聞きにきた事とついでに聞きたい事があってだな。すまないがラントはいるか?」
「少々お待ちください」
受付の扉から奥に入りしばらくすると、イサミはラントを引き連れて戻ってくる。
ラントも仕事が終わりなのか、帰り支度を済ませた状態で出てくる。
「マキではないか。なにか忘れたのか?」
「いやな、俺達この国に来たばかりでいい店とか全然わからなくてな。すまないが安全に休める宿なんかを教えてもらえないだろうか?」
「それなら値が張るが、安全性には問題ない宿泊所に教えよう。この時間ならすぐに食事の用意もしてくれるだろう。良かったら一緒に食事でもどうだい? そちらのお嬢さんと友達も一緒にね」
ご飯の言葉に反応したラムはアダムの腕の中で頭だけ人間化して涎を垂らしながら腕を生やしアダムの服を引っ張る。
期待に満ち溢れた視線に苦笑しながら、ラムをあやすアダムを見て頷きラントの誘いに乗ることにした。
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