11.地球4
シンカたちは、廃棄物処理場から、研究所の地下室にたどり着いた。
そこは、同じ地下でも白く明るく、清潔な感じだ。
「本来は、排気口を進むといいんすけど、研究所の排気は何が含まれてるか、わかったもんじゃないっすから。まあ、この時間なら、そう、人はいないっす。」
ジンロの後について、人気のない廊下を進む。日付の変わった深夜の研究所は、ただ白い灯りが静まり返った廊下を照らしている。
足元のセキュリティーセンサーも稼動している。つまり、誰もいないと言うことだ。
四人は、非常階段を使って、研究所の五階まで上がった。そこから、中央政府ビルへ続く連絡通路がある。通路は、所々、防犯のシャッターが下ろされていて、通れない。
ジンロは、防犯シャッターの脇にある、通用口を小さな機械を使って警報が鳴らないよう、器用に開放する。
後一つで、政府ビルというところで、ジンロが、三人を振り返った。
「ここからは、警備兵がいるっす。レクトさんがいるはずのとこは、二十階で、エレベーターを使うっす。
もし、エレベーター内で警報が発動したら、自動的に一番近いフロアで止まるっす。
警報を鳴らされると、そのフロアは閉鎖されるんで、廊下の天井にある排気口に隠れます。その時は、撤退っすよ。
俺たちが捕まったら、かなりやばいっすから。レクトさんと合流したら、レクトさんに従う。あの人は、ここに詳しいっす。」
だまって、三人はうなずいた。
「しかし、便利だよなぁ。」
シキがひそひそとシンカに話しかけた。
「こいつ着てれば、あのレーザー銃も通さないんだろ?」
服の下の、少しずっしりと重いベストをつついてみせる。
「通さないってだけなのよ。」
セイ・リンが笑った。
「衝撃や痛みはあるし、腹部は場合によっては被弾するわ。」
「油断するなってさ、シキ。」
「はん。お前こそ、気をつけろよ。」
そこで拳をこつんとやりあう。
「ほんとに、緊張感ないっすね。」
あきれるジンロ。
最後の通用口を開くと、四人は、ジンロのタイミングに合わせて、入り込む。
そこは、政府の職員用レストスペースで、市街を見下ろせる大きな窓に、カウンターがついている。
背もたれのないイスが幾つか並んでいる。脇に、壁に埋め込まれた飲み物のディスペンサーがある。
たしか、同じようなものが、デイラの研究所でもあった。そこを過ぎると、広い廊下に突き当たる。
ジンロが、壁の配電盤で、また、カメラの操作をする。フロアごとに制御が必要だと言う。
ジンロの合図で三人は廊下に出る。広く天井も高い。
片側が、大きな窓になっていて、市街の夜景が派手な模様を作っている。中ニ階あたりの位置に、窓に沿って手すりのついた通路がついている。
その通路は、シンカたちのいる廊下とは別の、どこか奥のほうへと続いている。誰が使うのだろう?
まるで、廊下を歩く人々を見下ろしているような、通路。
「あれは、皇帝専用の通路っすよ。あそこから、職員の様子を見下ろしているとか。」
「ふうん。」
気になりながらも、シンカは三人の後に続き、エレベーターに乗り込む。さすがに、人気はない。
警備員の巡回も、この広い建物ではそうそう、行われるものでもないだろう。
エレベーターは大人が二十人くらい乗っても、狭さを感じないくらい広い。
ジンロが二十階を選択しようとする。
「!」
ジンロが小さく舌打ちした。
「どうした?」
シンカが小声だたずねる。
「やっぱりっす。二十階は、特別なフロアなんすよ。普通じゃ止まれないっす。一つ上のフロアから、いくしかないっすね。」
「でも、二十階、点滅したぞ。」
シキが、表示板をじっと見る。ジンロも驚いて表示を確認する。
すると、エレベーターが動き出したようだ。音もなく、振動もなく、ただ、表示板の数字だけが増えていく。
「誰かが、二十階から呼んだんだわ!」
セイの言葉に、ジンロはうなずいた。
「こっちからの操作は拒否されてるっす。」
「着くぞ!」
四人は、構えた。
扉が開く。同時に、ジンロが、ナイフで突きに入る。
相手は黒い服の男六人だ。
シンカも短剣を構えて、黒服の男、大きなゴーグルのようなもので顔半分を隠している、かなり鍛えられた男に突きを見舞う。
かわされると同時に、次の動きに移る。
「その子供を殺すな!」
ガラガラした低い声がうなるように響いた。
「皇帝!」
セイ・リンが黒服の男を後ろから締めながら叫んだ。
「!」
その時だった。頭上から誰かが飛び降りる。
セイ・リンが相手していた男を一撃で倒した男は、にやりとしながら黒服の銃を懐から取
り上げる。
「レクト!」
レクトは下のフロアで見たような中二階あたりの、やはり窓際にある通路から飛び降りた
のだった。
黒服を押しのけて、一瞬シンカの顔に笑みが浮かぶ。
その瞬間だった。
ものすごい力で腕を引かれ、シンカは肩から床にたたきつけられる。
「・・つ」
すぐに起き上がれないシンカを、黒い腕が抱えて走り出す。
なんだ、・・?
「シンカ!」
シキの呼ぶ声がすでに遠い。
シンカを片腕で抱えて走るその男は異常に速い。ごつごつした腕、まるで、機械のような。
「はなせっ!」
もがいてもびくともしない。挟まれて両手は自由にならない。
皇帝は、鉄の腕を持っていた。異常なスピードも、百歳とは思えない。