11.地球5
「これは、元帥。お久しぶりですな。」
レクトは目の前の元上官に銃を向けた。
「まあ、待て。」
元帥は両手を前に出し、戦意のないことを示した。
「メイソン元帥、どいていただけますか。」
眉をひそめて、レクトが睨みつけた。
目の前の黒服を倒したシキが、立ち止まっているレクトの肩を叩く。
「おい、シンカを追うぞ!」
「まあ、待て、大丈夫だ。シンカは危害を加えられたりしない。」
メイソンがシキの前に立ちふさがる。
「どけよ!」
飛び掛ろうとするシキを、レクトが止めた。
「なんだよ、止めるな!」
シキは見詰め合っているかのようなレクトと老人を睨んだ。
ジンロも、セイ・リンも、二人の様子を見ている。
「久しぶりだな、レクト。」
「元帥、私たちはシンカを助ける。邪魔しないでいただきたい。」
「助ける?大丈夫だ。我々は彼を、後継者として迎えるつもりだ。危害など加えない。」
メイソンの言葉に、レクトは不機嫌に眉を寄せる。
「それを、あの皇帝が、認めるならばな。だが、俺にはそうは思えん。」
「おい、何なんだよ、その後継者って。」
「あの、それは、どういう。」
シキとセイ・リンが同時に声を出す。
メイソンは白いひげを軽くなでて、話し始めた。
「シンカ、彼はそのように育てられているのだ。生まれたとき、彼のもつDNAが、皇帝の後継者としてふさわしいことが分かってな。」
「はあ?」
シキがへんな返事をする。それは、ロスタネスの後継者という意味ではなかったか。
「ユンイラのためでは、ないのですか?」
セイ・リンも、険しい表情で見つめる。研究者たちはそう命じられていた。ダンも、そのために命を懸けたのだ。
「そういううわさも立ったが。そんな、あやふやな植物の成分より、稀にしか生まれない聖血者としての存在が重要だ。」
「せいけつしゃ?」
「確かに、知るものはほとんどいない。研究所でも知らずに育てただろう。」
元帥の話を、レクトが引き継いだ。
「皇帝になるにはな、三つの、特別な遺伝子が必要なんだ。どんなに血がつながっていても、それがなくては皇帝にはなれない。
その遺伝子で作られる、脳神経内の伝達物質が、星間ネットワークの中枢に使われているからだ。ネットワークを維持していくために、皇帝の遺伝子は不可欠。
同時に皇帝によってネットワークは守られているわけだ。それを持つものを、聖血者と、政府内では呼んでいるんだ。」
「そう。だから、彼は皇帝の後継者として迎えられるべきなのだ。」
レクトは大きく首を横に振った。
「元帥、リトード五世に、その意思があればといっています。あの男に、誰かにその地位を譲るなどという考えはない。」
シキは、頭を抑えている。
「わけが、わからん。」
「・・そうね、なんと、言っていいか。」
ジンロも、黙り込んでいた。
カッツェも知らなかったのだろう、だから、シンカが捕らえられたら殺せと、ユンイラが皇帝に悪用される前に、殺せと、ジンロは命じられていた。
「あの、レクトさん、どうするんで?」
「もちろん、始めと同じ。助け出すさ。皇帝は、シンカを後継者などにするつもりはない。ただ、利用したいだけだ。」
「レクト、まだそんなことを。お前は、母親のことで陛下を憎んでおるだけだろう!」
たしなめるように低くうなる元帥。
ふん、と息を荒く吐くと、レクトは冷たい視線を元帥に向けた。
「あれが後継者にする待遇か?何も知らされず監視され、無理やり地球に連れて行くことが。元帥、皇帝が認めているとは思えない。俺はシンカを自由にすると約束したのだ」
「レクト」
「太陽帝国を敵にまわす事くらい覚悟しているさ。まあ、どう歴史が動くのか、ご老体も見届けてください」
「生意気な口調は、変わらんな」
苦笑して元帥は一歩下がった。
「行くぞ」
走り出すレクトに三人も従った。
「好きにするがいい。だが、レクト。陛下にもしものことがあれば、責任を取ってもらうぞ」
背後から、メイソンが声をかける。
「殺しはしません!ご安心を」