10.カッツェ4
シンカは納得できない。
「でも、レクトが!」
「当然、罠が仕掛けられていると思うし、状況的に我々はかなり不利だぞ。表向きはミストレイアは動けない。つまり、何の護衛もつけられない。政治的な根回しをしてそれからにするべきだと思うね」
「確かに。俺は、何の力もないけど。でも、あいつらがレクトを捕まえている事だって、俺を捕まえようとしていることだって、合法的なことじゃないんだよね?だとしたら、なりふり構わず行動している気がするんだ。そんな相手に政治的な根回しなんて、できると思えないよ」
シンカの言葉にカッツェは首をかしげた。
「なあシンカ。相手は太陽帝国なんだ。君には実感がわかないかもしれないが、この宇宙に百以上もの殖民惑星を持っている。宇宙最大の軍隊もある。もしうまくいってレクトを助け出せたとしても、だ。彼は永久に追われる身になる」
「俺を、かくまった時点で、レクトは覚悟してたんじゃないのかな」
視線をテーブルの上に組んだ自分の手に落としたまま、シンカはつぶやくように言った。
デイラから救い出した、そのときからレクトは俺のために行動していた。そう、母さんとの約束もあるだろうけど。すべて俺のため。
「シンカ、それはないよ。いくらレクトでも一生帝国を敵に回して逃げ切れるなんて思っていないさ。あいつははじめから君をデイラの事件で死んだことにするつもりだったんだ。それが最善の策だった」
「!それ、って!?」デイラの事件?それは、最初の?
驚いた三人の表情に、カッツェは内心、面倒なことを言ってしまったと後悔していた。
「なんだ、あいつ。言ってなかったのか。……甘いな」
「それって、まさか、あの」
立ち上がって、シンカが身を乗り出してカッツェの顔を覗き込む。
「聞きたいのかな?」
カッツェは一つ息を吐く。
その緑色の瞳は三人の顔を順に見渡す。
ミンクは大きな目を潤ませて胸の前で拳を握り締めていた。
シキはシンカの肩に手を置いていた。
シンカは。テーブルに手をついて、真っ直ぐカッツェを見つめている。
話し出さないカッツェに待ちきれないのか、シンカが口を開いた。
「レクトは、仕事で。任務だから、デイラを破壊したって、言ったんだ」
「ああ、そうだね」
カッツェはうなずく。
「……その、はじめからって?」
「言ったら、俺がレクトに殺されそうだな」
「……言えよ」
シキも待ちきれなくなっている。
「言ったとして、誰一人、救われないのにか?シンカ、そんなものを君に背負わせたくなくて、あいつは黙っているんだよ」
カッツェは、ゆったりと背もたれに体を預けて、足を組み替えた。
「……それでも、俺。あの人を誤解していたくない」